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ばれ☆おど!④

 


 第4話 愛銃〝アンサー〟



「さあ、ユーの出番だ。吾川君。早く手柄を上げたいだろう。がんばりたまえ」

「えー? 俺一人でやるんですか?」
「そうだ。手柄を上げるチャンスを独り占めできるのだぞ! 嬉しいだろ」

「ぜんぜん。むしろ拒否したいです。部活動なんだから、もうこの辺でイイでしょう? もう家に帰ってゲームでもやりたいです」

「この変態め! そういう事を言うんだな」
 と言ってスマホを取り出し、例の画像をうるみに見せようとする。

「漆原君、見たまえ……」

「待ーったぁ、わ、わかったから……ハアハア……やめてくれ、なんでもいう事を聞きますから……」
「ユーはもう少し自分の立場を考えた方がいいぞ。浅はかな言動はユーを窮地に追い込むからな」
 カン太は思う。
(クソが、どの口が言う)

「では、ユーにはこれから毎日学校以外では、あいつが寝静まるまで監視してもらおうか」

「……わかりました」

 ◇ ◇ ◇ 


 4月27日。晴天が続く。が、別にありがたくない人間がひとりいた。そう、吾川カン太である。今日も放課後ひとりで張込みと尾行をしていた。

 カン太は思う。
(あの情報本当かな? もう一週間も見張っているのに、犬や猫を苛めるようなそぶりはないし)
 そう思っていると、深夜無人になった公園で動きがあった。

(ん? あれは? なんだ?)

 数人の仲間と一緒に、高笑いや奇声を交えながら、野良猫にエサをやっている。数分後、猫はヨタヨタして、酔っぱらっているみたいになった。

「よし、いまだ! 捕まえろ!!」

 猫も必死に抵抗しているが、数人がかりで襲い掛かられている上、薬を盛られたのか、いとも簡単に捕まってしまった。
 その猫はインシュロックで前足と後ろ足、それぞれを縛られてしまう。可哀そうな猫はその場で力なくもがいていた。

(すぐに連絡しなくちゃ!)

 カン太はスマホを取り出すと源二に連絡を入れた。
(部長はその場で見張りを続けろと言っていたけど、このままだと、あの猫はボコボコにされてしまう)
 カン太は源二たちが来る前に動き出した。

「ちょっと、お前ら何をしているんだ!」

「はぁ?」
「お前らだよな? 最近、犬や猫を虐待して半殺しにしたのは」
「ちょっと変な言いがかりは止めてくれないか?」
「僕たちが、そんなことするわけないだろ」
「よく見てみろよ。ほら、このネコ、怪我してるだろ? 治療しようにも暴れられたらできないじゃん。だからこうしてるの」
「ホントかよ。どこを怪我してるんだ」

 カン太はネコに近寄って見てみたが、どこも怪我している様子はなさそうだ。

 すると次の瞬間、
 カン太は背後から衝撃を受け、目の前が真っ暗になり、気を失う。

「バカな奴だな。まさかこんな手にひっかかるヤツがいるとは。信じられないぜ」
 ヤンキーのリーダーらしき男が、手をはたきながらヤレヤレといった様子でそう言うと、さらに、
「まあ、いいや。こいつのポケット調べてみようぜ、金持ってるかもしれねぇ」

 その時、背後で物音がしてヤンキーたちはいっせいに振り返った。

「諸君、その必要はないぞ。今のユーたちの行動はすべてこの”ライフル型カメラ”で動画に収めさせてもらった」

 そこにはアサルトライフルM16A1を抱えた源二と、サラサラの髪をなびかせながら、怒りに燃えさかる瞳で睨んでいる、うるみの姿があった。

「こっちは8人だぜ。お前たちもバカだよな。それになぁ、その動画を警察に持って行ってもせいぜい物損だ。それも持ち主がいればの話だ。コイツは野良猫だしな。いずれは保健所行き。わかる?」

 うるみの鋭い叫びが天を射抜く。

「うるさーい!! それは法律上の話でしょ? こんなこと人として許されないわ。覚悟なさい!」
「なんの覚悟だよ! たったの二人でどうするの? やられるのはお前らだ。ハハハ……」


 ズドン……

 高笑いを上げるヤンキーのリーダーらしき男の口に弾丸が撃ち込まれた。

 その一撃でその男は倒れる。残りのメンバーはいったい何が起こったのか、全く理解できていない。次々に倒れていくヤンキーたち。

「フフフ、我が愛銃〝アンサー〟の機能はカメラモードだけでない。むしろこちらの機能がメインなのだ」

 カメラとばかり思っていた源二のライフルは、強力なエアガンに切り替わっている。どうやらカメラ機能はカモフラージュだったようだ。

 数秒後、胸を押さえ苦悶の表情を浮かべている八神を残してヤンキーたちは地面に這いつくばり、激しい痛みを訴えている者、気絶している者だけになった。
「どうだね。八神とやら。射出速度が規制の三倍以上の超ヘヴィウェイトのBB弾の味は。おかわり自由だぞ」

 そう言って、源二は銃口を八神に向けた。

「さあ、答えてもらおうか。これで反省できたのかな?」

「す、す、すすすいませんでした、は、ははんせいしますた」
「そうか。骨のないヤツだな。いまどきの高校生は。もう少し歯向かってみたらどうかね」
「め、めっそうもないです、二度とこんなことはしないです、はい」
「ユーのお友達はここにいるものだけかな? 嘘ついたら、わかるな」
「は、は、は、ははい、ここ、ここにいるや、やつだ、だけだす」

 両手をあげて、許しを請うヤンキーたちを相手に、無慈悲にBB弾が打ち込まれた。全員が気絶するまで。
 彼らの不幸の始まりは、源二が〝孤高のマッドドクター〟の異名を持つ者だ、ということを知らなかったことにあった。

 事が済むとカン太の意識は戻っていた。

「部長、吾川先輩の意識が戻りました」

 カン太は目覚めると、自分を覗き込んでいるうるみの顔が目の前にあることに気づいた。
 優しげな表情をしたうるみの顔は、月光に照らされ白く輝いている。どうやらうるみの膝枕で介抱してもらっていたらしい。うるみのほのかに香る長い髪が、頬をくすぐっていた。

「吾川先輩。大丈夫ですか? 痛いところないですか?」
 カン太はうるみの膝枕の心地よさに、痛みも感じていない様子である。

「う、うん。あ、あの……」
 うるみの体温を感じながら、カン太は軽いめまいに襲われる。

「吾川君、動けるかね。今後、単独行動は絶対しないと誓い給え。われわれの稼業はとても危険だ」

「はい……」

 カン太はうるみの温もりに包まれながら、源二の頼もしさを感じていた。そして、感極まって涙ぐんだのか、一筋の涙が頬をつたった。

「では撤収だ!」


 よく晴れた深夜の空には、牛飼い座のアルクトゥールスが天頂で輝いていた。



(第一章おしまい)

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