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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #48

  目次

 節足が組み変わり、胎児の左右で三角錐状の推進機関を形成した。
 そのまま世界の壁を超える超次元的機動で、飛び交う光線とタングステン合金弾のことごとくをかわす。
 見えている光景が目まぐるしく回転し、変化し、もはや自分たちがどこにいて、どこを見ているのかすらゼグにはわからないだろうと思われた。
「目を閉じていたほうがいい。酔うよ」
「……そだな」
 三角錐の先端に据え付けられた罪業収束機関がアーカロトの大罪を変換し、分子間力反転の性質を持つ罪業場弾体として前方に超速連射。集弾性を適度に下げ、乙伍式機動牢獄の一小隊に驟雨のごとく降り注がせる。
 碧白色の閃光が幾筋も大気を切り裂き、美しい縞模様を刻む。着弾点を中心に、機動牢獄たちは次々と血煙と鉄粉に分解されてゆく。
「俺の母ちゃんさ……〈原罪兵〉どもの奴隷の一人だったんだ」
「……そうなのか」
 戦闘機動を操作する傍らに、アーカロトは耳を傾ける。
 三角錐の底面から後方へと多数伸びた罪業収束機関に、一斉に光が灯った。瞬間、光の爆発が生じ、全方位に光線が撃ち放たれる。
「父ちゃんなんていなかったから、俺が生まれたのは、まぁそういうことなんだろうと思うんだけどさ」
「うん」
 一定距離を進んだのち、官能的なまでに優美な曲線を描きながら地上の甲弐式機動牢獄のもとへと降り注ぐ。それは罪業軸における反物質粒子を強烈な磁場でパッケージングしたものだ。罪業値がマイナスという、自然発生は決してしない物質を生成し、射出。形而上的引力に引かれて周囲の高罪業物質のもとへと「落下」してゆく。三次元的の視点でそのさまを見ると、まるでホーミングしているように認識される。
「母ちゃん以外にも奴隷はたくさんいて、でかい部屋に監禁されていた。で、生まれたガキは全員その場で〈原罪兵〉に八つ裂きにされるんだが、どういうわけか俺は物心つくまで見つからずに済んだ。ほとんど泣かねえ赤ん坊だったらしい」
「……うん」
 次々と縫い付けるように着弾。同時に凄まじい爆光と衝撃が炸裂し、機動牢獄が跡形もなく対消滅する。
 一部はアーカロトの大罪に引き寄せられて大きな弧を描きながら戻ってきた。意に介さず、左右の推進機関を吹かして加速。
「投げ込まれる餌を分けてもらいながら、俺はでかくなっていった。……まぁ、それなりに可愛がられていた、と思う。母ちゃんや、他の姉ちゃんたちは、自分の食う量を減らして、俺を生かしてくれていたからな」
「うん」
 甲参式機動牢獄の巨体が、視界を埋め尽くす。乱射される中性粒子ビームをこともなげに避けながら、衝突コースを突き進む。
 そして、基準界面下に潜航。
 甲参式の内部を貫通し、反対側から脱する。直後に実体化。
 するとアーカロトを追尾していた反物質弾は次々と球状要塞兵器に着弾。対消滅に伴う膨大なエネルギーがその装甲を一瞬で蒸発させた。内部に入り込んだ反物質パッケージも中身を景気よく開放し、甲参式は一瞬気泡のように膨張、直後に爆散した。
「でもな……違ったんだよ」
「うん?」

【続く】

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