絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #28
車内は、重苦しい空気に包まれていた。
同時に、血なまぐさい匂いが窓から吹き荒れる風に煽られている。
罪業駆動式直結車両が風を切り裂き、金属質の街並みが猛スピードで後方へ流れていった。
アーカロトは視線を感じている。
ギドの子供たちの、好奇と警戒の眼差し。
見ると、後部座席に六人、助手席に一人いた。
助手席にいる顔傷の少年はゼグと呼ばれていた。子供たちの中では最年長であり、リーダーのような立場にいるらしい。今も拳銃を両手で持ち、周囲を警戒している。そして――その警戒は、アーカロトとシアラにも振り向けられていた。
後部座席に座る六人は、男の子が四人、女の子が二人だ。
張り詰めた沈黙。運転しているギドはと言えば、この状況をあざ笑っているだけで、特にフォローを入れるつもりもなさそうだった。
隣のシアラは怯えている。無理もない。子供たちは地獄の悪鬼もかくやというほど返り血で汚れていた。
だが――
ぎゅっとこちらの腕をつかみながら、小さな淑女は口を開いた。
「あの……おけが、しておりますの……?」
アーカロトの影から顔を出すように身を傾けて、シアラは問う。声が少し震えていたが、決然としたものも含んでいた。
子供たちは戸惑うように顔を見合わせる。それが、拒絶や嫌悪というより、単なる子供らしい人見知りの発露であることを見て取ったアーカロトは、少し安堵する。
「……ぜんぶ返り血だよ。気にすんな」
助手席のゼグが振り返りもせずに言う。
重い鉛の塊を吐き出すような喋り方。どれほどの修羅場をくぐってきたのか。到底外見通りの年齢とは思えない貫禄である。
シアラは息を呑む。
「くそオトナころしたの!」
「たのしいよー!」
「……っ」
シアラはぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「……ギド。この子たちにいったいどういう教育をしているんだ」
「はぁ? きょういく? 久々に聞いたわそんな単語。アタシがこいつらを使ってるんだよ。アタシが貰う側で、ガキどもが奉仕する側だ。断じて逆じゃあない。子供たちを拾って育てている口は悪いけど優しいお婆さんだとでも思ってんのかい? ウケるわ。爆笑」
「クソババア。死んじまえよ」
「ヒヒ、その時はお前たち一人で生きていくんだね。できるもんならねェ」
頭痛のする会話を尻目に、子供たちはシアラの顔を覗き込んできた。
「ねー、どうしてないてるの?」
「いたぁいの?」
「おなかすいたの?」
「これあげるー」
「ぁ……」
可愛らしい包装紙でラッピングされた球体を差し出され、シアラは目を瞬かせた。
おずおずと受け取ると、子供たちを見返す。
「……アーカロトさま」
「うん」
「あたまなでなでしてください」
アーカロトは眉間を揉み解しながらもう片方の手で速やかにシアラの黒髪を撫でた。
途端にへにゃりと表情が崩れ、笑顔になる。
「みなさま、おこころづかい、とってもうれしいですわ。わたくし、シアラってゆいますの。どうぞよしなに」
ふっと、空気が柔らかさを帯びた。
シアラの笑顔には、人を脱力させる何かがあった。
【続く】
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