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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #24

  目次

「千載一遇ってやつだよ、お前たち」
 ギドは薄ら笑いを浮かべながら、セミオートライフルを肩にかついだ。
 断続的に爆発音が大気を震わせる。
「肉団子どもが自分から狩られに来てくれるなんてねぇ。ついてるよ、こりゃ」
「ババア、勝算はあるのか?」
 顔の半分に火傷の痕がある少年が、小さな拳銃にマガジンを叩き込みながら言った。十歳前後。子供たちの中では最年長だ。
「ま、いつもの狩りに比べりゃちょいとタフな仕事になるだろうね。何人かおっ死ぬだろうけど、別に問題ないだろ?」
 顔傷の少年は唾を吐いた。
「胸糞わりぃ。またオレらは弾よけかよ」
「当然だろ? お前たちの命はアタシが拾ったんだ。せいぜいアタシの役に立ちな。その命はお前たちのものじゃないんだよ」
「いつか殺してやる」
「好きにしな、ゼグ。お前はいつものようにガキどもを率いて迂回」
 ゼグと呼ばれた顔傷の少年は、感情面はどうあれギドの指示にうなずいた。「利用価値のあるうちは従ってやる」。ゼグのそういう冷静な打算で行動できる点を、ギドはそこそこ評価していた。
 ――ただまぁ、ありゃ長生きしないね。
 肩をすくめ、索敵と相互支援を行いながら迅速に廊下を移動してゆく子供たちを見送った。
 そして換気用ダクトに小さな影が全員入ってゆくのを見届けると、ギドはツカツカと移動を開始した。後ろでまとめた髪がしなやかにうねる。

 ●

《やっこさんらは間違いなくアタシらがババアとガキしかいない所帯だってことを掴んでいる。そのうえで〈原罪兵〉複数を投入してくるってことは、いつものやりくちは間違いなく対策されてることだろうよ》
《どこのアホだよいったい》
 顎骨にインプラントされた通信装置を介して、ギドとゼグは声なき声を交わす。
《ここいらで養殖サイコ野郎を糾合できる連中となれば〈紳士同盟〉ぐらいだね。指を何本か潰されておかんむりってわけかい》
《〈組合〉に援軍は送ってもらえないのかよ》
《おいおい甘ったれるんじゃないよ。奴らとは〈原罪兵〉を狩った報酬をふんだくるだけの関係。お互いの生き死にに干渉なんかしてくるわけないだろ。無駄口叩いてないでさっさと配置につきな》
 ギドはすでに爆音の主とおぼしき〈原罪兵〉の姿を補足していた。
 二人組だ。二メートル近い巨漢と、ひょろひょろのノッポ。背丈はどちらも大差ないが、巨漢はヒョロガリの三倍は体重がありそうだ。
 場所はギドたちが「礼拝堂」と呼んでいる、アジトのエントランスホームめいた広間である。
 巨漢の巨大な手のひらから、じゃらじゃらと結晶体のような礫が湧きだしてきた。そのひとつを太い指が摘まみ、ぐっと親指に力が込もる。
 次の瞬間、高速で弾き飛ばされた結晶体が凄まじい爆発を生じた。メタルセル建材に大穴が開く。もうもうと立ち込める鉄粉。
「オラババア出て来いオラァッ!! アジト埋めんぞコラァッ!!」
《ふぅん。ムキムキとヒョロガリだ。ムキムキの方は爆発する罪業場を指弾術で弾いて飛ばしてくる。ありゃ触れた物体の分子間力を反転させるタイプだね。結合が堅いものほどよく爆ぜる》
《今挟撃ポイントについた。どうする?》
《まずアタシが出る。お前らはその間にダクトから展開》

【続く】

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