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【選書探訪:文字の海には、知らなかったボクがいました。】「〈心〉はからだの外にある 「エコロジカルな私」の哲学」河野哲也(著)(NHKブックス)

キャッチコピー:文字・活字文化推進機構

[ 内容 ]
「心」とは、自己の内に閉ざされたプライベートな世界なのか?
環境と影響しあうエコロジカルな「心」という清新な視点から、他者や社会と生き生きと交流する自己のありかたを提示。
行動や社会現象の原因を人の内面に求め、不毛な「自分探し」を煽る心理主義的発想を、身体性や他者の軽視につながるものとして批判しながら、「個性」「性格」「内面」など自己をめぐる諸問題に鋭く迫る。
社会(環境)を個々人のニーズに合わせて改善し、快適な生活を主体的に形成してゆく展望を示す、自己論の革命。

[ 目次 ]
序論 心理主義の罠
第1章 環境と共にある「心」―ギブソンの知覚論から
第2章 なぜ「自分探し」に失敗するのか―「性格」という自縛
第3章 行動すなわち心―「内面」へのエコロジカル・アプローチ
第4章 なぜ私はかけがえがないのか―「個性」を考える
第5章 世界は私の表象だろうか―身体図式と所有
終章 身体と環境のデザイン―「真の自分探し」に向けて

[ 問題提起 ]
心理主義を徹底的に批判した興味深い本である。

現代は、自分探しや個人の内面に問題を探る風潮が、未だに支配的である。

まるで政治や経済、そして現代社会になんの問題もないかのごとくである。

ひたすら個人の内面が問題にされる傾向にあり、ただその当人のみが悪いとされる時代が継続している。

若者は、怠惰でやる気がないからニートになると指摘するだけで、雇用情勢等が問題にされることがない。

十代の少年が連続的に犯罪を起こしても、マスコミや心理学の知が問われることもなく。

ただただ当人の内面だけが問題視される。

下流階層化についても、当人の社交性の欠如のせいだといわれていた。

この件に関しても、雇用や社会情勢の変化は、特に問題視にされていなかった。

まったく個人の生活環境における心理面での責任ばかりに帰せられるのが実態ではないだろうか。

[ 結論 ]
その様な状況下においては、私の心ばかり責められて、政治や経済、そして社現代会のせいにされないのだと感じる。

人間は環境の動物で、7割ぐらいが環境の影響だという研究が有るのだから、問題の原因を社会学や経済学に求めるほうが妥当と思う。

この本は、そのような心理主義を徹底的に批判した本である。

しかも、このような心理主義は、デカルトの「われ思う、ゆえにわれあり」の主観主義哲学から導かれた帰結であると述べていた。

確かに、人間の本質は、心であると規定したのはデカルトである。

自分探しがブームになって以降、それを心理学に探ろうとする人は多いと思う。

但し、そもそも心理学は、医療上の要請や産業上の有用性の基準から求められてきたものであった。

つまりは、その心理学の扱う内容が病的概念のオンパレードであり。

そんなものを読む私は、病気だらけであり。

そして、産業社会の成功と失敗の選別だけで自分を値踏みする頭をつくってしまう点に注意する必要がある。

その様な歴史的な経緯から思うに、心理学等は、どちらかと言えば政治的なイデオロギーに過ぎないのではないかとさえ思う出来事も多い。

しかも、内へ内へと向かう説明方式である心理学の内容は、社会からまったく孤立した心というものがあるかのようでもある。

人が自分の性格を知りたいということは、自分の行動特性を知りたいのではない。

自分の行動傾向を変えたいと望んでいるためである。

それなのに内面に私を探そうとする者は、自分の内面の奥深くに行動の指針を与えてくれる社会的基準や社会規範を探そうとする。

それは、心の内部には無く。

実は、心の外部に有るものであるということを、忘れてしまっているのではないだろうか。

私の本質は、私の外部の権力である。

例えば、私たちは、ある人を優しいとか愚かとかいったりする。

それは、身体的な行動パターンから観察されるものであるため、その様に感じる。

しかしながら、その背後には、実体としての心があるわけではないと著者は述べている。

内面があるという思い込みは、率直な自分の考えや感情の表現が押さえ込まれることに起因して、色んな感情の発露として表面化する。

そして、私たちは、たいして真の自己といった大げさなものなど隠していないのではないかといった問が重要であると思う。

[ コメント ]
本書は、スリリングな文章で心理主義の解明をおこなってゆくさまは非常に読ませるものがあった。

問題を自分の内面へ、心理へ探し求めるのではなく、社会や権力に求めてゆくことは、とても新鮮な視点で勉強になった。

要は、こういう転回がいままさに必要とされているのが現代であると、この本ではいっているのだと思う。

[ おまけ:今日の短歌 ]

「夕暮れの書店に集ひ一冊の本選ることに安らぐ者ら」
柴田典昭『樹下逍遙』

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