おつかれごはん
というわけで差し出された木皿に、烈火は「異世界いい感じスープ」をよそった。
唾液が口の中にあふれるような、温かな香りがあたりに広がった。
フィンの膝に乗せる。
「はーいステイステイ……」
ぐるるるる…と唸るフィンに手のひらを突き出して止める。
「お手」
烈火の右手にフィンの左手が乗る。
「おかわり」
烈火の左手にフィンの右手が乗る。
「よしいいぞ!!!!」
がッと木のスプーンを動かして規律正しき少年軍人は晩御飯を貪り食い始めた。
「……いや、何をやっとるか貴様は。」
「いやこいつなんか犬っぽいし……」
「まあ、犬か猫かで言えば……うむ……。」
「わたしもっ! わたしもよそって!!」
「あとテメーはなんで微妙に幼児退行してんだよ!!!! オラ食え!!!! たんと食え!!!!」
「いただんぐんぐきますんぐんぐ!!!!」
「いただきます言い終わる前に食う奴初めて見たぞ!!!!」
まぁそんなこんなで腹ペコ二人を尻目に、比較的冷静な方の三人はサツマイモが煮えて柔らかくなるのを待ってから食し始めるのであった。
「……ふむ。」
「♪」
総十郎とシャーリィは顔を見合わせた。
「根菜や葉菜の甘みと、昆布のうま味が渾然と混ざり合っておるな。そこに霊熊の脂が溶け出して、コクが深い。長時間出汁をとったのはこういうわけか。赤身もほろ/\と柔らかく仕上がっておる。キノコのぽき/\とした食感も快い。」
こくこくっ、とシャーリィは頷く。
「やっべこれうっめ!!!! 天才じゃね!? 烈火くんガチ天才じゃね!?」
「うむ、大したものである。お主にこんな特技があったとはな。」
「そうだろうそうだろう!!!! 崇めろ!!!! ひれ伏せ!!!!」
「おかわりっ!」
「おかわりーっ!」
「オラ並べ!!!! そして烈火サマへの感謝と敬意を胸に抱きながら沙汰を待てぃ!!!!」
「「はぁーい!!」」
「フィンくんはともかく、リーネどの……食欲に負けてプラヰドを捨て去ったか……哀れな……。」
気高く勇猛で怜悧な女騎士としての株がここ数時間で地に落ちたリーネ・シュネービッチェン。
ただいまリスみてーに口いっぱいに具を頬張り中。
「おいしいでありますねリーネどのっ」
「はい、とっても!」
でもめっちゃ幸せそうなのでまぁいいか。
●
けぷ、と胃袋の空気を排出しながら、フィンは焚き火の前に座り込んでいた。
とても美味だった。お腹がちょっと苦しくなるほど食べてしまった。動作に支障をきたす。軍人としては慎むべき行いだ。
消化器官に血が行って、頭がぼんやりしている。夜風が心地よい。
「殿下、お腹も満たされたことですし、やりましょう」
リーネが姫君に声をかけた。
シャーリィもうなずいて、立ち上がる。
二人は目を合わせ、くすりと笑う。どこか秘密を共有しているような、いたずらめいた笑みだった。
「おや、どうされた?」
「ええと、その、まぁ、ちょっと……」
言葉を濁し、二人で近くの巨樹に歩み寄る。
不思議に思って見やる男性陣の前で、エルフの主従は幹に手のひらを当てた。
「母なる森よ。御身の加護と恵みによって、今日も命を繋ぐことができました。感謝を捧げます」
すると、リーネの体から暖かい光が立ちのぼり、幹に触れた手を通じて巨樹へと流れ込んでいった。
しかし、同じように手を触れているシャーリィからは、ほとんど光は出てこなかった。弱々しくぼんやりとした微光が姫君の輪郭を浮かび上がらせたのみで、とても「立ちのぼる」とまでは言えなかった。
「え……」
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