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18禁じゃないスピリチュアル 緑のドア 〜種火

こんばんは。id_butterです。

今日もただの脳内妄想、自己満足100%でお届けするので、必要のない人は全身全霊をもって逃げてください。。。

▼前回


▼ザイオンside

女を部屋から追い出したのち、舌打ちした。

また誰かが俺の体を勝手に奪う。
こいつは、相手が言われたい言葉を言うのが得意だ。
そして、相手を依存させる。
そのせいでやっかいな面倒に巻き込まれたことは何度もあった。

けれど、今回は想定内というより、俺の意図も含んでいる。
本来俺は女相手に喋れない。
けれど、この女を取り込むには必要だったから好きにさせておいた。
わかっているのに、気分が悪い。

女たちは本当に不思議だった。
なぜ自分より、初めてあった俺の方を信じるのか。
よくわからない思考回路だった。
そういえば、過去に出会ってきた女たちはみんなそうだ。

違ったのは、サキだけだ。
あんなことがあってからも、俺と一定の距離を保ち、近づいてこない。
だから、俺はあの女が気に入っているのかもしれない。


▼アンside

男から「終わりだ」と言われ、冷や水を浴びせられたように感じた。
裏切られたような気分だ。
さっきまで感じていたあたたかさと優しさは、男から消え去っている。

慌てて、男の部屋を出る。

物足りなかった。
かゆいところに手が届きそうだったのに、届かなかったみたいな感覚。
体の奥にもどかしいような感覚が残っている。
もっとしてほしい、そう思ってしまう自分が恥ずかしくなる。

けれど、さっき感じた体の中を熱が通り抜ける感覚を忘れられそうもない。
まだ、下腹部の奥に小さな種火のような熱が残っているように感じる。
熱を追い出したくて、ため息をつく。

男の手の感触が今も残っていた。


▼ザイオンside 〜過去

アンが自分を見上げる熱っぽいあの目は、何度も見たことがあった。
初めては、10歳を過ぎたころだったと思う。

子どものころから、人の体に影が見えることがあった。
その影は、時間が経つと消えてなくなるのがほとんどだった。
けれど、影がどんどん勢いを増してその人間を圧倒するときがある。
そして、影がその人間を食い尽くしたときその人間の命が尽きることに気づいたのだ。

育った村で流行った病がきっかけだった。
そのころ、村中の人間の大半が影を抱えていた。
怖くなった俺は、両親に相談した。
「ここにいると危ない。山に移動しよう。ひと月でもいいから。」
母親は俺を気味悪がったが、父親は俺を見て言った。
「お前には、見えるんだな。」

薬師だった父親は、村を出られない。
父親に説得されて仕方なく、母親は俺と妹を連れ、山の方にあった小屋へ移動した。

数ヶ月して村へ戻ると、父親は流行り病にかかり、なんとか生きてはいたものの寝込んでいた。

「あんたのせいだ。」
母親はおかしくなっていった。
父親の収入が途絶えたので、母親は働かざるを得なくなった。
俺は毎日妹と過ごした。

ある日、川で身投げをしようとしている女を見かけた。
川の濁流に飛び込んで行こうとする女を止めたところで、女の下腹部あたりを覆う影に気づいた。
思わず「お腹だいじょうぶですか。」と声をかけていた。
それをきっかけに泣き崩れた女を連れて、近くの小屋に身を寄せた。
びしょ濡れになった服を乾かす必要があったのだ。
時間がかかりそうだったので、妹は先に家に帰すことにした。
母親に伝言を頼む。

女の服を乾かしている間、女は横になっていた。
ひどい腹痛らしく、額には脂汗が浮かんでいる。
思わず、女の下腹部の影に手をやると、女の顔がほっと緩んだ。
見ると、俺の手からは光が出ていた。
影が少しずつ女の体から離れていくのが見える。

全てを取り去ることはできなかった。
「終わった」と思ったと同時に手が軽くなり、終わりがわかった。

痛みが引いて安心したらしい女が不思議そうに俺を見ている。

「あんた、薬師さまだったの。まだ小さいのに。」
「違うよ、俺は、」
そう言いかけて、言葉に詰まる。
薬師じゃないなら、今の力はなんなんだ。

急に怖くなる。

「俺、帰らないと。明日までここで寝ていた方がいいよ。」
そう言って、引き留めようとする女を小屋において外に出た。

ゆっくりと月を眺めながら、回り道をして帰る。
頭を冷やしたかったのだ。
俺は、影をふりはらうことができるらしい。
けれどこれは無闇に使っていい力なのか?どこまで?
体がひどくだるい。
自分に扱いきれる範疇を超えているような気がしてならない。

家に帰ると、未だ寝たきりの父親を薬師が診ていた。
それが、ヒースのじいさんとの出会いだった。


▼ヒースside

見ると、アンがザイオンの部屋から出てくるところだった。
アンがザイオンを部屋に案内してから小一時間は経っている。
そんなに長い間、ふたりで何を?
小さな疑惑が頭をもたげる。

早足で歩いていくアンを追いかけ、引き止める。
「おい、どうしたんだ?アン。」
アンはビクッと肩を震わせる。
顔を伏せ、ふり返ろうとはしない姿を見て、何かあったことを確信する。

「あいつになんかされたのか。」
アンが顔を伏せたまま、首を振る。
「じゃあどうしたんだ。」
かぶせるようにアンが返事をする。
「なんでもないです。」
「なんでもないことないだろう。どう見ても、」
つい問い詰めるような口調になり、言い淀んだ。
すると、意を決したようにアンが顔を上げた。
「ヒース様には関係のないことです。」
俺を睨んでいるように見えた。
「どういうことだ。関係ないことないだろう。ずっと、」
「ずっと、なんですか。わたしはただの侍女です。昔から、今も。あの時もそうだったじゃないですか。」

どういう意味だ。あの時?
あの時とはアーニャがあの薬師の診察を受けたときのことか。
それが今のアンとなんの関係があるんだ。
混乱する俺に、アンが最後通牒を突きつけた。
「意味がわからないですよね、だからもうわたしに関わらないでください。ヒース様はアーニャ様のことだけ考えていればいいじゃないですか。」
こんな風に感情を見せるアンを見たことがなかった。

離れていくアンの後ろ姿を見ながら、考える。
さっきも同じことを思った。
サキにしろ、アンにしろ、あの男の前にいると違う人間のようだ。
今まで見たことのない表情をする。

俺は何かしたのか。
それとも何もしなかったのか。
アンの言葉と表情が脳内を駆け巡る。
俺が見たことのあるアンは、いつも笑っていた。
あんなアンの顔を見たのは初めてだ。
そういえば、あの時のアンはどうだっただろう。
思い出せなかった。

ザイオンへの疑念が燻っていた。


▼続きます



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