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#17 波乱続きの恋愛の果て:大どんでん返し

私にはアメリカでの労働許可VISA(H-1Bステータスという専門職ビザ)の延長問題があった。すでに初期のビザは取得しているから、あと3年の延長を申請し切り替えるだけだったのだが、婚約もしているし、結婚をすれば必然的にグリーンカードに変わるし、忙しさもあって放って置きっぱなしになっていた。

それに弁護士を通じて更新するには$5000かかるので、その費用の工面もあった。思いがけない事態を予想してなかったので、完璧に油断していた。(私が雇われたロサンゼルスの出版会社はビザ申請にかかる弁護士代を持たないし、サンフランシスコ事務所の家賃などもなぜか自己負担になっていた)


この別れ話で、アパートの資金や引っ越し代やまた新たな事務所の設立など、巨額な出費は免れない。「自分1人でこの苦難を乗り越えられるのか」?何度も自問した。

答えはひとつ。「どんな犠牲を払っても、ここで生きてゆく。日本に帰るオプションは無いのだから」。


別れが決まって10日目、私はやっとバークレーの隣町、エミリービルに小さなアパートを見つけた。事務所の机がギリギリ置けるくらいのスタジオルーム。ここならサンフランシスコ、サンノゼまでミーティングや営業に行ける。次の日に契約をして、この部屋を確保する前金を置く事にした。


「彼に話さなきゃ。引っ越しの準備をしなきゃ」。1人で生きる覚悟はできていた。


10日間の沈黙を破り、やっと私は初めて彼に口を開いた。「引越しをするアパートが決まったから、今日契約をして、一週間後に出て行くね」と言った。彼は半分目を伏せたまま暗い顔で振り向き、10日ぶりに私と目を合わせた。


「わかった。。。」と言って、また背中を向けて泣いていた。つられて私も泣いた。そして口を開いたついでに、この様に私達が別れる羽目になった原因を探り合い、またお互いを責め合って、理由をごちゃごちゃ言ったりした。


でもこんな口論も私は今回が最後だと思って、「結果は本当に残念だけど、愛していたのは事実だから」と自分の気持ちを素直に伝えた。

すると「どうして僕達は愛し合っているのに、こんな辛い思いをするの?」と聞き返した。それから仕事にでかける前の2時間、私達は懲りもせずこんなやりとりをした。


「今更そんな話をしても、私は今日、今から決めたアパートに手付金を払いに行くから」と言った。その時私はなぜか、彼が私を引き止めるか引越ししてもまた迎えにくるような予感がした。


最初は感情的だったが、「出る」のは決まったんだし、我慢する必要も無いと思うと、言いたい事は言って2人とも落ち着いた。彼もこの10日間、抑えていた感情を出し切ったのだと思う。次第に言葉が途切れると、少し暖かい雰囲気に変わった。


彼はもう一度、問題解決をしようと、私に建設的な話を持ち上げていた。一番ケンカの原因となった家の改築など、歩み寄るよる対策を挙げてきた。


この10日間、どれだけ泣いたか分からない。どれだけ覚悟を決め人生の再設計を模索しただろう。これ以上私にはするべき事は無かったし、これ以上あれこれ話しても時間の無駄だと思った。もう時間は正午を回っている。


「じゃあ… 私、そろそろ行く…」。でも彼にはこの「行く」の意味が最後だというのも分かっていた。

一度下を向いてちょっと覚悟したように、また振り向いて、「Don’t go. Stay with me」と言った。 


「え…。」「いますぐ結婚しよう!」「今なんていったの?」「僕達、結婚しよう。そうしたら、もうお互いに値踏みしたり、ケンカする必要もなくなるよね」と言った。


私はあまりにも予測しなかった展開に戸惑いすぐに反応出来なかった。ただ、別れても私たちが育んだ愛は生きていた「愛の奇跡」を感じた。

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