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風と霧と自転車と―オランダ滞在記②「シンタクロース」からの手紙
「シンタクロース」からの手紙
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12月は、オランダにとって何よりもシンタクロースの季節だ。そう、誤植ではない、「シンタ」である。
シンタクロースはサンタクロースと一味見た目が違う。
十字架模様の入った帽子をかぶり、杖と大きな本を抱えていて、枢機卿のようなマントを羽織っている。
それに、トナカイではなくて、お手伝いのズワルト・ビートを何人も従えている。
橇ではなくて船に乗ってスペインからやって来る。
庶民的なサンタさんよりも、なんだか社会的地位が高そうなのだ。
シンタは実はサンタの起源だという説もあるそうだ。
アメリカに渡ったオランダ移民が始めたシンタの習慣が、サンタの始まりだったのではないかとか。
シンタが片手に持つ大きな赤い本には、その一年間の子どもたちの行状が記録されていて、いい子にしていた子には、贈り物を置いていく。
この日は、子供たちだけの日でもなくて、オランダ人は家族や友人間でちょっとした贈り物と、そしてなんと詩を交換しあうのである!
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詩は、マドリード発の、シンタクロースからの手紙という設定で作られる。贈り物を選んだ理由や、一年間の友人との思い出について、脚韻を踏んだA4一枚くらいの手紙が交換される。
例えばこんなふうに。
"Every year, Sinterklaas inspects all Dutch houses, Of fathers,mothers, their children and their mouses."
習慣によって、受け取った人は、この手紙を声に出して読み上げる。
驚くのは、このためにオランダでは脚韻を踏むためのウェブツールまであることだ。
韻を踏みたい言葉を検索窓に入力すると、同じ音を持つ、様々な言葉を列挙してくれるサイトだ。こんなのが日本にもあったら、詩を書く助けになるかもしれない(?)。
韻を合わせようとすると、普通では思いつかない意外な言葉の閃きが飛び込んでくる。
先に例を挙げたウィットの効いた手紙の一説は、言語交換パートナーが私に用意してくれたものだった。感涙に咽びそうになりつつ私が書いた返事は語彙の乏しさからかなりぎこちないもので、くまモン好きの彼にちなんでPOKEMONとKUMAMONで韻を踏んだりした。
'Among people hunting around the Pokemon, making friends with Kumamon."
こんなわけで、多くの人々が毎年12月には詩を作って気持ちを伝えるオランダ。
オランダは一般市民の幸福度が高いと言われているが、詩の幸福度も高い国だ。
※このエッセイの初出は現代詩手帖です。
手紙を交換したFさんには、その数年後、えらい迷惑をかけたというかお世話になることになったのですが、これはまた別のお話・・・。
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