村上さんと森さん

元気ですか? GWの途中の平日、あなたはどこで何をしているのでしょうか? あなたが元気で楽しく過ごしているなら僕も嬉しいです。
僕はといえば相変わらずです。今日から5月でも特に変わらず、GWでも何も変わらず(仕事を引退したのでGWのありがたさは皆無ですが)猫の頭を撫でながら引きこもっています。
妻だけが仕事をしているので生産性のない私はお金を使わないように息をひそめて暮らしています。引きこもりの僕には贅沢なことに時間はたっぷりあるので、ボンヤリしたり、居眠りしたり、本を読んだりします。

先日、村上春樹さんの『職業としての小説家』を再読しました。僕にしては珍しく図書館で借りた本ではなくて自分の文庫本です。ネタバレになるので詳細は省きますが、作家になるまでの経緯、小説や小説家や出版業界に対する考え、作家未満の志望者へのメッセージなどが語られています。
それとは別に、この前『小説家という職業』という森博嗣さんの新書を図書館で借りて、初めて読みました。ネタバレになるので詳細は省きますが、作家になるまでの経緯、小説や小説家や出版業界に対する考え、作家未満の志望者へのメッセージなどが語られています。

気づきましたか? 僕は「ネタバレになるので」から「語られています。」まで、僕は自分の文章をコピペしています。それほど、これらの本はタイトルだけでなく、その構成も随分と似ています。しかし当たり前ですが、中身は驚くほど違います。

脱線しますが、ちなみに僕は森さんの小説も以前から読んでいます。白状すれば村上さんの作品ほどには読んでいませんが、森さんが構築する数理的な独特の世界観が、僕の中にある数学好きな琴線に触れるのです。
なぜ数学が好きでも小説を読んだり書いたりするのか?という僕の心理を深く知りたいと思うなら(そんなことは特に思わないかな(笑))村上さんの『1Q84』に出てくる天吾くんという主人公の語りを読んでください。あれを初めて読んだとき「僕と一緒だ」と驚いたくらいです。
さてと、脱線を終了して、本線に戻ります。

村上さんと森さんの違いは、簡単に強引に言ってしまえば、小説を作品と考えるか、それとも商品と考えるか、という違いです。森さんは商品、それも売れる商品を戦略的に企画開発しているわけです。もちろん村上さんも作品を商品と捉えていないわけではありません。しかし、そのバランスは森さんの方が圧倒的に商品に傾いています。

また脱線します。念のため記しておきますが、僕は村上さんと森さんの本を同列に並べているだけです。本を読んで僕なりに解釈したことをネタバレしないように並べているだけです(すでにネタバレしたかも、深謝)。その解釈だって実際には浅はかな誤解に過ぎないかもしれません。
だから僕はここで、両方を比べて、優劣や好悪や上下や高低や甲乙や、そういうジャッジを下してはいません。
僕は、どちらの本を読んだあとにも、納得できることもあればできないこともありましたし、共感できるところもあればできないところもありました。そもそも僕は、目の前の対象に納得できなくても共感できなくても、それだけで劣悪下低乙だと判断するような人間ではありません。そもそも判断なんてしたくありません。
僕は今ここであなたに「2つの似たようなタイトルのエッセイがあったんだ。よかったら読んでみてよ」と言いたいだけなのです。
脱線を終了して、今度こそ本線に戻ります。

僕は還暦過ぎた今でも作家になりたいと思っていますから(作家を志望していた若い頃から)売れなければ食べていけないだろう、ということは理解しています。しかし森さんほどに論理的で戦略的には考えていませんでした。僕の場合は、それよりも自分の目の前にある今ここにある書きかけの小説を完成させて新人賞に投稿するという、その時点での現在に没頭してきました。デビューしたあとは良い作品を書けば売れるから食べていけるだろう、と楽観していたようなところも多分にあったはずです。
森さんの新書を読んで「目から鱗が落ちる」というほどの意外な発見は、正直なところ僕にはありませんでしたが、数々の証拠を示されて「やっぱりそういうことだったのか」という納得感はありました。
森さんの新書を読むということは結果的に(そもそも小説家としてデビューできない還暦過ぎのサンプルとしての自分がここに今生きているわけですから、目から鱗と言うよりも)現在の自分と言う存在を遠回しに確認しているようなものでした。

もちろん村上さんと森さんの2冊の本から解読できる共通点もあります。どちらも本業は別にあった。どちらもコアな趣味がある。どちらも読者を一番に考えている。どちらもネットを活用して読者を実感していた。どちらも作家や小説の未来に前向きである。どちらも世界規模で読者を意識している(翻訳とか)。しかし出版業界や業界人に対してはやや批判的か(旧態依然の体質とか)。
『職業としての小説家』と『小説家という職業』の2冊の本はどちらも私に向かって当たり前のことを叫んでいました。
(作品だろうが商品だろうが)書かなければ何も始まらないということを。

今回も長々と失礼しました。あなたの貴重な時間の浪費と読了による眼精疲労に感謝します。いつもありがとうございます。
それではまたいつか。夏は益々暑くなるから今から互いに自愛しましょう。お元気で。

追伸
ちなみに村上さんも森さんも、どちらも僕よりも年齢が上です。
年末に新人賞に投稿した小説は落選でしたが、また何か書こうと頭の中でボンヤリと思っています。


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