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18禁じゃないスピリチュアル 緑のドア 〜旋風

こんにちは。id_butterです。

今日もただの脳内妄想、自己満足100%でお届けするので、必要のない人は全身全霊をもって逃げてください。。。

▼前回


▼アーニャside

目の前で新しい薬師のザイオンとサキが話している。
サキは大人の女だ。
きれい、そう思った。
内側からやわらかい光を放っているみたいだ。
お母さんになるからなのかなとふと思う。

ヒースとは、どうなったのかな。
ふたりの間にあれから何があったのか、わたしは知らない。
というかそもそも、わたしは知らないことだらけだ。

サキがザイオンにわたしの体調や問診について説明している。
ザイオンのわたしを見る目が気になる。
会うのは初めてなのに、懐かしいものを見ているような目をしているのだ。

このザイオンのことをサキはとても信頼しているようだ。
ザイオンと対等に仕事をするサキをみて、大人になったんだな、ふとそう思った。
サキは、きちんと年齢を重ねているのだ。
わたしと違って、という言葉をのみこむ。
自分で自分を惨めにする、みたいなことはもうしない。
体の中を風が吹き抜けていく。
その風は、あの男の方向から吹いてきているような気がした。


▼ザイオンside

アーニャの能力がじいさんから聞いていた通りなのかが気になった。
今のような状態では、かなり体に負担がかかりそうだ。
でも、今のアーニャは人間としての形を保っているように見える。
こんなにやつらをまとわらせているのに?

この力は、自分の理解からすると、人間の範囲を超えている。

それとも、自分とは質や種類が違うのか?
同じなのであれば、自分の能力とは比べものにならない、高い能力だった。
けれど、それはどこに向かっている?
治療など、何かに向かっているわけではない。
けど、暴走して内側が食われているわけでもない。
だとしたら、行先はどこなのだ。

まだよくわからないことがたくさんある。
ようやく会えた目の前のアーニャは謎の存在だった。


▼ザイオンside 〜過去

川に飛び込もうとした女を、初めて「治療」をした日のことだ。
家に戻ると、知らないじいさんが寝込んでいる父親の隣に座っていた。

そのじいさんは、俺を見ていた。
「こいつか、例のぼうずは。」
見透かすような視線に思わずたじろぐ。
父が頷きながら、淡々と答える。
「あぁ、俺が死んだ後、あんたにこいつを預けたい。」
心臓がばくばくいっていた。
信じたくないけれど頭の隅で事実として受け止めている自分がいる。

「まぁ、気持ちはわかるがそう逸るな。こいつなんか言いたそうにしとるぞ。まずは聞いてやらにゃ。」
じいさんは何もかも知っているように言った。

「父さん、俺は治せるかもしれない、父さんを。」
思い切ってそう言うと、二人が困ったように顔を見合わせた。
嫌な感じがした。
じいさんの目の奥が揺らいでいる。

沈黙が重たくなる前になのか、それを破り、じいさんが話し出す。
「あのな、ぼうず。お前の持つその力はたしかに病を治すことができる。けれど寿命や運命は変えてはならない。そういうものなんだ。」

わかっていたような気はしていた、けれどショックではあった。

じいさんはこどもである俺に言い含めるように言葉を続ける。
「世の中には理というものがある。それに反すれば報いを受けるのが人間だ。分というものを超えてはならん。」

言い終えたじいさんは、湖のように静かな目でこちらを見ていた。
「でも、」
そう言い募ろうとする俺を制し、今度は父が続けた。
「ザイオン、その力はもう使うな。このじいさんが使ってもいいというまでは、使ってはならない。」

俺を見る父の目には揺らぎがなかった。
父が死ぬ覚悟をしているということ、俺をこのじいさんに託そうとしていること、俺の力を自分には使わせないということ、その全部が胸を衝いた。

結局、父の前では俺はただの子どもでしかないのだった。

当時、薬師である父の病状はその村で一番の関心事だった。
病状から、父の命が助からないものであるというのは既定路線と捉えられていた。
父はその病状が急に良くなることで周囲の視線が俺に集まることを恐れた。
寿命が決まっている以上、俺の力を治癒に使うことに意味を見い出さなかったのはじいさんも同じだったようだ。

「ザイオン、俺が死んだらお前はじいさんと村を出ろ。母さんたちはちゃんと他のやつに頼んであるから、心配するな。」

話の展開の速さに、胸が抉られたようになる。
母がもうこの話を知っているらしいこともショックだった。
二、三日前に、村のはずれで見かけた母親の姿は見間違いではなかった。
その時の母親は男と笑っていた。

父の気持ちを慮る息子を演じることすら許されそうもない。
これ以上父を傷つけるわけにはいかない。
俺は、すべてを諦めた。
俺の与り知らぬところで、もうすべて決まっていて、何も動かすことはできない。

無力な俺には、物分かりのいい息子という役割しか残されていない。
「わかったよ、父さん。」
そういうと、父はホッとしたようだった。

父はそれから1週間ほどして亡くなった。
遺言通り、俺は村を離れた。
母親と妹とはここで別れて以来、会っていない。

その後10年弱、じいさんについて薬師としての技術を学んだ。
じいさんと別れたのは、アーニャが産まれ、塔にじいさんが通うことになったからだった。


▼サキside

あと1週間もすれば、わたしは一旦薬師としての役割を終える。
代わりの薬師ザイオンは期待通り優秀だったから、引き継ぎはスムーズに進んでいる。書類の整理もほぼ終わっているし、順調だ。

けれど、落ち着かない。
目の前のザイオンが、目の端に映るアンが、さっき挨拶だけして通り過ぎたヒースが、今日は別人のように見える。

そんなことを考えていたら、こっちを見ているアーニャと目が合った。
アーニャがわたしを見て微笑む。
ふと、これでいいんだろうかという言葉が頭をよぎった。
わたしは、アーニャに話していないことがある。
よかれと思ってずっと隠してきた、けれど本当にそれでよかったんだろうか。グラグラした。
まだ、時間がある、そう言い聞かせて立て直す。

「今日は終わりか?」
ザイオンがわたしの顔をうかがって聞いてくる。
「そうね、これ以上長くてもアーニャに負担がかかるから、今日は終わりにしましょう。」
ザイオンが頷き、アーニャも目で頷く。

「じゃあお茶を入れましょう。」
後ろから聞こえたアンの声に応えようと振り返ったわたしは、愕然とした。
アンがザイオンへ向ける視線が、熱っぽく湿っている。

わたしは困惑した。


▼続きます。



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