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世紀末美食戦士黒神烈火

  目次

 オブスキュアの植物は水分の含有量が高いため、燃えづらい。まずは専用の火口(キノコを乾燥させた代物らしい)を落ち葉の上に置く。

元素変換ソーサリー――発火」

 リーネがそう呟いた瞬間、彼女の周囲の粒子が一瞬流れを乱した。
 すると、人差し指の先に涙滴状の火が現れる。
 そのまま火口に人差し指を近づけて着火した。

「そ、それが魔法、でありますか?」
「はい。わたしはあまり得意ではないのですが、この程度ならば」

 言葉とは裏腹に、リーネは得意げだ。
 それから落ち葉→小枝→大枝の順にタイミングを計りながら投入してゆく。
 ほどなく見事な焚き火が赤々と燃え上がった。

「んー、これは出汁。これは具材か……こちは香り付けにはいいが……」

 一方烈火の手際も素晴らしくよかった。「ナーイフ!!!!」とか絶叫しながら手刀を乱舞させると、彩り豊かな森の幸が一瞬で一口サイズにカットされた。そこから烈火はいくつかの食材を選んで土鍋に放り込む。かまどの上辺に一本の棒が渡され、土鍋がぶら下る形だ。
「おいロリコン!!!! あの熊肉の脂身だけ切り取って鍋に入れろ!!!!」
「赤身はまだよいのか?」
「それは後だ!!!!」

 一時間後。

「レッカどのレッカどの、おなかすいたであります……」
「だぁってろ!!!! あと二十分弱火で煮る!!!! すると「和風なんかいい感じブイヨン」が完成するッ!!!!」
「えぇー……」
「日が完全に沈んだな……しかし思ったほど暗くはならぬのだな。」
「ええ、精霊力の光がありますからね。夜間でもほとんど明かりは必要ありません」
「とってもキレイであります」
「うむ、大量の蛍でも飛び交ってゐるかのようであるな。」

 フィンはしばし、美しい夜の光景に見入った。梢に阻まれ、星空は見えなかったが、この太古の森の命の輝きを全身で感じ取った。

 二十分後。

「っしゃコラァ!! 「和風なんかいい感じブイヨン」完成じゃオラァ!!!!」
「やたー! いただきますであります!」
「シャラップ!!!! まだ食えるとは言ってねえよ!! おい乳ゴリラ!!!! キノコ♂をブチ込め!!!! はい復唱!!!!」
「キノコをぶち込む。これでいいのか?」
「よく言った!!!! 俺のご立派なキノコ♂を食する権利をやろう!!!!」
「いや別にお前だけのではないだろうが。ほら、鍋に入れるからちょっとそこをどけ」
「やだ……この子シモネタがあんま通じてない……」

 十分後。

「ロリコン!!!! 熊の赤身を出せ!!!!」
「よかろう。一口大に切ればよいのか?」
「なるべく筋をぶった切る軌道でDo it!!!!」
「心得た。」
「な、なんだかレッカどのが頼りになる感じであります。不思議であります」
「馬鹿おめー何言ってんだテメー貧乳も同意を込めてうんうん頷いてんじゃねーよこのクソガキどもマジわかってねえ!! 偉大さが!!!! この超天才の!!!!」
「そんな倒置法で言われても……」

 十分後。

「あとはサツマイモブッ込んで少し煮詰めて完成じゃオラァッ!!!!」
「リヴィエラの実な」
「少し……? 少しってどれくらいでありますか……? 一分? 二分? 三分?」
「なんでテメーは微妙に目が据わってんだよこえーよ!!!! 少しは少しだよ!!!! 料理はなんかこう、感覚なんだよ!!!!」
「まぁ、フィンくんは育ち盛りであるからな。すでに二時間近く美味な匂いの前で待ちぼうけを喰らわされる拷問に堪えておるのだ。少々気性が野性に還っていても致し方あるまい。早く食べさせてさしあげろ。」
「待つ……少し……待つ……我慢……忍耐……少し……少し……」
「虚ろな目でぼそぼそ呟いてんじゃねーよ!!!! 何なのこの子!!!! こわい!!!!」
「フィ、フィンどの、お辛いようならレンバス食べますか?」
「ぐぐぐぐ……ここまで来たらガマンするであります……大丈夫……セツの軍人はどれほど餓えようと略奪などという恥知らずな蛮行に手を染めるくらいなら死を選ぶ烈士であります……」

 ぐぎゅるるるる~……

「フィンどのーっ!? もういい! もういいですから一緒にレンバス食べましょう!!」
「ちょっと待て乳ゴリラァ!!!! 今の腹の虫はテメーのだろうが!!!! この超天才の耳はごまかれねえよ!!!! なにさりげなくフィンのせいにして自分もレンバス食う感じの流れにしようとしてんだよ!!!!」
「なっ……! ち、ち、ちち違うわっ!! な、な、なにを根拠にそそそそそのような……!」
「リーネどの……さすがにそれはいじましいぞ……。」
「はっずかしー!!!! 貴族の淑女が人前ではっずかしー!!!! しかもガキに罪をなすりつけようとしてはっずかしー!!!! ねえどんな気持ち? 浅ましい誤魔化しが速攻見破られてどんな気持ち? ねえねえ!!!!」
「うぅ……だ、だってだって……わたしもおなかすいたんだもん……」
「とりあえず、フィンくんに謝ったほうが良いような気がするぞ。」
「うぅ……ご、ごめんなさいフィンどの。浅はかなことをしました……」
「我慢……忍耐……必勝……包囲……殲滅……」
「やべーよこいつまったく聞いてねーよ血走った目で物騒な単語呟くマシーンと化してるよこえーよマジで!!!! もういいわ!!!! サツマイモちょい生煮えだけどもういいわ!!!!」
「リヴィエラの実な」
「なんでそこだけ冷静に訂正してんだよお前は!!!! とっとと器用意しろ!!!!」

【続く】

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