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忘れたくても残ってしまう『すべて忘れてしまうから』燃え殻

著者・燃え殻さんのことはまったく知らないでこの本を選んだ。本屋で平積みにされていた中で一番私が好きなタイプの表紙だったという理由で。パラパラと中を見ていると、短いエッセイとそれに合わせた絵が描かれていて、時々シュールな写真なんかも入っていて、「好きなタイプ」に間違いないと思って買った。そして読んだ。

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読みながら思ったのは、燃え殻さんはとても若い方なんだろうなということ。「若い」の定義は曖昧だからどう表現していいかわからないが、年齢的にいうと20代後半から30代半ばではないかなと思っていた。でも読み進めていくうちに内容からしてそんなに若くはないなと気づき始め、その時点で初めて本の最後の方にあるプロフィールを確認したら1973年生まれと書いてあるからびっくりした。「若い」というのは作品自体が未熟という意味ではない。感覚がとても若いと思ったのだ。そういう意味でもほほ〜っと感心している。

内容は彼が今までに思ったり経験したことを1項目3ページほどの長さでエッセイにまとめたもの。彼の視点がおもしろくて止まることなくページがめくられていく。先ほど感覚が若いと書いたが、感覚が今の人なんだなとも思った。私は今の人ではないので、いろいろちゃちゃを入れて装飾したくなるのだけど、自虐ネタも淡々と軽く(ある意味洒落てたり...)書いてある。要するに周りくどくないのがいいと思った。

目次を見るだけでも、すでに物語が出来上がっている。

セックスしなくてもせだった夜 逃げて逃げてがある 映画館の席は必ずに座ることにしている そもそも、エモってなんだ あなたの関節を全部ります 死にたいんじゃない。タヒチにきたいんだ 写真の中のあの人は、どんなをしていたのだろう 彼女は駅のホームで突然「バカ」と短く言った きっと今日もはリサイクルされている 偉そうにするなよ。れるから 国の彼が僕よりここに馴染んでいる 何も持たずにすべてを置いて僕たちはぬ ってほしい人がいるの ここではないどこか、僕じゃないか は似合っているか?ここに ねぇ、なんでってこないの を流している人が常に一番悲しいわけじゃない やっぱり、すぐに「わかる」って言う奴はダメだと思うんだ 新宿にさ、があるの知ってる? アラーキーよりを残す人  抗えない自分がその物語の中にいる サービスの国の住人たち MTVでも、ていけよ 俺、もう16だからタバコやめるわ勘違いしないでね、と彼女は優しく囁く ではお客様、ステージのほうへ アンタさ、つんく♂に似てる? に、忘れられない年越しになったね これは約束営業です この週刊誌、いにいくわぁ お爺さん越しに見た彼女は、やけにキレイにった エゲツない思い出は、ひとつえときゃいいヘラヘラうことが、せめてもの抵抗だった は駆け落ち、はバカンス生きていると全部が、には戻らない いつもの交差点でっています あの記憶は誰のものなのだろう 男と女は、世界でふたりぼっちだったんじゃないだろうか 僕は今でもアイスはんで食べる 今夜は、口かエロ話だけにしましょう 僕たちは出会って話をして、またひとりにる 旦那はいないから安心して 悪いことが起きる気配もなかった あの夜、『ナイトクルージング』を一緒にいた しい『フォーカス』入りましたよ 今日も誰とも会わずに一日がわろうとしている 記憶は優しいをつく はいつか知らない誰かとまたここに来る 現実は常に、陰謀論よりつまらない すべてれてしまうから

私が好きなのは...

逃げて逃げて今がある...「逃げちゃダメだ!」は自己啓発本の常套句だ。それもあるひとつの真実だとは思う。だけど、「逃げた先に見つけられるものもあるかもしれない」と注釈でいいから書いておいて欲しい。(一部抜粋)
そもそも、エモてなんだ...ネットで日々つぶやくことが大拡散される人は、エモーショナルじゃない。そんな自販機みたいに百二十円入れたらガチャンと出てくるような言葉は、エモくない。(一部抜粋)
生きていると全部が、元には戻らない...壊れた部分は壊れたまま、抱きかかえながら生きていくしかない。大きい溜め息をひとつ。今のは溜め息じゃない、大きい深呼吸だ、と自分と他人を騙しながら、今日を生きてみる。(一部抜粋)

燃え殻さんの経験してきたことは、よっぽど大会社の御曹司や令嬢でもない限り、たぶん誰もが経験している。その度にそれぞれがそれぞれのやり方でなんとか騙し騙し生きてきたし、残念ながら生きて来れなかった人もいるが、この本の最後の項に「良いことも悪いことも、そのうち僕たちはすべて忘れてしまうのだから」と書いてある。ということは、人生は絵空事ってことかなと読み終わって思った。そう思うと楽だ。子供の時に辛かったあんなことや、青春時代に苦しかったあんなことは、み〜んな絵空事。いいじゃない!それで。燃え殻さんも私もこうやって今、生きている、ちゃんと。

それにしても、私は燃え殻さんの文章が好きである。文章に合わせて描かれた長尾健一郎さんの絵も文章に負けないくらいの迫力があり、これもまた好みである。





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