個人的に好きな恋愛小説を語るだけの回。【読書案内】
こんにちは、miharuです。
本日のテーマは恋愛小説!
とは言いつつ、きらきらした純愛モノも、嫉妬や失恋、不倫による血みどろの復讐劇がテーマの作品も、今回は期待しないでください。笑
少し変わったシチュエーション、やりきれない思いや悩みと人間関係が絡み合う作品が好みなので、王道のザ・恋愛小説、とは少し違うかもしれません。それでも、まっすぐで素敵な愛のかたちばかりです。
それではどうぞ!
1.江國香織『きらきらひかる』
江國さんの数ある名作のなかでも断トツで好きな作品。こちらは読んだことがある人も多いかもしれません。
お見合いを経て、10日前に結婚をした笑子と睦月。幸せの絶頂であるはずの新婚夫婦がこのお話の主人公です。
妻の笑子にはアルコール中毒があり、夫で医者の睦月には紺くんという恋人がいます。そしてお互いの両親は彼らの抱える秘密を知りません。きっとこれだけを聴くとアンバランスで訳ありな夫婦関係を想像するでしょう。
しかし読み進めていくと、2人と紺くんの距離感や関係が不思議と心地よく思えてくるのです。感情が上手く制御できず、取り乱してしまう笑子をいつも穏やかな言葉で受け入れる睦月。それを嬉しいと同時に苦しいと感じる笑子。子どもを産むことが夫婦の果たす役割だと2人に迫る周囲。
彼らの結婚は本当に、「気ままで都合のいい」ものなのでしょうか。考えさせられる作品です。
2.島本理生『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』
島本さんの恋愛小説、正直どれを選ぶか迷いました。ので、いずれまたnoteに書きますね。
この物語には主に4人の女性が登場するのですが、彼女たちそれぞれの恋愛観や将来に対する考え方、悩みに共感できる場面も。
題名のキーにもなる知世のお話を少しだけ。彼女が特別な感情を抱いているのは、会社の会議で知り合った年上の椎名さん。付き合おう、という言葉を交わしたことはないけれど、月に2回ほど美味しいものを食べに行くデートをする仲。二人がなかなか一歩を踏み出せないのには、深い理由がありました……。
「なに一つ特別じゃない私の話をいつまでも飽きずに聞いてくれて、真剣に心配してくれたり、絶対に傷つける言葉を使わずにアドバイスをくれたり。旅行すれば、楽しくて、なにを食べても二人一緒なら美味しい。初めてだったよ。そんな人」知世の言葉がとても印象的でした。
旅行に行ったり外食をしたりするシーンがたくさん出てきて、その描写がどれも本当に美味しそう……。今は遠出ができないので、この本を読んでおなかと心を満たそうと思います。笑
3.川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』
私が校閲という職業に興味を持ったきっかけの本。という余談は置いておいて。
これもまた名作ですよね……主人公・冬子の心情描写が静かで繊細で閉じていて、それでいて歪んだ部分もしっかり描かれているところ、とても好きです。
フリーの校閲者である冬子は、人と話すことが極端に苦手。唯一2人で食事に行けるのは、同じ校閲者の聖でした。(冬子と対照的な性格の聖とのやり取りにも注目です。)
そんな冬子がカルチャーセンターで出会ったのは、高校教師をしている三束さんという大分年上の男性。上手く言葉を紡げず(そして酔っぱらってもいる)不器用な彼女に対し、丁寧に、ひたむきに向き合う三束さんに、冬子は徐々に惹かれていくのでした。光の話、音楽の話、そして自分たちの話。お酒の力も借りながら、冬子は三束さんとの時間を大切に刻んでいきます。
校閲は、ないところから作り出すのではなく、誰かの言葉をなぞり、間違いを探すことを突き詰める仕事です。かつて同級生の水野に「自分の考えも、自分の言葉も持たないで、ぼんやりして生きてる」と言われ、聖に「自分だけで完結する、楽なのが好きなんじゃないの?」と言われてきた冬子が、三束さんへの思いの先でした決断とは。ラストの展開に涙しました。
4.中島たい子『LOVE&SYSTEMS』
恋愛小説の研究をしていた大学の教授から頂いた、大量の本のなかに紛れていた一冊。こういう出会い、面白いですよね。
人口減少による経済の困窮が多くの国を襲う近未来。それぞれの国が独自の社会制度を作り、その危機を乗り越えようとしていました。
「家族庁」が決めた相手と結婚し、女は夫と子どものサポートに徹することが義務付けられたN国。個々の自由を尊重するため婚姻制度を廃止し、エコリシテという施設で「みんなで」子どもを育てるF国。「地上の楽園」と噂され、制度も法律もない土地パングゥ。人口減への対応策は無条件の移民受け入れ程度、前時代的な制度を変えなかったJ国。
それぞれの国の特徴を比較しながら物語を楽しむこともできますし、現代社会の制度についても深く考えさせられます。
F国の記者であるロウドが4つの国を訪れ取材する中で見えてくる、人々の純愛を超えた結びつきとそれを阻む障害(社会制度)に心が痛くなることもしばしばでした。
章ごとに話の舞台は変わりますが、すべてを通してひとつのラブストーリーが出来上がるのが本当に素敵。F国の記者であるロウドが、N国の女性「アマナ」への取材を通して育む愛の感情は、果たしてどこへ行きつくのでしょうか。国境を越えた物語、最高です。
5.岸本佐知子(編)『変愛小説集 日本作家編』
最後に紹介するのはこちら。『蛇を踏む』(芥川賞受賞作)の川上弘美さんや『コンビニ人間』(同じく芥川賞受賞作)の村田沙耶香さんなどそうそうたるメンツが描く、「変愛」をテーマにしたお話の数々です。(「恋愛」と見間違えた人、いるでしょう?笑)
一筋縄ではいかない、かなり不思議な設定の作品ばかり。例えば、人が工場で作られる世界、藁の夫との夫婦生活、カラスへの愛を感じる主人公、などなど……。
特に好きなのはやっぱり村田さんの「トリプル」。カップルではなく、3人が互いを愛するトリプルが若者の間で流行している世界を描いた物語。「トリプルなんてふしだらだ」と軽蔑する母親に隠れ、誠と圭太と愛し合う真弓が主人公のお話です。
作家さんそれぞれの味が作品にあらわれており、「変愛」というテーマ一つでここまで幅を広げられるのか、、、とわくわくしながら読了しました。短編ながら、読み応えバツグン。作家さん開拓している方にも、好きな作家さんのお話だけ読みたい方にもおすすめ。
岸本さんが英語圏の作家の変愛をまとめた『変愛小説集』もありますのでぜひ。(私は先にこちらを読みました。本好きの友達が誕生日にくれたんです、センスの良さに脱帽でした。)
いかがだったでしょうか。
この記事を書いていて、なんとなく自分の好きなタイプが分かったような気がします。誠実で穏やかで、大人の余裕が見せられる方が好きなんですね、睦月といい椎名さんといい、。……いつになったら現れるんだろうか。
茶番はここまで。ここまで読んでくださった愛ある皆さんの好きな恋愛小説もぜひお聞きしたいところです。
ではまた。
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