母は全て知っている。
就活真っ最中の大学3年生の冬。
その頃はほぼ毎日、面接のために実家の滋賀県から大阪に電車で通っていた。
雪が降りそうな薄く曇った日に、僕は珍しく寝坊した。
「ドタドタドタドタッ!!!!!」
うちの階段は駆け降りると本当にこんな音が鳴る。
リビングに入るとそこに母がいた。
母はよく文句は言うが、怒ることはあまりない。
その日は珍しく、静かに、イカっていた。
「あんたは優しいけど、思いやりがない。」
ぼくにそう言い放った。
急いでいたので、そのときはあまり考えず、
「ごめん」とだけ言って、家を出た。
電車の中でさっきの出来事を思い返した。
うちの父は夜勤だったので、朝寝ていたはずだ。
おそらくそのことで僕にイカったのだろう。
でも、「優しいけど思いやりがない」ってどういうことなんやろ。
母のくせに深いこと言うなあ。
電車から眺める外は雪が降り始めていて、いつも見ている景色のはずなのに、異世界に行きの電車に乗っているような気分になった。
その後の面接がどうなったかはあまり覚えていない。
でも、その言葉がずっと引っかかっていた。
今でも母に真相は聞けていないが、最近わかった気がした。
実は今仕事でスランプに陥っている。
原因はこれなんだと思う。
母は当時から全てわかっていたのだ。
母はなんて偉大なんだろう。
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