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両側乳がんラプソディ #14 G施設での診察

 G施設は、がん専門の病院である。

 エントランスを入ると、まず人で溢れていることに驚く。

 言い方は悪いが、明るくて活気がある。

 世の中には、こんなにたくさんのがん患者(あるいは疑い)の方がいるのだ、とむしろ励まされる。

 入り口で検温を済ませ、新型コロナウイルス感染対策用の回答用紙に記入し、初診の受付へと進む。

 診察前に記入する書類が多いということで、予約した診察時間の1時間ほど前の10時には到着していた。
 受付では今日の流れをまとめたようなスケジュール表が渡され、それに従って行動する。非常にシステマティックである。

 がん専門病院だけあって乳腺科の医師がたくさんいる(入口に掲示されている医師一覧を見た)。
 エスカレーターを上り、乳腺科の窓口を目指す。
 診察室がずらっと並び、パネルで順番が呼び出されるシステムであった。
 待合スペースでは付き添いを含めた大勢の人が静かに座って待っている。
 予約時間を過ぎてもなかなか番号は呼ばれない。
 そもそもここに来ている患者はみな、予約しているのだからジリジリする思いは全員同じである。

 それでも30分程度の待ち時間だっただろうか。
 番号を呼ばれ、さらに診察室の中から声がかかり私はドアを開けた。

 I先生は一通り机上のパソコンに表示された私のデータに目を通すと、触診をし、すぐ横のベッドで超音波検査をした。
 もう一度、何ヶ所か針生検も行った。

 一通り終わると、以前の診断通り、両側乳管がんであることは間違いないだろうと話し、遺伝子検査について説明をしてくれた。
 前の病院で遺伝子検査について聞いており受けることを決めていた私は、

「お願いします。」

 と即答した。

 I先生は少し驚いた様子で(なんせ早かったので)、書類を準備してくれた。

 その中には、万が一、私に何かあった場合(事故とかだろうか?)、検査結果を誰かに伝えるかどうか、誰に伝えるかを決める項目もある。
 保険が適用とはいえ、安い検査ではないので、結果が闇に葬られる!のも惜しく感じ、配偶者のYを代理に立てた。

 気楽に検査を受けることにしたが、検査結果は確かにセンシティブである。
 乳がんにかかる可能性が高いということを知ってしまうことで、不安になったり悩んだりする人もいるであろう。
 家族仲がギクシャクすることもあるかもしれない。

 私には子どもはいないが、陽性だったらその結果をいつどうやって伝えようか迷うと思う。

 検査自体は血液で簡単にできるものであり、診察後に採血センターによるように言われた。
 結果は3週間後に出るということで、次の診察日は3週間後となった。

 女性医師同様に、I先生も左胸は全摘、右胸は温存でいけるであろうとの所見であった。
 希望を聞かれたので、両胸に乳頭乳輪温存乳房切除術を行い、同時にインプラントで再建してほしいを伝えた。
 単純に言えば、乳首と乳輪は残して全摘し、インプラントで胸を作るということである。

 I先生は少し考えた後、

「左胸はがんが乳頭に近いから確実ではないけど、なんとかなるかもね。」

と反対する様子もなく、その場で形成外科の診察予約をとってくれた。
 詳しいことは形成の先生から話を聞いてほしいということなのだろう。
 形成外科医に伝えるために記録として、I先生はがん細胞がある胸のあたりを油性ペンで丸く囲み、何枚か写真を撮った。

 詳しいことを調べるために、MRIを撮ると言われたが、喘息の持病があることを告げると、やめておこうと言われる。
 これは前の病院でもそうだったのだが、喘息の場合、MRI検査で発作が出る可能性があるため、推奨されていない。

「撮らなくても大丈夫なのですか。」

「他の検査もあるから大丈夫だよ。」

 これも女性医師と同じ意見であった。

 後日、ネットで調べたところによれば、喘息でもMRIをしてくれる病院もあるようである。
 なんせ、病気やケガの初心者なのでMRIが何かもあまりよくわかっていない。
 経験もない。
 そんなもんなのか、と先生の言うことに従うだけだった(これが結果的に新たな乳がんの発見を遅らせることになるのは後の話である)。

 手術について質問してみると、手術は9月中旬から下旬になるだろうが、それも早くて7月末にならないと確定しないと言う。

 手術日までは特に治療も必要ないそうで、だいぶ宙ぶらりんな立場である。

 「その間。何かできることはありますかね。」

  一応、食い下がってみたが、

 「いつも通り過ごしてください。」

 「仕事は?」

 「いつも通りで大丈夫ですよ。」

  笑顔で答えるI先生であった。

  私は乳がんの実感がないまま、乳がん患者としてあと2ヶ月を過ごすことが決まった。


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