絶罪殺機アンタゴニアス　第一部　＃２３

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　腹の底に響く銃声が連続し、自動生成された屋内構造を粉砕する。
　かすめただけでもアーカロトの四肢を血煙に変えてしまう運動エネルギーの暴力が、音を超えた速度で降り注ぐ。
　――案の定、リコイルコントロールがまともにできていない。
　どれほど弾速が高かろうが、射出された時点で軌道が決定されてしまう兵器は、アーカロトにとって大きな脅威足りえなかった。
　銃機勁道は、身体操作のみならず、己の認識システムをも変える武術だ。その弾道予測は銃身の長い銃器ほど容易く、手のひらに収まる程度の拳銃だと最大限の警戒を要する。
　その観点から言って今回の乱射は、銃器の集弾性が高いわりに銃身の保持が不安定という意味で、最低ランクの脅威度しか持ちえなかった。列車に轢かれると死ぬが、黄色い線から出なければ死なないのとまったく同じ確度で、瞬間的に予測される弾道線と重ならなければ死なないのである。
　そして――物体に一方通行を強いる罪業場を展開させながら機関銃を乱射するこの戦法は、ひとつの無理を孕んでいた。
「――おらららららららァっ！」
　突き出た腹の肉が、罪業場を超えてこちら側に露出しはじめている。当然の帰結だ。発砲の反動自体は罪業場が押しとどめてくれるが、その結果発生する反作用はどうしようもない。撃つたびに少しずつ体が罪業場の前に引きずり出されてしまうのだ。そして、いったん腹の肉が罪業場から露出してしまえば、あとは罪業場を解除する以外に体勢を戻す方法はない。
　アーカロトは内心ため息をつきながら発砲。水面から浮上してきた桃の実のような腹肉に、赤い花が咲いた。
　ぎゃひっ、と妙な悲鳴を上げて、肥えた男は罪業場を解除した。

　轟音。

　体内を駆け巡る大地力を螺旋状に束ね、足から膝、胴、肩、腕、肘と導いてゆく。腕を突き出しながら引き絞るように捩じり、勁力を拳銃に伝達。赤熱して唸りを上げる銃身。
　腕が伸び切ると同時に発砲。雷鳴のごとき撃発音とともに、勁気を宿す弾丸が空中に黄金の軌跡を曳いた。
　肥えた男は賢明であった。罪業場を解除すれば即座に撃たれることは先刻承知だったらしく、装甲に覆われた籠手で頭部を庇っていたのだ。
　――直後に籠手ごと頭部が爆砕し、血と脳漿とインプラントデバイスと装甲の破片が無秩序に撒き散らされた。
　殺さずに済ます、という道もあった。だが、ギドが〈原罪兵〉を狩る理由を思い出すと、一撃で苦痛なく終わらせてやった方がまだマシだろうと思えた。あの老婆がどの程度残虐なのかはまだわからないが、生きたままこの男を解剖するさまがありありと想像できたから。
　ともかく、合流を急ごう。よもや襲撃がこの男一人によるものとも思えない。
　そう考えて振り返ると、部屋の入り口から顔を出していたシアラが、蒼白した顔でこちらを見ていた。
　――まずい。
「シア……」
　ごぼ、びちゃびちゃ。幼い子供が跪き、俯き、身を震わせている。床に広がる吐瀉物を見たとき、アーカロトは額を抑えた。
　いま殺すのは、やはりまずかった。慌ててすすり泣く少女に駆け寄る。

【続く】

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