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ばれ☆おど!②

 

 第2話 鬼の風紀委員VS動物愛護部


「やっぱり、ここにいたか。さあ、降参しろ!」

 そう。あの〝鬼の風紀委員〟冷泉玲奈がやってきたのだ。
 彼女は本当に執念深い。
 執念こそが、彼女を動かす原動力なのだ。

「これはラッキーだ! 吾川もここにいたか! ふたりとも観念しな!」
「一体なんのことかね。我々がいったい何をしたというのかね?」
「ふっ、とぼけるな。違反品を校内に持ち込んだだろう。この私がはっきりと見ているんだぞ!」

「こいつもか?」
 源氏はそう言うと、カン太を指さした。
「そいつのは見たわけではないが、触った感じでわかった」

「触るだと? どこをどう触ったのだ」

「だから……その……そいつの胸をちょっとな」
「なに?! これは一大事だ! 風紀委員がセクハラ行為をしたぞ!」
「してねぇよ! ふざけるな!」

「いくら男に飢えているからといって、女子が白昼堂々とそんなことをするとは。日本もついにここまできたか……。嘆かわしい」

 腕を組みながら、目をつむり、ウン、ウンと頷く源二。

 鬼の風紀委員、冷泉玲奈(レイゼイレナ)の雪のような白い顔に朱がさした。整った顔立ちを歪ませて震えている。恥ずかしさのためなのか、怒りのためなのか、あるいは両方のせいかもしれない。よく手入れされた髪から、ちらりとのぞく耳たぶまで赤く染まっている。

「キサマ……。ならばガサ入れだ。証拠品を見つけて、この屈辱はらしてくれる!」

 そういうと、彼女は部室内をものすごい勢いで物色しだした。
 すると一分もしないうちにロッカーからあのライフル銃が発見された。

「おい! こんなオモチャもってきていいのか? 学校の備品だと? ならば許可証をみせてもらおうか」
「それなら、ここにある。先生のハンコ押してあるだろ?」

 許可証をひったくり、玲奈は内容を読んでみる。

「……おい! ここにはカメラと書いてあるぞ! モデルガンとは書いてないな」
 勝ち誇った玲奈に源二は静かに微笑みながら言葉を返す。

「これは、カメラだ。私の偉大なる発明品の一つ、ライフル型撮影機(M16仕様)だ。遠距離のターゲットを、確実に仕留めることができるスグレモノだ」

「冗談はよせ。じゃあ、どうやって撮影するんだ? やってみせろ」
 すると、源二はライフルを玲奈に向けて、トリガーを引いた。

 キュン、キュン、キュンキュン

 サイレンサーにより消音された銃声が、いやシャッター音が、部室内に反響し、心臓をえぐられたような、嫌な感覚を与える。

「……そ、それで写真がとれたのか?」
「今のデータをスマホに転送してと……できた。これを見よ!」

 そこには、この動物愛護部の部室にいる、今の玲奈の姿が写っていた。
「確かに……カメラのようだ……まあ、そういうことなら、いいだろう……」
 普通にスマホで撮影した方が早い、という事実に、玲奈は気づいていないようだ。

「わが、偉大なる発明を、目の当たりにするユーは果報者よ。ははははっ」

 源二が悦に入っているのをよそに、玲奈は次のターゲットの捜索に取り掛かっていた。
 そう、カン太の例のブツの捜索だ。

 玲奈の両眼が異様な光を放っている。
 そして、これまた一分もかからないうちに、ブツは発見された。

「これは、なんだね?」

 玲奈の手にはロッカーの上に隠してあったブツがある。完全にアウトだ。
 走馬灯のように、楽しかった今までの自分の人生のシーンが浮かんでは消えた。

 カン太は思う。
(おわった。社会的に抹殺される。確実に。お父さん、お母さん、お世話になったその他たくさんの人たち、いままでありがとうございました……)

 カン太は観念した。

 その時だった。森の妖精がささやくような、澄んだよく通る声が部室中を駆け巡った。
 その場にいた全員が一斉に振り返る。
 すると、先ほど着替えていた美少女が制服姿で、そこに立っていた。
 少し謎めいていてるが、トキメキを感じさせる強烈な何かを放っている。そう。それは薔薇色のオーラで、周りがぼやけて見えたかのような感覚さえ与える。

「部長。どうかしましたか?」

 この美少女の名は、漆原うるみ(ウルシバラウルミ)。この南中の一年生。現在十五歳。謎めいたところがあるが、正義感がとても強い。

「漆原君。おはよう。ちょうどいいところにきたな。いま、我が動物愛護部に新しい部員が入部したところだ。紹介しよう。吾川カン太君だ」

 カン太はしぶしぶ、入部の挨拶をする。
「吾川カン太です……あの、よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ……あの、何かありました? 風紀委員の方がいますが」
「漆原君、そうなんだ。その風紀委員が手に持っている女性用の下着を、あろうことか、今入部したばかりの、うちの部員が持ち込んだと言うのだよ。つまり、うちの部員を変態扱いしているのだ」

 玲奈が口を挟む。
「違うというのか? こんなところに女性用の下着がある事自体が不自然だろうが」

「漆原君、ユーはよくここで着替えているよね。その時、うっかり忘れていったかもしれないねぇ」
「では、この下着はあなたのものなの?」

 そう言って玲奈は、手に持った下着をうるみに渡す。
「……そうかもしれないし、そうでないかもしれない。はっきりとは答えられないわ」
「というわけだ。証拠不十分だ。残念だったな。冷泉君。我が動物愛護部の部員に変な言いがかりは止めてもらおう。さあ、部外者は出て行ってくれたまえ」
 と言って源二はドアの外に玲奈を無理やり押し出した。

「きさまぁ、覚えてろよ! この借りは必ず返してやるからな!」
 そう捨て台詞を残して玲奈は去って行った。

〝鬼の風紀委員〟冷泉玲奈が去ると、
 うるみは手に持っている下着をカン太に手渡しながら、こう言った。

「あなたのでしょ。はい」

「ど、どうも……」
「良かったではないか、変態君!」
 うるみのまっすぐな眼差しが痛い。まさに生き恥。
 カン太は思う。
(まいった……。もう好きにしてくれ)

「こう見えても、漆原君は入学してすぐに、我が部に入ってくれたニューフェイスなのだ。君の後輩にあたる。神聖な我が部では変態行為は厳禁だ。二度とこのようなことのないように、したまえ」
「は、はい……」
 自分のせいとはいえ、こんな立場になった。

 下着を握りしめながらカン太は思う。
(この先どうなることやら、トホホ……)

 なぜか、カン太に向けられた、うるみの眼差しがやさしくなったように思えた。


(つづく)キャプチャ


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