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ばれ☆おど!③



 第3話 強制入部と初仕事


 翌日。4月21日。土曜日。
 放課後、部室に向かいながら、カン太は思う。

(今日から、部活動だ。だりー。でも行かなきゃ。抹殺される。それから絶対、あの画像データだけは削除しないと、一生あの部長の奴隷だ。クソ! なんとかしなきゃ)

 部室のドアを開けると、すでに源二とうるみは部活用のつなぎに着替え終わって、これから活動開始といういでたちである。

 カン太が入ってくるなり、
「おい、ホームルームが終わったら、Bダッシュでここにくるように言ったはずだ。遅いぞ。この変態め!」
「うっ……こ、これから気をつけます。すいませんでしたっ」

 深々と頭をさげながら、カン太は思う。
(なさけない。まじブルーになる)

「はやく、コレに着替えたまえ。これはユーのために用意していたものだ」
 源二はカーキ色の背中に動物救済のロゴが入った布つなぎと、迷彩色のミリタリーキャップと、腕につける腕章を渡す。腕章には『SUZUMEGAYA SOUTH HISCHOOL ANIMAL SUPPORT』と、刺繍文字が入っている。
 手渡された動物愛護部のユニフォームに着替えようとして、カン太はふと、手を止めた。

「あ、あのー、女子がいる前で着替えたら、セクハラ行為にならないでしょうか?」

「心配無用だ。ここにいる漆原君など、男子の前でも平気で着替えているぞ。彼女はそういう事は、いっさい気にしないのだ。安心して着替えろ」
 すらりとしたうるみの肢体は、ダボついたつなぎに着替えても、妖精のような不思議なオーラを放っている。揺れる長い黒髪から覗いた、透き通るほど白い耳が目を引く。目が合うと、彼女はそっと微笑んだ。冴えた瞳は、じっとカン太を見つめている。

 着替えはじめたカン太は思う。
(なんか、すげー着替えづらいんですけど……。女子に見つめられながらだと変に恥ずかしくなる。つーか、漆原さんは男子の見ている前で着替えても平気? ホントかよ?)

 着替え終わると、早速活動内容の打ち合わせが始まった。

「今日は吾川君の活動初日という事で、軽く活動内容の説明しながら、の打ち合わせにする。さて、我が動物愛護部ではその名の通り〝困っている動物を助ける事を使命〟としている。通常の〝募金活動〟の他に、捨てられた〝犬や猫の里親探し〟の広報や〝怪我した動物の保護及び手当〟など、他にもまだあるのだが、うちの部には〝他の愛護団体とは違う裏稼業〟がある。これから話す内容は、一切他に漏らさないと約束して頂きたい。いいかね。吾川君!」

「……はぁ、はい」

「うむ。我が動物愛護部の裏の仕事とは、動物たちになりかわって、その無念、恐怖、悲しみを代弁してやることだ。その中には当然〝仇打ち〟も含まれる。特に動物に対する虐待に関しては、我々は容赦しない。〝迅速な正義の行使〟には〝法の手続きは邪魔〟でしかない。そして、聡明な君ならわかるはずだ」

「……つまり、法律に触れてでも、動物を苛める人間を懲らしめる、という事ですか?」

「その通りだ」
 源二は強い目を向けて頷いた。

「ちょっと、そんなのお断りです。それって犯罪でしょ。高校生がなぜそこまでやらなきゃならないんですか? 冗談じゃないですよ」

「ユーには断ることはできないはずだ。この変態め!」
 と言ってスマホに転送された、例の画像をちらつかせた。そしてそれを、うるみに見せようとする。
 慌ててそれを手で隠すカン太。

「わ、わ、わかりましたよ! もう、好きにしてください」

「ご理解感謝する。では本日の活動を始める」
「………………」

「では漆原君、今日の情報提供者は?」
「はい。今回は本校の生徒からです。ニ年A組の村井麻友美さんから、うちのラインアカウントに通報が入りました。これからお会いする旨コンタクトは取ってあります。直接お会いになりますか?」

「もちろんだ。事実の確認がまず何より優先される。情報提供者のもたらす情報が果たして本当なのか、裏を取らなければならないからな」
「では、今からこちらに来て頂きます」
 と言ってうるみはスマホを取り出すと、情報提供者に連絡をとり、部室にくるよう依頼した。

 コンコンコン

 しばらくすると、丁寧に3回ノックする音がした。

 うるみがドアを開けると、女生徒がひとり入ってきた。
「しつれいしまーす。通報した村井です」

「ご苦労様です。さあ、こちらにおかけください」
 うるみが椅子を引いて座るよう促した。ちょうど、机を挟んで源二の真正面に座る格好になった。

「では、お話を聞かせて頂きます。あなたの投稿によると、最近我が校の近辺で頻繁に見られる、犬や猫たちへの虐待の情報をお持ちだとか、犯人の顔に心当たりがあるそうですね」

「……ええ、そうです。私は偶然その様子を見たのですが、犯人は私の知っている人でした。ただ、私が通報したことは、内緒にすると約束していただかないと、お話できません」

「もちろんです! 我々もそれは重々承知しています。犯人の逆恨みによって情報提供者に被害が及ぶことがあれば、我々も二度と情報提供は受けられませんから」

「それを聞いて安心しました。ではお話します……あれは確か先月のニ日の帰宅途中でした。雨が降っていたので、少し近道をしようと、今は閉鎖されている旧雀ヶ谷市立総合病院の敷地を通り抜けようとして中に入ったときでした。冷たい雨の中、ずぶ濡れで足を引きずりながらヨタヨタ歩いてくる子犬を見かけました。足に怪我をしているようでした。すると、それに続いて声が聞こえてきたんです。嫌な予感がしたので、私は物陰から様子を伺っていました」

 源二はまさに全身で話に聞き入るといった様子で、話の先を促し身を乗り出す。

「それで、そのあとは?」

「はい。しばらくするとヤンキーが数人現れて、みんなで笑いながら石をぶつけて子犬を苛めているんです。弱らせてから、じわじわといたぶっている感じでした」

「なるほど、それはひどいですね。あってはならないことです。それで犯人についてですが、心当たりがあるそうですね」

「はい。私が中学生の時に同じクラスだった八神隼人という人で間違いないと思います」
「そいつの住所とか顔写真とかありますか?」
「卒業アルバムと卒業生名簿があるのでそれで分かると思います」
「では、これから、それを拝見しにお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。よろしくお願いします」

 いやでも目立つ動物愛護部のユニフォーム。街中でも振り返る人が多い――というより、うるみが稀に見る美少女だから、というのが主な理由だろう。
 情報提供者の村井麻友美の自宅で犯人のひとりである八神の顔写真と住所を手に入れた動物愛護部のメンバーたちは、捜索を開始した。


 捜索も一時間を過ぎようとしていた時のことだ。八神の自宅近くを通過する。

「……!! あいつじゃないですか?」

 カン太がターゲットを指さしてメンバーに知らせる。
「そうだな。あいつで間違いない。ではこれより張込みを開始する」



(つづく)


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