旅の記憶 1994・夏 カイバル峠
30年前の夏
僕はパキスタンとアフガニスタンの国境
カイバル峠にいた
シャムルート砦のゲートをくぐり
僕らは一路カイバル峠を目指す
この辺りはすでに
トライバルテリトリーに入っており
道路の上以外はパキスタンの法律が適用されず
道路を一歩でも離れると
その地域を支配している部族の掟に
従わなければならないという
特殊なエリアだった
人の往来はある程度あるが
普通の街とは少し違う
殺伐とした空気感があった
道路から一歩外に出ると
法律が適用されないということが
事実であることが
街の様子からも見て取れる
街を歩く一見普通人々が
みんなライフルを持っているのだ
僕たちはパパ氏から
許可なく車から出てはいけない
と注意を受けていた
街の雰囲気から
車の中から写真を撮ることも
ためらわれていた僕だが
だんだんその雰囲気にも慣れてきて
この写真を撮ったのだが
シャッター音に気が付いたパパ氏に
「 お前は殺されたいのか!!」
としこたま怒られた
確かに冷静に考えたら
ここでシャッターを切るのは
自殺行為に等しい
このエリアの街の建物は
ほとんどが土壁の質素な作りだった
普通の民家のような建物の壁面に
窓とは違う小さな穴がいくつも開いていた
パパ氏によると、それは銃眼で
家の中から射撃をするための
穴だとのことだった
そして僕たちは
ついにカイバル峠に
ガイドブックに載っている
曲がりくねった道路が見えた
その先にあるはアフガニスタン
遥か彼方にまた別の国があり
また別の暮らしがあるのかと思うと
なんとも言い難い不思議な興奮を感じていた
ここが終着点かと思っていたが
記念撮影をした後
(ここでは撮って大丈夫と
パパ氏の許可を得てから撮影)
僕たちを乗せた車は
さらに先へと進み出した
続く
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