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夜天を引き裂く

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ツァラトゥストラの咆哮は、闇の底に反響し、ヘプドマスへ至る道を啓く。
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#完璧超人

夜天を引き裂く 一気読み版

夜天を引き裂く 一気読み版



 推薦記事:〇 〇 〇 〇

 いじめを苦に自殺、などというフレーズが、たまさかネット上を飛び交うことがある。
 馬鹿ではないのかと思う。
 ただの無駄死にである。
 遺書に恨みつらみなど書いたところで、どうせ犯人たちの名はメディアには載らないのだ。どの道死ぬならすっきりしてから死のうと、なぜ思わないのか。
《あはは、うける~》
 水音が聞こえる。
 苦しげなうめき声が混じる。
 久我絶無は、

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夜天を引き裂く 目次

夜天を引き裂く 目次



 作:バール 絵:脳痛男

 ツァラトゥストラの咆哮は、闇の底に反響し、やがてヘプドマスへ至る道を啓く。

 推薦記事:〇 〇 〇

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 あとがき 前 後

夜天を引き裂く #11

夜天を引き裂く #11

 前 目次

『ひっどぉ~い! ひどいひどいひどい!』
《いいと思うよ》
 手駒を介した遠視が途切れ、界斑璃杏は自らの肉体に戻ってきていた。
 蟻走感にもにた苛立ちを振り払うべく、半透明の腕を薙ぎ払った。校舎の壁が粉砕され、盛大に粉塵を撒き散らす。
 その姿は、浮遊する巨大なクリオネと言うべきものだった。
 光を透過するゼラチン質の巨体。
 房錘形の胴体から、ぱたぱたと動く二つのヒレが生え、その上

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夜天を引き裂く #12

夜天を引き裂く #12

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 ――どうすればいいんだ。
 秋城風太は半ばパニックに陥っていた。
 界斑璃杏の名を聞き、慌てて病院から駆けつけたはいいが、そもそも学校に着いてから具体的にどうするのかということをほとんど何も考えていなかったのだ。
 ――そもそも僕はどうしたいんだ!
 それがよくわからない。界斑さんを助けたいのか? そして彼女に気に入られたいのか? 再び操り人形となって、夜毎に血生臭いことをやらされ

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夜天を引き裂く #14

夜天を引き裂く #14

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「黒澱さん、僕はね、何もしないうちから負けを認めて中身のないプライドを守ることに汲々としているだけの人間を心の底から憎んでいますし、そういう連中の「僕ちゃん賢いから自分の痛さをちゃんと客観視できてますよ」アピールにもうんざりしているんです」
 絶無は、自らの中に仕舞っておいた野望を熱く語った。
「自らの弱さを正当化した先に待っているのは、際限のない妥協と不幸の連続です。それは人間の生

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夜天を引き裂く #16

夜天を引き裂く #16

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「秋城さま、こちらでございます」
 花の潤みを含んだ声で導かれながら、秋城風太はちょっとどぎまぎしていた。
 艶やかなロングヘアーが、目の前を揺れながら先行している。女性としては長身で、風太よりわずかに高いくらいなのだが、左右にある肩幅はちょこんと小さく、そんなあたりに「女の子」を感じて余計にどぎまぎした。
 華道部部長、詩崎鏡香である。なぜか片耳イヤホン型のヘッドセットを着けていて

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夜天を引き裂く #17 終

夜天を引き裂く #17 終

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『――知恵比べは』
 戦意の猛りと、嗜虐の笑みを滲ませて、言う。
『僕の勝ちのようだなァ……!』
 重騎士の背後から。
 絶無は、そう声をかけて。
 獰悪に嗤った。
 ――見たぞ。貴様の強さの根源を。
 最初に五つ目の円盤が飛来して腕を切断していった時点で、すでにこういう展開を可能性の一つとして予想していた。奴の視界から逃れた一瞬を見計らって、入れ替わっていたのである。
 ――重騎士

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夜天を引き裂く #10

夜天を引き裂く #10

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 いくつかの壁を突き破り、十秒とかからずに橘静夜は悲鳴の発生源に到着した。
 下駄箱が連なる一角で、饐えた匂いが立ち込めている。
「ヒッ、ひぃ……っ!」
 一人の男子生徒が、尻餅をついている。
 その視線の先には――案の定、堕骸装である。
 ――ぶるぶるぶるぶるぶる! ぶるぶるぶるぶるぶる!
 巨大な芋虫そのものの頭をしきりに振り立てながら、汚猥な粘液を撒き散らしている。
 頭の先か

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夜天を引き裂く #9

夜天を引き裂く #9

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「わかるか、橘」
「さっぱりわからん。要点を言え」
「僕のこの卓越した万能性は、生まれながらに父から受け継いだものなんかじゃなかったということだ」
 拳を、握り締める。やりきれないものを感じる。
「それを知ったときの、僕の気持ちを、どう言い表せばいいだろう」
「……」
「まず最初に、誇らしい気持ちになった。僕が同級生の蒙昧どもより十倍も優れているのは、要するに十倍努力したからだったの

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夜天を引き裂く #8

夜天を引き裂く #8

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 昼休み。
 中庭のベンチにて、絶無は黒澱さんと並んで弁当を広げている。
 すでに病院での顛末はあらかた話し終えていた。
「そしてこれが、秋城風太から強奪したモノです」
 掌を開いて、彼女に差し出す。
 奇妙な物体だった。親指よりやや大きい程度の小瓶である。中にはミイラのように痩せ細った小動物が入っていた。
 一見するとネズミのようにも見えるが、前肢から皮の翼が生えている。干乾びてほ

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夜天を引き裂く #7

夜天を引き裂く #7

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 ――あの夜。
 絶無と脳怪物が死闘を演じ、そこへ重騎士が乱入したあの夜。
 公園にはサラリーマンの惨殺死体が残されていたはずだ。もちろんそんなものを黒幕が放置するはずがない。必ず何らかの方法で証拠の隠滅にかかるのは確実だ。黒澱さんを家に送ったその足で調べに向かうと、案の定そこには不自然に掘り返された地面だけがあった。恐らく、黒幕は秋城風太以外にも何体か堕骸装を従えているのだろう。そ

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夜天を引き裂く #6

夜天を引き裂く #6

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 ――それにしても、自己認識、か。
 人間と、ごく一部の高等生物しか持っていない、特殊な意識のありようである。
 自己認識を持つ生物は、鏡に映った像を自分だと判断できる。「自分がここに存在している」ということを理解しているのだ。しかし、自己認識を持たない大多数の生物は、鏡に映った像を他者だと思い込んで、警戒したり威嚇したりする。彼らの意識には「自分」がなく、「状況」だけがその思考を占

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夜天を引き裂く #5

夜天を引き裂く #5

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 彼女はいそいそとノートに書き込み始める。
『おつちいてください』
「落ち着いています」
『きゅうにこまります』
「あなたを困らせるつもりは一切ありません。これは僕の勝手な決意表明です。あなたは何の義務も負っていません。ご不要なようでしたら、僕はいないものとして扱ってください」
『そんなことしません』
「素晴らしい。お仕えし甲斐があるというものです」
 絶無は口の端を吊り上げ、ふたた

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夜天を引き裂く #4

夜天を引き裂く #4

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 体が、重い。いくら呼吸をしても、体に酸素が廻っている気がしない。
 絶無は立ち上がろうとし、膝から崩れ落ちた。四肢に力が入らない。
 ――後悔は、ない。
 この一生を何度繰り返そうと、あの場面で「逃げに走る」という選択肢は絶対に選ばない。
 とはいえ少々難儀な状況には違いない。
 ――人通りのある場所まで這って進めれば……
 頭に血が行き渡らないせいか、そんな程度のことしか思いつけ

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