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躓きの石と”看板”

迎えたドイツ3日目。どうしても行きたいところは2日目に行くことが出来た。

今日行きたいのは、ドイツ語の先生が授業で紹介してくれたところ。旅行前にメールして、詳細を聞いていた。

それは、Bayerisher Platz周辺に多くあるという、躓きの石と”看板”だった。


①躓きの石について


躓きの石とは、ドイツ語で”Stolperstein”。
1992年にドイツの芸術家グンター・デムニヒ氏によって始まったプロジェクトらしい。(Wikipedia参照)

ナチスによって死亡した人の生きた証を示すというのがこのプロジェクトの目的である。石には、名前・生まれた年・死亡した場所・死亡した年が刻まれている。


②”看板”について


「看板」という文字にわざわざ ”” をつけているのには意味がある。ただの看板ではないからである。

一見すると、かわいらしいアートのように見えるこの看板は、後ろに当時ユダヤ人に対して作られた法律の文言や、状況を示す文が書かれており、表と裏でその印象は180度変化する。

一見すると可愛らしい絵
裏側には当時のユダヤ人に対する法律
『ユダヤ人の子供たちは
学校に行くことを許されていません』


この2つが町中のいたるところに設置されていると授業で紹介されてから、ずっと行きたい場所だった。


Bayerisher Platz駅に着く

朝9時半。Bayerisher Platz駅に着く。

ベルリンの中心部をずっと観光していたので、観光客が常にいてどこか騒がしい雰囲気がすることに慣れていたが、ここは本当に閑静な住宅街という印象を受ける。

まず、道路を歩いている人自体が少ない。土曜日だったので、みんな朝はゆっくりしているのだろう。すれ違う人も、ほとんどが犬の散歩をしている近隣の方ばかり。観光客らしき人は誰一人として見つからなかった。


看板を探して

上方を意識しながら歩いていると、看板は比較的見つけやすい。どこに行くという目的もないので、適当に路地を歩き、見つけたら駆け寄り、また路地を歩く…という繰り返し。

ここに土地勘はないものの、とにかく数が多いので歩いていればすぐ見つかる印象だ。

見つけ次第、一つ一つ写真を撮る。まずは表側から。そして裏側も。

『ヴァンゼー・リドでのユダヤ人の入浴禁止』
(翻訳がどこまで正確かは分からない)


きのう訪れたベルリン・ユダヤ博物館の展示の中に、当時のユダヤ人に対して作られた法律が一覧となって垂れ幕のように展示されていたから、どれだけ数多くの理不尽な法律が作られたかということは想像に難くない。

しかし、それが突如目の前に現れた時、写真を撮って翻訳機にかけた時、そのあまりの理不尽さに絶句してしまうのである。

『ユダヤ人出身者は大ドイツチェス連盟から除外される』

こんな些細な娯楽まで、いちいち法律で決められ、制限させられるのか。


一つ一つ看板を写真に撮って、翻訳していく。その度に、どんな隙間も見逃されず、一つ一つ着実に逃げ場が塞がれ、人権が剥がされていくような感覚になる。



躓きの石への気づき

看板は上方を気にしていれば比較的見つかりやすい。しかし、躓きの石はどこにあるのか、どう探せばいいのかがあまり分からず、せわしなく下を見たり上を見たりしながら進んでいた。

しかしある時、躓きの石がどこで見つけられるのか分かった瞬間があった。


マンションの前である。


これに気が付いたとき、”気が付かなかった自分”がちょっと悲しくなったのだ。

躓きの石は、その人が生きた証を残すアート。当たり前だけど、亡くなった方にも家族がいて、家があって、そこで生活していたのだ。

それが分かると、この躓きの石は本当に「証」なのである。

誰がどこに住んでいたのか、いつ生まれたのか、どこで亡くなったのか。全ての情報が一度に目に入り、その人の人生を思い浮かべない方が難しい。

両親と子供3人の5人家族だったんだろう。



実は午後からはペルガモン博物館へ行く予定を立てていて、ここには2時間弱くらいしかいられない予定だった。

それでも、「躓きの石・看板」を収めたアルバムには、98枚もの写真が入っている。

アルバムを作成した


去り際、看板が設置されている個所が地図に記されているのを見つけた。これだけ多く写真を撮っても、見つけられていないものはまだまだ残っている。

最後に訪れた公園で見つけた地図。


最後に写真を撮って、次の場所へ向かう。寒空の中2時間歩き回ったこの経験は、ドイツ旅行の中でもとりわけ印象深いものだった。

『いよいよ時間が来ました。明日出発しなければなりません。もちろん、それは私にとってとてもショックです。 (...) あなたにまた手紙を書きます
国外追放前、1942 年 1 月 16 日』

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