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#66 ふたりのみゆきちゃん
こんばんは。id_butterです。
人生で最高に不幸な時に恋に落ちた話 の66話目です。
わたしは「みゆき」という女性が鬼門である。
(もし読んでいる方の中にみゆきさんがいたらすみません💦)
人生で出会ったみゆきさんはふたりいる。
その強烈な思い出について、振り返ってみる。
もしかしたら、笑えるようになっているかもしれない、無理かもしれない。
1人目の「みゆきちゃん」は、予備校時代わたしとつきあっていた彼氏と一緒にバイトをしていた女の子だ。
幸とかく。
なぜかわたしの彼氏のことが好きで、それをなぜかわたしも知っていた。
彼はよく彼女の話をした。
いつも彼を好きな気持ちが漏れてしまっているとか、どうでもいい話だ。
ヤキモチを焼いている、と思われたかもしれないがそうではない。
彼のデリカシーの無さに、ウンザリしていた。
片思いしているひとの彼女に、片思いしていることを知られたい女の子がいるだろうか。
けれど、その彼女の癖が、強かった。
彼はよくわたしをバイト先に連れて行った。
いやだったので断ったけど、何回かあった。
当然、働く彼女と何度かバッティングすることもあった。
その度に一応彼女が彼を好きなことを知らないふりをして、一応挨拶をしようとするわたしを避け続けた。
いつも、ずっと柱の陰に隠れている。
(いや、バイト中でしょ?)
幸せ、とかけまして
みゆき、と解きます
その心は、、、いつも隠れていて見えない
全然、おあとがよろしくない。笑
彼女は「彼が幸せだったらいい」らしい。
「わたしは何も望んでない」らしい。
なるほど。
別に、聞いてないよ。
彼と別れたら、彼と彼女はつきあうのかと思っていた。
けれど、そうはならなかった。
彼女は彼のタイプではなかったからだ。
でも別れてからも、彼女の話を続ける彼を嫌いになり続けた。
彼女は彼のイヤなところをわたしの鼻先に突きつける。
2人目の「みゆきちゃん」は、元夫のストーカーをしていた。
元々ストーカーだったわけではない。
わたしより前から、夫とゲーム友達だった。
AVに出演している女優さんで、とても綺麗でスタイルのよいひとだったけれど、ひたすらに男性不信だった。
夫は彼女が信じられる唯一の男性だった。
多分、「AV女優」というフィルターで彼女を見ることがなかったんだろう。
ふたりきりになっても、多分誘われても手を出さなかったんだろう。
となんとなく想像している。
いや、別に致していたとしても、いい。
わたしの知らないところで何が起きようとわたしは気にしていなかった。
彼女の存在を知ることになったのはわたしが彼とつきあうことになった翌々日くらいのことだったと思う。
突然、わたしの携帯にメールが来たのだ。
ごめんなさい。
わたしは彼と結婚することになったので、彼はあなたと別れることになると思います。
もう20年以上昔のことなのではっきりとは覚えてないのだがこんなような内容だったと思う。
わたしはびっくりして、そんなひとがいるなら別れよう、と彼に言った。
彼はわたしより驚いていた。
その反応を見て、あぁこのひとには本当に身に覚えがないんだなと思った。
当時わたしは大学の学費を払うためにキャバクラで働く貧乏な普通の大学生で、彼女はAVで主役?をはれるレベルの美貌もお金も持った女性で、わたしには勝てるところなんか何ひとつなかった。
彼を「奪われた」なら、わたしに直接文句を言いにきそうなひとだった。
その後彼から聞いた。
ゲーセンで出会って、格闘ゲーム仲間になったこと。
彼女に頼まれて、彼と彼の友達と一緒にテレビの配線を繋げてあげたとか。
彼女がナンパしてくる男性を撃退する男らしさについて。
そもそも彼は彼女が自分のことを好きだと思ってなくて「友達だよ」と言っていて、その様子には後ろめたさがかけらもなかった。
けれど、わたしは結局彼女にあったことがない。
ビデオのパッケージの写真をちらっと一度だけ見た。
「結局」と言ったのは、ほんの数年前に亡くなるまでの20年近く彼女は夫をストーカーしていたからだ。
わたしたちが結婚し、引っ越し、彼が働く場所を変えても、彼女はそこに偶然を装ってお客様として現れた。
彼はそういう彼女を友達として扱い続けた。
彼女が亡くなったと知ったのは、彼女が娘さんに渡したメモの中に彼の名前があったからである。
身内のいなかった彼女は自分の死期を知ったとき、世の中で信頼できる人は1人しかいないと言って、娘さんに夫の働く店とその電話番号を渡したそうだ。お子さんは施設に引き取られる手はずが整っていたけれど、その施設へ荷物を送るためのお金がなくて、役所の方から夫に電話が来た。
夫はわたしに黙って、そこに行き、なけなしの十万円を娘さんに渡したのだと後から聞いた。
「貸しただけだから」と言うけれど、生活費を払わない夫なのだった。
うちにも娘ならふたりいる。
人の死の間際の話で、困っているのは小さな守られるべき子どもで、とかあらゆる要素を脳内で加味してみた。
けれど、どう考えても無理だった。
人間として100点であったとしても、夫としても父親としても落第でしかなく、裏切りだと思った。
悲しいと言うこともできず、怒ることもできないまま、わたしの心のどこかが壊死した。
自分の心の狭さにもゲンナリした。
よく「優しいひとが好き」という女性がいる。
目の前でそのセリフを聞いたら、わたしは聞いてしまう。
「自分にだけ優しいひとが好き?それとも誰にでも優しいひとが好き?」
自分にだけ優しいひと、と答える友達にいったことがある。
だったら優しいという条件はいらないよ、と。
あなたのことが好きな人はあなたに絶対に優しいから、その条件は必要ないのだ。
この元夫のだらしない優しさに何度傷つけられたかわからない。
この優しさは優しさではなく、暴力だ。
けれど、こういう優しさを振り回す男性は結構多いように思う。
「釣った魚にエサはやらない」ひとはみんな外でエサをばらまいているの。
わたしがいなかったら、彼女はしあわせになれたのだろうか。
それともこんな風に思い出すことが彼女に失礼なのだろうか。
ふと考える夜がある。
そう、今この瞬間も。
娘たちは今でもパパを慕っている。
「優しいからだいすき」
そう聞くたびに心が曇る。
いつまでも知らないままで、父親をだいすきなままでいてほしい。
そう切に願う。
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