見出し画像

第三章数学と幽霊Ⅱ、第十三話 愛光女子学園-恭子と順子

さて、やっと純知性体の登場で、話の骨子が明確になった。順子と恭子の前回までのお話は、こちら。

第三章 数学と幽霊Ⅱ
――――――――――――――――――――――――――――
性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第三章十三話 愛光女子学園-恭子と順子

第十三話 愛光女子学園-恭子と順子
第十四話 恭子
第十五話 邪教

愛光女子学園

 愛光女子学園は、東京都狛江市にある東京矯正管区所属の女子少年院だ。関東・甲信越および静岡の家庭裁判所に少年院送致を言い渡された十四歳以上、二十歳未満の女子少年を収容する女子少年院で、国内で最初に設立された女子少年院だ。収容期間が比較的短い少女が多く、覚醒剤などの薬物関係による非行事実で収容される少女が多い。建物が図書館のようだ。

 私、敏子、恵美子は、同じ日の入所だ。愛光女子学園に着いて、すぐに保健室に連れて行かれ、身体検査された。

身体検査

 女性担当官が、「着ている服全部脱いでね、恥ずかしいけど我慢しようね」と口調は優しく言う。私たちは着ている服を全部脱がなければならない。もちろん、更衣室の個室などない。同じ入所者たちと女性担当官の面前で全裸になるのだ。

 私は、自分の体に劣等感を抱いている。敏子のように高身長でスタイルがよくもなければ、恵美子のように出るところが出て、くびれるところがくびれている男心をクスグル体じゃない。ロリのチビで、貧乳の、多少顔が可愛い元高校生なのだ。

(クソォ、私の裸を見たやつ、全員、殺したい!)

「ブラジャーとパンツも脱いでね、すぐ終わるから」と女性担当官に言われ、生まれたままの姿になった。担当官の前でバンザイして一回転。両手で前を隠すことは許されない。あそこもお尻も丸見えだ。

(この女性担当官、私の胸見て笑ったな?貧乳で悪かったな?今にお前も殺してやる!)

「足をひらいてしゃがんでね。しっかり足開いて深くしゃがんでね」「スクワットしてね」「しゃがんだまま咳をしてね」次々と指示をされる。「そのまま前かがみになって牛さんのモーって鳴く真似をしてね」足をひらいて、前かがみになる。牛の鳴く真似?括約筋が締まるとでも言うのだろうか?

(この野郎!私のケツの穴からオ◯ンコまで丸見えじゃねえか?クソッタレめが!)

「お尻を開いて見せてね。もっと開いて。すぐ終わるから我慢してね」と言われ、自分の手で左右のお尻の肉をつかんで、担当官にお尻を突き出し、尻の穴を開いてみせた。

「恭子ちゃん、ダメよ、そんな開き方じゃあ。もっと、左右にガバァ~と開いてね。もっと、奥まで見えるように」担当官が私のケツの穴やオ◯ンコに何か隠しているんじゃないか?と疑っている強い視線を感じた。「はい、終わりです。この服に着替えてね」とダサい制服を渡された。

(この屈辱は忘れねえぞ!クソッタレども!しっかし、敏子も恵美子も平気な顔してケツの穴やオ◯ンコ見せてやがる!こいつら、あったまきてないのか?クソ野郎ども!)
※ 参照:第二章六話 高校三年順子、恭子

 週三回しかないお風呂の時も、いちいち裸でボディーチェックされた。トイレもドアが小さいので上から用を足している様子が丸見えだった。拭くのもちり紙だ。二十一世紀の現代で、トイレットペーパーではなく、ちり紙を使っているとは。備えているちり紙も枚数が少なく材質が悪いので拭きづらい。

 プライバシーなど全くない。恥ずかしいなんて言っていられないのだ。脱いだ服は全部退院するまで取り上げられて、所内では下着まで決められたものしか着ることができなかった。

婦人科検診

 入所してニ日後に、婦人科検診を受けさせられた。あの、脚を強制的に拡げさせられる内診台で検査した。オ◯ンコに女医が指突っ込んできた。彼女は情け容赦無く、ステンレス製の膣拡張器(膣鏡、クスコ)をオ◯ンコに挿れて、私の中を見られた。それから、お尻の穴に指を突っ込まれた。性病を持っていないか検査しているそうだ。ガラス棒突っ込まれて、体液を採取された。血液検査も受けさせられた。性病が見つかると、他の入所者と一緒にお風呂やプールに入れない。

(馬鹿野郎!私は、たかが、女子高生や女子大生をヤク中にして、売春させただけじゃないか?たった、それくらいだろ?智子だって、金は入る、オジサマたちとセックスして、楽しんでたじゃないか?私がなんの悪いことをしたっていうのさ?)

女子少年院

入院時の年齢は15歳~19歳。構成比は

15歳 13%
16歳 20%
17歳 29%
18歳 19%
19歳 16%

だ。

 成年に近い女子少年が増えている。担当官によると、かつては「大人になるまでに悪いことは辞める」「適当な年齢で足を洗う」といった風潮があったそうだが、そういった価値観がなくなり、成熟度が低くなっている傾向にあるのではないか、とか言っている。ロリの私に成熟度なんて関係ないよ。

 女子少年院は、成人の刑務所の少女版ではない。成人の刑務所が入所する期間は罪により人それぞれなのに対して、女子少年院はあくまで矯正のための教育施設なのだ。一度入ると出るまでには1年弱という単位がほとんどである。愛光女子学園の場合は、十ニヶ月という単位がベースとなる。

 入院から出院までの流れは、三級から始まり一級を迎えると審査があり、出院となる。三級は「自己の問題改善への意欲の喚起を図る指導」として約ニヶ月、ニ級は「問題改善への具体的指導」として、職業指導なども含めた教育がなされるのが約六カ月、一級は社会生活への円滑な移行を図る指導として三ヶ月を過ごす。問題行動を起こすことなく優良な成績で過ごしていれば各級の期間が短くなることもあるが、逆に問題行動があったり、社会生活への移行が懸念されたりする場合などは延長されることもある。

 生活指導は、薬物、家庭、交友関係、暴力など、本人が送致される原因となった問題別のクラス編成で、薬物非行防止指導・社会適応訓練や、親子ワークショップ、性教育など、一人ひとりが出院した後に再犯をしないために必要となる知識や行いについて学んでいく。

出所予定

 クソォ、私はこんなところをサッサと出てやる。ぶりっ子は得意なんだ。

「自己の問題改善への意欲の喚起を図る指導」だって?ようするに反省しているフリをしていりゃあいいんだ。問題を起こさず、ただただ、悪うございました、もうしませんと恭順していればいいんだ。名前が恭子だから、恭順するフリなんて簡単だよ、アホ。三級を一ヶ月で終わらせてやる。二級だって、教育過程の成績次第だろ?知能指数はいいんだ。敏子や恵美子と違うぜ。二級だって四ヶ月で終わりだ。一級も簡単だろう?出所した後の具体的な生活方法を担当官に話してやって、もうしません、と納得させれば良いんだ。これだって、二ヶ月だ。合計、七ヶ月で出所してやるぜ。最短は半年で出所できたっていう子もいたそうだしな。

日課

 愛光女子学園の少女たちは、平日は時間割に沿って規則正しく過ごす。男子の少年院と比べて、時間割はさほど変わらないが、職業訓練の内容に介護福祉や手芸、体育授業の中にエアロビクスのメニューがある。

07:00 起床、洗面、清掃
07:30 朝食
09:00 朝礼・運動
09:30 職業指導、教科指導
12:00 昼食、余暇時間
13:00 生活指導(特定指導課、社会適応訓練講座、被害者講座、集会、進路講話)、体育指導
16:00 洗濯・入浴
17:00 夕食・休憩
18:00 課題学習・余暇時間・日記記入等
21:00 就寝

四人部屋

 部屋は四人部屋だった。ポッチャリしているのがボスのようだ。そのボスの子分の痩せた出っ歯がナンバー2だな。もう一人は陰キャのいじめられっ子のようだ。コイツが一番可愛くて、おとなしい。だから、ブス二人にイビられているんだな?

 ポッチャリがえらそうに「おい、新入り、自己紹介しろよ」と私に命令する。このデブ野郎!と思ったが、おとなしく自己紹介をした。
「へぇ~、薬と売りで入ったのか?ロリのくせにやることやるじゃねえか?」とヤセが言った。
「高校の姉さんの言うとおりにしただけなんです」と答えた。「フン、ここでは私の言うとおりにするんだよ、恭子ちゃんよ」とデブが言う。「わかりました」と腸が煮えくり返るが、おとなしいふりをした。

 夜九時に就寝のチャイムが鳴る。布団は四組あった。左から私、デブ、ヤセ、カワイコチャンの順番で横になった。十時に担当官の見回りがあった。

 その後、案の定、デブが私の布団の中に移ってきた。体を弄られる。デブの耳のそばでため息をついて息を吹きかけてやった。唇を近づけてきた。舌を絡めてきたので吸い付いていやる。(こいつはタチか?ネコか?デブのポッチャリブスはたいがいネコだけどな?)と考えて、デブのオ◯ンコを触ってやる。腰を使ってよがりだした。ビンゴ!こいつはネコだ!じゃあ、この恭子さんが虐めてやろうじゃないか?

 横では、ヤセが私らのやっていることで興奮したのか、カワイコチャンの布団に入ってゴソゴソしだした。カワイコチャンがヤセに攻められているようだ。おとなしそうだもんな。こんなところでレズを覚えさせられて可哀想だな、と思った。

 一時間くらいデブを虐めてやる。このデブ、腋臭か?臭いな、と思ったが我慢した。オ◯ンコも変な臭いだ。敏子がいればなあ、と思った。デブは、体を痙攣させて横たわっている。こいつ、マグロだよ。受け身だけじゃねえか?

 数日間、デブ、ヤセとやって、二人共体をトロトロにしてやった。筋金入りのレズの私をなめんなよ、アホども。アホどももわかってきたようで、私は部屋のボスになった。昼間から私を舐めるように見るほどになる。二人の料理が終わったので、カワイコチャンもいただいた。デブ、ヤセはマグロだが、カワイコチャンはちゃんと私に奉仕してくれた。なかなか見どころがあるじゃないか?

 一週間経った。担当官の評判も上々だ。平身低頭、反省の色を見せて、もうしません、立ち直れます光線を出した。廊下を歩いていると敏子と恵美子に出くわす。「どう?調子は?」と聞くと、「なかなか慣れなくって」と二人共言う。担当官への印象を良くするテクニックを教えてやったがあいつらうまくできんのかな?

順子

 玄関前を横切ると新入りの集団が入ってくるのが見えた。俯いていた一人が顔をあげた。後藤順子だった。思わず順子ネエさんと思ったが、おっと、私らは敵だったっけと思い返した。順子は私の顔を見たが、別段表情を変えるでもなく、また、俯いてしまった。

 私は、毎日、美久、楓、節子、佳子の顔を思い出し、あいつら出たら覚えておけよ、ギタギタにしてやる、と夢想した。紗栄子は死ななかったようだ。かなり蹴ったんだがな。タフなヤツだよ。しっかし、特に、楓、あのノッポ野郎、私を石でぶん殴って気絶させやがった。許さねえ。
※ 参照:第二章十一話 高校三年順子、決戦

 ぶりっ子作戦がうまく言って、自分で思った予定通りに、一級まで五ヶ月で終わって、七ヶ月で出所できる目処がついてきた。驚いたことに、順子はぶりっ子じゃない本当の模範生として、半年で仮退院(仮釈放)になってしまった。まあ、美久の元妹分で、元々が優等生なんだから、仕方ねえか、と私は思った。

 私もあと一ヶ月で出てやる。出たら、美久も順子もギタギタだ、とそれだけを楽しみに私は耐えた。

保護観察

 収容期間を満了して矯正施設から出所した人間は、保護観察が受けられない。矯正施設を出所した人間が、保護観察による指導や援助を受けられず、社会への適応が図られないまま再犯に至ってしまうことは、出所した本人、社会の両者にとって不幸なことだそうだ。仮釈放の制度は、矯正施設に収容された人の更生を助け、再犯を防止して、社会を保護することを目的とした制度だという。どっちにしろ、私らは信用されていないんだ。まあ、信用しろったって、自分でも自分が信用できねえよ。

 保護観察の場合、保護観察官や保護司から生活指導等を受けながら、自分の犯罪や非行について反省を深めて、更生に努めていくことになる。仮釈放期間中に違法行為等があった場合には,仮釈放等を取り消され,再び矯正施設に戻されることがあるのだ。

画像1

紗栄子の出迎え

 順子は、愛光女子学園の門を出た。園の正面道路は公園通りという二車線の狭い道路だ。愛光女子学園と保護観察所には、実家の住所を伝えてあるが、むろん、家族は迎えに来ているはずがない。高校に復学するのか聞かれたが、退学して、仕事を探す、と報告してある。

 誰もいないと思っていたが、門のすぐ横に見慣れたオートバイが止まっていた。黒尽くめの格好をした紗栄子がバイクにまたがっていた。
※ 参照:第二章八話 高校三年順子、紗栄子と順子

「順子ネエさん、迎えに来たぜ。乗れよ」とヘルメットを放り投げられた。紗栄子は「あんたの実家に連絡したら、迎えに行く気もなければ、実家に住まわす気もないって、私を怒鳴りやがったぜ。それで、じゃあ、私の知り合いのところに住まわせて構わないか?って聞いたら、どうにでも勝手にしてくれ、ってんで、北千住のお巡りと北千住の保護司に連絡して、私の知り合いの住所を伝えておいたよ。これから北千住の保護司のところに行って、出所報告と保護観察の相談をしようぜ」と言う。

「おい、紗栄子、余計なことしてくれるじゃないか?」
「ああ、私はおせっかいな女だろう?いいじゃあないか?どうせ、あてはないんだろう?仕事先も紹介してやるよ」
「おまえの知り合いのところってどこなんだ?見ず知らずの家なんか転がり込めるかよ!」
「見ず知らずじゃないぜ。保護司に報告したら連れて行くからな。こんな少年院の門の前でガァガァ文句垂れてないで、乗れよ、ネエさん」

保護司

 強引にバイクに乗せられた。紗栄子は愛光女子学園から甲州街道に出て、首都高中央環状線を通り、千住新橋料金所で降りた。荒川の土手を走って、荒川を尾竹橋で渡った。墨堤通りを通って、千住桜本町のマンションに連れて行かれた。エレベーターでマンションの四階の部屋に行く。紗栄子がドアベルを鳴らして「後藤さんを連れてきました」と言った。

 ドアが開くと、そこは選挙事務所のようだった。三十代の男性が玄関に出た。「ああ、いらっしゃい。お待ちしてましたよ」という。男性と一緒に出てきたのは、分銅屋の女将だった。順子は驚いた。

「順子ネエさん、この人があんたの保護司だよ。足立区区会議員の近藤さんだ。そして、女将さんがあんたの保護観察の保証人で、住所は女将さんの家だよ。それで、あんたの仕事は分銅屋の女将代理だ。節子と仲良く仕事するこったね」と紗栄子が言う。

 順子は話についていけなかったが、近藤議員に「後藤順子です。話がよくわからないのですが、今日出所しましたので、ご挨拶に伺いました」と挨拶した。

「まあ、後藤さん、お上がりください」と言って、居間に通された。壁には議員の選挙ポスターや政治スローガンが貼ってあった。

 議員が女将さんに「吉川さん、この経緯をあなたから説明してもらった方がいいでしょうね?」と言った。
「そうね、順子ちゃん、久しぶりね。あのね、紗栄子があなたの実家に連絡したら、出所してもあなたの面倒をみないって言われたのよ。後藤家の恥だって。それで、私が実家に行って、私が引き取ります。分銅屋で働いてもらいます、よござんすね、って言ったの。紗栄子に聞いたら、保護司は近藤議員だって言うじゃない?北千住は狭いわよね。近藤議員は私の元カレのお兄様なのよ」と女将さんはイタズラっぽく舌を出した。「そういうわけで、あなたさえ良かったら、ウチに住み込んで、節子の手伝いをして頂戴。私は博士号取得で忙しいのよ。お給金はあまり出せないけどさ」

「女将さん、私なんかにそんなお世話を受ける資格はありません」と順子が言う。

「資格とか、堅苦しいことをいいなさんな。近藤議員としても、あなたがウチに住み込みで分銅屋の手伝いをするなら、保護司の役割が軽くなるのよ。それに保護観察の身分だと、正直な話、仕事先を探すのも苦労するのよ。分銅屋と私を助けると思って、うんと言って頂戴」
「わ、わかりました。分銅屋で働かせていただきます。よろしくお願いいたします」と順子が女将さんと近藤議員に頭を下げた。

「まあね、外堀を埋めちゃったけどね。お節介だよね、私も。お節介のおばちゃんと思って諦めておくれ。実はさ、実家に言って、順子ちゃんの荷物ももうウチに運び込んであるのさ。千住っ子は手回しがいいんだよ」と女将さんが言う。

「女将さんには敵わないなあ。紗栄子、これはおまえのアイデアなのかい?」と順子が紗栄子に聞くと「へへぇ、実はね、これは美久ネエさんの悪知恵だよ。最初は美久ネエさんの不動産屋って話だったんだけどね。女将さんが、あら、ならば、分銅屋で、って話になってさ。女将さんと一緒に美久ネエさんもあんたの実家に行って、『順子は私の妹分です。面倒を見させてください』って頭を下げたんだ。まあ、分銅屋も十九才の節子と二十才の順子ネエさんの二枚看板で若返って、若い客も増えるぜ」

「紗栄子、あんた、若返るとか、どうせ、私はアラフォーのおばちゃんですよ。フン!」
「まあ、女将さん、拗ねないで。順子ネエさんは和服が似合いそうだよ。なんせ、美久ネエさんの次の別嬪は順子ネエさんなんだからね。節子が悔しがるぜ」

 近藤議員が「こりゃあ、分銅屋に行く機会が増えそうだ」と言うと「あら?哲也さん?年増の私じゃダメなんですか?」と女将さんがむくれた。

 順子はちょっと涙目になって「みなさん、よろしくお願いします」とまた頭を下げた。

画像2

五芒星

 順子は、もう一人の純子と妹の直子との出会いが、どのような結果を招くのか、まだ知らなかった。ベータβ3とデルタδ3とも。

五芒星4


サポートしていただき、感謝、感激!