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本田翼がキーエンスを受けた話 ①

序章

こんなタイトルにしたらいつか本田翼に名誉毀損で訴えられそうだなと思いつつ、僕から本田翼を抜いたら“カニバリズム”しか残らないのでこのタイトルにした。

勿論分かってると思うが、本田翼はキーエンスを受けていない。本田かにばりずむ翼が受けてきたのだ。

そういえばこの『本田かにばりずむ翼』という名前、かなり気に入っている。僕のツイートをRTした人に「名前のインパクトが強すぎて、ツイート内容が全く入ってこない」と言われた。要は僕のツイートは名前負けしてるのだ。千原ジュニアに名前をつけてもらったんだから仕方がない。

昨日足を大火傷したせいでベットから出ることができず、バイトも休みにして今日1日暇だったのでダラダラとこのnoteを書いてみた。

だから暇な人だけ読んでほしい。

本当に面白い話ではない。小説風に書きたかったのだけれど、普段から小説を読んでないせいで書けなかった。悲しい。




1 絶望の2月上旬

2020年2月。研究室の同期はゼミや学会、先輩は修論発表会に追われている中、僕は絶望していた。周りは全く就活ムードではないこの時期、既に僕は第一志望の企業から「不採用」という烙印を押されていたからだ。

1月の終わりに富士フイルムの早期選考に落ちた僕は、この世の終わりかのような顔をしていたに違いない。長いこと禁煙していたのに赤マルを買ったのを覚えている。どんなにニコチンを体内に入れようが、僕の精神は安定しなかった。いつも5ミリを吸っていたが12ミリに変えた。富士フイルム教の僕にとって「富士フイルム 不採用」の文字はあまりに重すぎた。

「富士フイルムどうだったの?」

研究室の先輩が喫煙所で尋ねてきた。仲の良い先輩だ。一番仲がいいかもしれない。頭も良くてイケメンでコミュ力もある。超可愛い彼女さんまでお持ちだ。理系院生とは到底思えない。

まぁ、こうでも書かなければ僕のフォロワーにいるので後で殺される。勿論彼女はいない。

「......落ちましたわ」

たばこの煙を肺一杯に吸い込み、息を吐くと同時に言葉を発した。そうでもしなければこの言葉は出てこなかった。それほど僕のメンタルはやられていた。

「あら...それは仕方ないね。やっぱり、テストセンターダメだったんだ?」

実は、僕は富士フイルムのテストセンターを早期選考の段階で2回受けている。1回目のテストセンターがボーダーに届かなかったので、もう一度チャンスを貰ったのだ。情けでもかけられたのかもしれない。詳細は富士フイルムのnoteを読んで欲しい。

この先輩には1回目落ちたことも、2回目を受けたことも全部伝えてある。

いい先輩だ、いろいろ相談に乗ってもらった。この時期に研究室同期に早期選考受けるなどとは言いづらいので、先輩に聞いてもらっていた。先輩は何を吸ってたかな。確かウィンストンだった気がする。 

「かにばりずむさ、やっぱ麻雀やったのが問題じゃないの?」

思い出した。1回目のテストセンターの前日、僕は麻雀をしていた。確かラスもなくていい日だった。

1月の僕は本当にやる気がなかった。学会が終わり完全燃焼してるときに富士フイルムの早期選考に呼ばれた。富士フイルムから早期選考のお誘い電話がきたのは1月8日だった。一生この日は忘れない気がする。電話内容もほぼ覚えている。

「かにばりずむ君ってうちが第一志望かな?もし第一志望だったら、奨学生選考でうちを受けてほしいんだ」

人事からこんな感じのことを言われた。本当に嬉しかった。何故ここで調子に乗ってしまったんだろう。アビームごときのボーダーを超えているからってろくにテストセンターの勉強をせずに、研究のストレスを吐き出すかのように1月は麻雀をやっていた。年末年始ずっと研究室に行ったストレスは半端なかった。その結果がこれだ。因果応報だ。念のため言っておくと、アビームのことをdisっているわけではない。アビームの『テストセンターのボーダーの低さ』をdisっている。

たばこを吸い終わった。
重たい脚をあげて学生室に僕は戻った。
先輩にいろいろ相談に乗って貰ったと言ったが、相談したのは麻雀の話だけだったかもしれない。





2 テストセンターに明け暮れた2月

あれから一ヶ月がすぎた。気がつけば3月になった。富士フイルム教から破門された後、僕はテストセンターの勉強に明け暮れていた。2月は研究とテストセンターしかやってなかったと言っても過言ではないと思う。

テストセンターにはどうやら高得点基準というものが存在するらしい。21卒で同じく就活をしているおもち君が言っていた。彼はテストセンターの偏差値が80近くあるらしい。控えめに言って化け物だ。僕の偏差値はいくつだろうか。たぶん20あればいい方だろう。

「テストセンターの言語がネック」

富士フイルムの人事から言われた言葉がいつも頭をよぎる。何をしていても頭をよぎる。富士フイルムと僕は共鳴周波数が同じなのだろうか。そうであれば何故不採用になったのか。甚だ疑問である。何を言ってるのか分からないと思うが、僕も何を言っているのか分からない。

それにしても、2回もテストセンターを受けて2回ともボーダーに達しないということは、よほど言語能力がないらしい。本当に日本人なのか疑うレベルだ。よくその言語能力の無さを自覚していながら、こんなものを書いてるなと思ってる。

「テストセンター高得点基準」によると長文・抜き出し・チェックボックス×2が問題で出題されれば高得点だそうだ。必死にテストセンターの勉強をした甲斐もあって、僕はすでにこの高得点を叩き出すことに成功していた。

富士フイルムに落ちた理由がテストセンターと分かった段階で、僕はテストセンターが受けられる企業を片っ端から探した。せっかくだから当時の僕のメモを貼っておこう。

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「こんなに受けられるじゃないか!」

一瞬そう思ったが、これは本選考なので基本的にテストセンターを受けられるのは3月からの企業が多い。2月中に受けられたのは、アビームとNRI、それからキーエンスくらいだった気がする。アビームは既に受けてしまったので、NRIとキーエンスを受けることにした。

キーエンスはまず説明会に脚を運ばないといけない。説明会に行かないと選考がスタートしないのだ。

説明会は2月の終わりにあった。よくある説明会だ。まず全体の説明があって、それから時間を区切ってブースにいる技術系社員のお話を聞く。大して興味もないので最初はボケーと聞いていたが、予想以上に楽しかった。直近で最後に参加したメーカーの説明会が鬼のようにつまらなかったことも理由の1つかも知れない。TERUMOというんだが。

キーエンスの説明会がどこで行われたかは忘れてしまった。確か丸の内だった気がする。よく丸の内OLになりたいって言ってる輩を見かけるが、僕の見た限り死んだ魚の様な目をしているOLが歩いてた気がする。

「うちの製品を見たことがあるという方、手を挙げて貰ってもいいですか?」

全体説明会の初めに司会者役の人事が声を発した。キーエンス製の蛍光顕微鏡をカタログで見たことはあったが、実際に見た訳ではないので僕は手をあげなかった。そもそもどれがどこのメーカーの製品なのか、あまり気にしたことがないので分かるわけがない。本当に理系・メーカー志望なのか怪しくなってきた。勿論、キーエンス志望でもないのでキーエンスの商品も知らない。

「あ、みなさん弊社の製品を見たことがあるんですね!嬉しいです!」

ほぼ全員手をあげた。嘘をつけ。
普段生活してて「あ、あれキーエンス製のセンサじゃん」なんて思ったことがある奴いるなら尊敬しかしない。そもそもどこでそんなものを見るんだ。図書館のバーコードリーダーとかか?

首を回して手を挙げた学生を確認したが、そもそもキーエンスの説明会は僕の知ってる技術系の説明会ではなかった。気のせいかも知れないが、体育会系っぽい、肩幅が広くいい色に日焼けをしている学生が多い気がする。僕の研究室の同期が色白すぎるだけかも知れないが。お前らこのnoteを見ているのなら、ちょっとは外にでろ。

まぁそんなこんなで説明会は終わった。仕切りに「ブラックではない」ことをアピールしていたことだけは鮮明に覚えている。話を聞く限り、1製品に対してハード設計やソフト設計、企画など、各職種ごとに大体1名であたるらしい。確かにやりがいもあるし責任感や裁量権もある気がするが、まぁ大変だろうなという感想しか出てこない。

とりあえず説明会は出たので、テストセンターを受けることができた。そしてテストセンターも無事に通過し、キーエンスの1次面接に案内された。受けるかどうか悩んだが、他のメーカーの面接練習になるだろうと思い、1次面接を受けに行くことにした。





3 敗者復活戦

3月に入り、研究室のメンバーも本格的に就活モードになり始めた。かなり遅いと思うかもしれないが、メーカー志望の理系院生なんて毎年こんな感じだと思う。夏と冬に長期インターンに参加して早期選考に乗り内定を取って残りの学生生活は研究をする。例年そんな感じだった。一部のコンサル志望やシンクタンク志望なんかは別枠だが。

ただ、今年の就活は例年と違い、’’やばい雰囲気’’がかなり漂っていた。コロナウイルスによるものだ。

まず大学の学内説明会が全て中止になった。これは衝撃だった。弊学の学内説明会は例年、OBOGが来てくれて企業で現在やっている仕事内容をポスターやプレゼンで発表をしてくれ、名刺を頂けたり懇談会で親睦を深めることなどができる。今までインターンに参加できず、企業研究もできていなかった学生にとってはパラダイスのようなイベントだ。「そんなに何もしてない奴いるのか?」と聞かれそうだが、普通にいる。博士課程に進む気もないのにただ就活をサボってきた奴もいるが、大半は研究が大好きでずっと研究をしていた奴、もしくはブラック研究室で何一つ就活をさせて貰えなかった奴だ。

ただ、今年はこれらが全てなくなったので本当に大変だったと思う。確かリクナビ・マイナビの合同説明会も3月から中止になり、メーカー各社がやっている説明会も中止またはオンライン開催になったので、今年就活の準備をしていなかった理系院生はかなりキツかったと思う。何人か未だに進路を聞けていない同期がいるが、みんな上手くいってることを願ってる。

ただ、色々なイベントが中止される中、例年よりも早いペースで囲い込みをする企業もあった。研究室の同期もとあるメーカーに囲い込みをされて内定を貰っていた。

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そんな堅苦しい雰囲気で始まった3月だったが、肝心の僕は調子に乗り始めていた。実は3月初めに富士フイルムの人事から電話があった。

「かにばりずむ君には、本選考を是非受けてほしい」

正真正銘のラストチャンスがやってきた。早期選考で落とされたので、もしかしたら本選考を受けることすら叶わないのでは...?と危惧していたが、大丈夫だった。敗者復活戦に呼ばれたのだ。

「前も言ったけど、かにばりずむ君はテストセンター言語がネック。だからちゃんと勉強してきてほしい」

大丈夫。もうボーダーは超えてるはず...
ただ自信はない。2回もテストセンターで落とされて自信のある方がおかしいと思う。

「かにばりずむ君のテストセンターの結果を事前にこっちに送って貰えればボーダーに達してるか確認できるけど...うーん...やっていいのかな...」

人事にこんなことまで言っていただいたから、この時の僕は「まだ優遇されているという優越感」にでも浸っていたのかもしれない。少しは不安だったが、正直テストセンターのボーダーには自信があった。だからその提案も断った。今となっては、人事が本気で確認してくれるつもりだったのかは分からない。だけど、もう企業研究は完璧だし、技術面接は早期選考の時に評価して貰ったし、テストセンターのボーダーにも問題はない。一切の死角はないつもりだった。

「ところで今回電話したのは、かにばりずむ君に2つ伝えたいことがあったからなんだ」
 
「1つ目は、さっきのテストセンターの勉強をしてね、という話。もう一つは技術面接の話だ」

ここで僕は技術面接に関して色々と衝撃を受ける。当時のツイートが残っているので貼っておく。

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これに関しては技術面接のnoteに書いてあるので気になる人はそっちを読んでほしい。

富士フイルムの人事からの電話を切ったあと、僕の体は興奮に包まれていた。もう一度チャンスがある。まだ優遇して貰えてる。色々な感情が僕の中で蠢いていた。

テストセンターはキーエンスで受けたものを提出することにした。電話があった当日に提出した。

さて、明日はキーエンスの1次面接だ。研究室でコーヒーを飲み、興奮を抑えながら考えた。研究室の先輩曰く、キーエンスの面接は「頭の回転力」と「地頭の良さ」が主に見られると言う。どちらも大して自信はなかったが、何も準備しないで面接した方が面接練習になると思い、面接形式すら知らないまま特攻することにした。




4 苺大福の1次面接

景色がめちゃくちゃ素晴らしい。

キーエンスの1次面接はお台場のビルで行われた。待合室に入った瞬間、前方の巨大窓から見えるお台場の景色。圧巻だった。思わず写真を撮ってしまった。

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待合室で待機していると受付の女性が入室してきた。僕に2枚の紙を渡し、次のように話しかけてきた。

「この紙に書かれている文章を読み、その上で解決策を模索し、もう一枚の紙に書き込んでください」

女性がなんと言ったか正確には覚えていないが、こんな感じだったと思う。勿論こんなケース面接のようなことをするなんて知らないので、とても心が躍った。モドキではあるが、ケース面接を一度はやってみたかった。


A4両面の紙には、とある和菓子屋の話が書かれていた。問題文は2部構成となっており、「和菓子屋の店舗情報」と「和菓子屋の店長と店員による売上減少の原因解明のための議論」が書かれていた。書かれている内容を簡単にまとめると「店の看板商品である苺大福の売り上げが下がった。その原因を解明しろ」だ。回答できる原因は1つだけだった。

読んでて思ったが、これは多分完璧な回答は存在しない気がする。どう答えても何かしらの穴があり、「これが売上が下がった原因である」といったものは断定できなかった。少なくても僕にはできなかった。もしかしたらケース面接とはそういう面接なのかもしれない。ある程度の仮定をおいて議論するんだろうか。ケース面接は初めてなので右も左も分からなかった。というか技術面接以外の面接が初めてだった。インターンの面接も技術面接メインだったので。全てが初体験だった。

試験時間は30分ほどで、最終的な僕の回答は「苺大福屋の近くにある学校の学生が利用しなくなったから」だ。特に可もなく不可もない回答だと思う。ただこの回答にも穴があるのでそこをどう説明するかを考えていたら30分が経過していた。

回答を書き込んだA4の紙は受付の女性に回収され、その後すぐに面接室に案内された。ここで初めて気がつくのだが、キーエンスの一次面接はグループ面接らしい。もう一人面接室に学生がいた。イケメンなので多分慶應な気がする。感だ。

イケメンは慶應、可愛い子は上智か青学。面白い奴は関関同立。就職活動を通して学んだ。彼のことは慶應ボーイと呼ぶことにする。

「では、一人ずつ和菓子屋の苺大福の売り上げが下がった原因とその解決策を2分程度で話してください。では、かにばりずむ君から」

集団面接はこれが最初だったので、こんな感じで進むのかと思いながら自分の回答を言った。まぁ予想通り可もなく不可もないので面接官も特に笑ったり驚いたりすることなく「ほうほう」と相槌を打つだけだった。

「では次に慶應ボーイ君」

さぁ、イケメン君の番がやってきた。まぁどうせありきたりな答えを言うんだろうなと思っていた僕の予想は完全に外れた。

「私は、そもそも『なぜ苺大福がこの店の看板商品となったのか』を考えていないのが原因だと思いました」

....は?????
何を言ってるんだこいつは!?!?

予想外の回答すぎて思わず顔を3度見くらいした気がする。何度見てもイケメンだ。たぶん慶應だ。

ちなみにこれは馬鹿にしてるわけではなく、本当に凄い回答だと思った。自分の中では候補にすらなかった原因だったので、なるほどそういう考えもあるのか、と感銘を受けていた。「苺大福の売上減の原因」ではなく「苺大福の売上が高かった理由を考えよう」ということなのか。なるほど。

「店長や店員は『なぜ売上が下がったか』だけを議論しており、『なぜ今まで苺大福が看板商品であったのか』は一切議論していないのです」

まぁ確かにそうだ。先ほども書いた通り、この問題文は2部構成となっており、店舗情報と店長と店員の会話が書かれている。

店長と店員は「なぜ苺大福の売上が落ちたか」を議論しており、「苺の種類を変えた」だとか「レシピを新しくした」だとか「店の近くに全国的に人気の和菓子屋ができた」だとか、そんなことを話していた。だからその会話の中から原因を探すのがセオリーなはずだと僕は考えたのだが、彼は違ったらしい。

流石慶應ボーイ。やることが違う。面接官も僕の時とは違い、目が輝いているようにも見える。まるで恋する乙女だ。流石慶應ボーイ。人を堕とすのは朝飯前らしい。

「なので苺大福が看板商品となった理由を議論することが解決策に繋がる、と私は考えました。以上です。」

....ん???
話はそれで終わった。1分も話してないかもしれない。もう堕としきったとでも言うのだろうか。インパクトは強いが中身がなさすぎる。というか、話してない。何故そんなスポーツ新聞の一面のようなことをするんだろうか。だか、僕のその疑問はすぐに解決される。

「ほうほう。2人の意見は分かりました。ではまず、慶應ボーイ君。少し説明が良くわからなかったので、詳しくお聞きしたいと思います。具体的にどのように解決していくのでしょうか」

こっから苺大福に関する質問はほとんど慶應ボーイに飛んできた。なるほど。やられた。

確かに僕にも質問は飛んできたが、あまりにありきたりな回答すぎるし、既に「穴」についても解答済みだ。僕に聞くことは何もないのだろう。集団面接はいかに自分に興味を持たせるかが鍵だと誰かに聞いた気がするが、ようやく分かった。この苺大福の質問は向こうの勝ちだ。流石慶應ボーイ。人から注目される手段に慣れている。それと同時にこの面接官は少し画期的な回答や斬新な切り口を好むということも分かった。慶應ボーイの回答を楽しそうに聞いているからだ。

20分ほどたってから面接官が口を開いた。

「では、苺大福の質問はここまでにします」

僕にとって地獄のような時間は終わった。


ちなみにこれを書くと混乱するのでやめておいたが、僕はこの面接で「苺大福」と「雪見だいふく」を言い間違えるという初歩的なミスを犯した。でも大福といえば雪見だいふくだ。異論は一切受け付けない。

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5 コールド負けからのお化粧話

「次に、事前に書いていただいた自己PRに基づき、質問をさせていただきます」

実は、先ほどの苺大福の問題ともう一枚、自己PRについて書く紙を待合室で貰っていた。苺大福で慶應ボーイにコールド負け寸前までになってる僕はなんとかここで立て直すしかなかった。

「では、まず慶應ボーイ君。貴方の短所を教えてください」

彼がなんと答えたかはっきりと覚えてないが、当たり障りのないことを言ってた気がする。確か「リーダーになった時に周りの意見を拾えないことがある」という話だった。きちんと自分にリーダーシップがあることを伝えた上で短所を話していた。

流石慶應ボーイ。リーダーシップといえば慶應だ。何回GDで慶應生の「僕、司会やります」を聞いたことか。そんなに司会者がやりたいなら、吉本興業に入社すればいいのに。

いや、そんなことを考えている場合ではない。何か少し変わった解答をしないと僕は二次面接への道が閉ざされてしまう。

「では次にかにばりずむ君。貴方の短所を教えてください」

僕の番がやってきた。

野球で例えるなら『5回裏 0-9 ノーアウト 満塁』のようなコールド負け寸前の場面だろうか。生憎ぼくは野球が好きではないので、コールド負けについては全く分からない。だが第一球を投げるしかない。僕は口を開いた。

「私の短所は『知的好奇心が“ありすぎる”』ことです」

「知的好奇心がありすぎる...?面白いですね(笑)それは本当に短所なんですか?」

面接官は笑いながら問い返してきた。掴みは完璧だ。やはりこの面接官はよく分からない、少し斬新な答えが好きなんだろう。

ちなみに「知的好奇心がありすぎる・高すぎる」という回答が斬新な回答なのかは知らない。分からない。全く持って斬新ではないありきたりな回答かもしれない。

ただ、この時の僕が隣の慶應ボーイが話している2分間で考えた厚化粧をした『作り話』のタイトルだ。知的好奇心がありすぎる??自分でも何を言ってるのか分からない。さっき言ったように厚化粧をした『作り話』なのだから。

「そうです。私の中では短所となっています」

そもそも僕は技術面接以外の面接対策をこの時点でしていなかったので、「短所は何か」の回答すら考えていなかった。何が正解なのかも分かっていなかった。よくもまぁそんな状態でキーエンスの面接に挑んだな、と我ながら飽き飽きする。

「私は現在、学術論文を書こうという話を担当教授から言われています」

これは本当だ。厚化粧をした作り話をするためには、本当の話も混ぜないといけないとライアーゲームで学んだ。

「その学術論文を書くにあたって、現在追加のデータを取るために追加実験をすること、それから色々な論文を読むように言われています」

「しかし、私は知的好奇心がありすぎるため、色々な論文を読んでいるうちに新たな実験手法や評価方法が気になってしまい、本当にやるべき実験を疎かにして新たな実験をしてしまう傾向があります」

別に嘘を言っているわけではない。実際に少しデータは補わないといけない箇所があるし、論文だって読んで欲しいと言われている。確かに新しい実験方法や評価方法を知るうちにそっちもやってみたいと思ったのは事実だ。だが、そんな簡単に論文に書かれている手法などできるわけがない。たった1つだけ試しにやった実験はあるが、それは果たして知的好奇心が“ありすぎる”と言っていいのだろうか。これは『お化粧』で済んでる作り話なのか、はたまた『整形』をしてしまった作り話なのか。どちらにせよ、当時の僕はそんなことは考えていない。コールド負け寸前なのだから。

「その結果、やるべき実験が上手く進まず、教授に怒られるという負のスパイラルに陥りました。確かに研究活動には知的好奇心が重要な要素としてありますが、知的好奇心がありすぎてもよくないということを大学の研究活動で学びました。これが私の短所です。」

なんて言ってまとめたかは覚えてないが、こんな感じだった気がする。文字に書いてみると、まぁよく分からないことを話したもんだ。何を言っているのか今の僕には分からない(笑)。ちなみに「短所は?」と聞かれて「知的好奇心がありすぎること」と答えたのはこれ一回きりだ。

ただ、予想通り面接官のウケは抜群に良かった。変な面接官だったのだろう。苺大福の時の慶應ボーイの回答は僕からすると本当に斬新な回答だったけれど、僕の短所の回答はそこまで斬新ではない気もするのだが。まぁ、コールド負けには何とかならなかった、というレベルだったのだろう。

「どんな追加実験をしているの?」
「知的好奇心が人より高いと思ったのは、研究活動でのどんな時?」

研究の話になればこっちのモンだ。特に研究発表を面接官の前でしている訳ではないので、出来る限り端的に分かりやすく伝えた。

こんな感じで一次面接は終わった。キーエンスは合格の場合、翌日に連絡がくるのでありがたかった。2週間くらい結果が来なかったメーカーもあったので。

一次面接は通過した。コールド負け寸前から2点くらいは入れることができたのだろうか。

あとから同期に聞いたのだが、一次面接が集団面接の場合はそこまで落ちることがないらしい。ちゃんと面接官の質問に対して返答することができれば通過すると聞いた。もしそうなのであれば、あんなに頭をフル回転させて考える必要はなかったのかな、と思ったり思わなかったり。

キーエンスは3次面接まで行ったので、そこまで書こうと思っていたのだけど、本田かにばりずむ翼はちょっと疲れてしまった。

またいつか暇な1日があったら、この続きを書こうと思う。


fin



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