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生きてみたい。_05/26

「 生きたいけど、逝きたいなぁ… 」

ぽつり、と呟いてみる。
無論それに対する返答は無い。
独り言、なのだから。
誰かに話しかけるように、愚痴を零すように話す。
目の前には13年間一緒に生きているくまのお人形さんが一匹。
壁に寄り掛かりお山座りをし、蹲るように俯き、途切れ途切れに言葉を投げる。

「 …独り、なんだな… 」

いつも通り虚しくなり目を伏せる。
そして死にたくなる。
相変わらずちゃんと話せる相手が居ないのだと思うと嫌になる。
…居ない、わけではないのだけれど。
彼ら、彼女らには、どれだけ必死に手を伸ばしても
手が届かない。
だから余計、独りなんじゃないかと思う。
寂しく、淋しく、虚しく、死にたくなる。

「 …あした、会える、のにね。 」

ふっ、と笑い、くまを撫でる。
少しぼろけた彼女はわたしの良き話し相手。
綺麗事も助言も語らずひたすら聞いてくれる。
黙してなにも話さない。
ぼくが泣き喚いていようと、怒り狂っていようと、笑い尽くしていようと。
絶対に、喋らない。

「 君は、ぼくより長く生きているんだよね。 」

そう。ぼくより長く、生きている。
17年、だろうか。
このくまも、姉のお下がりみたいなもの。
それでも所々継ぎ接ぎになった彼女は今も居る。

「 君も、声が出せたら、もっと色々できたかもね 」

体制を崩し、小さな彼女を腕の中に入れた。
そして、抱き締める。
暖かいどころか、少しひんやりとしている。
それが、この子のいい所だ。
…たぶん。
突如思った。
正に “  マリオネット  ”  だ、と。
自分の意思では動けず、ただ動かされる。
わたし自身、マリオネット、操り人形自体は嫌いではない。
『 marionette exhibition 』 だったか。
操り人形展覧会、行ったことあったな。
ふと思い出す。
操り人形の、彼女らの身体は
思っていた以上にガタガタだった。
形が乱れていたと言いたいわけではない。
そして身体の構造自体は人間そのもの。
けれど、曲がるわけのない角度に曲がる。

「 …関節の取れた、人間のようにね。 」

自身の左足首を見詰める。
外れた時の痛みは慣れようにも慣れない。痛い。
そんな痛感を常日頃味わっているのではないか、と
何故か人形に心配したことを思い出す。
 腕の中にいるくまを見詰める。
無意味に抱き締め、布団に倒れる。
そして、眠る母親を横目に、ぽつりと言葉を吐いた

 「 しにたいよ、わたし。 」

わたし、ね、
生きたくないの。
本当は、生きていたくない。
だけど、『 大切な人達 』 が居てくれるのなら、
生きていたいな。
皆とならば、
生きて、みたいな。
と思う。

不意に、考えてしまうんだ。
本当にわたしの 『 家族 』 が 『 家族 』 なのか。
血の繋がりがあることは嫌でもわかる。
けれど、それでも、
わたしの 『 本当の家族 』 が ぼくの 『 兄弟 』 だったのなら、死にたいなんて思わなかったんじゃないか。思ったとしても、ずっとは引き摺らないんじゃないか。と。
兄弟達が一緒なら、
健康的な身体になるように努力する。
意地でも生きる。

まいにち、「 おはよ 」っていって。
まいばん、「 おやすみ 」っていって。
みんなとお部屋で笑いあって、夜更かししたいな。
…夜更かししちゃったら健康的じゃないね(
金曜日だけ、夜更かし。
休日も、祝日も。お出かけしたいな。
水族館いったり、動物園いってみたり。
雨の中みんなでお散歩してみたり、
星空見に行ったり。
夏はお祭りとかも行きたいな。浴衣纏って。
お家で過ごしたいってなったら、課題嫌々言いつつもやり切って、たっくさん遊んで、お喋りして。
ふふ、兄弟達とやりたいこと、沢山だなあ。
妄想劇、してるだけなんだけどね。
それでも、もしも、全部できるのなら、
逝きたいなんて、思えないよ。
きっと。
 『 生きていたい 』でいっぱいになる気がする。
しあわせで、しあわせで。
しにたいなんて、思う暇もなくて。
そんな時、来たらいいんだけど。
到底、叶いそうになくて。また死にたくなる。
けれど、生きたくなる。
生きて、しまいたくなる。

「 こんなぼくでも、生きていいですか 」

そう聞いたら、あの人達は、
なんて、いってくれるのかなあ。
笑ってくれるのかな。
当然だろって言ってくれるのかな。
一緒に、生きよって、言ってくれるのかな。
言って貰えたらきっと
逝きたいなんて思わず

生きていたい。と
生きてみたい。と

迷わず言えるんだろうな。

貴方達が居るなら、ね。




「  生きてみたいよ。 」



3%しか残っていないスマートフォンを充電器に挿し
もう一度ぼそっと、誰にも聞こえないように。
生きていたい。と呟いた。


『  逝きたい  』を覆す様に 『  生きてみたい  』 を
スポットライトにあてたい。

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