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土人の雨乞い
思い出したのでもう一度書いてみる。
当時、まだ配送のアルバイトをしながら音楽家をしていた頃とあるスナックにお酒を届けに行った。
常連さんでもあるそこのママさんはとても暖かい人で毎度お小遣いや食べ物をくださるし、我々アルバイトが他に夢を持ちつつ配送の仕事をしていることを知っていた。その日はまだ時間が早くお客さんもいない店内。そんなある日こんな会話になった
「君は何をしたくてこのアルバイトをしてるの?」
氷の詰まった袋を手渡しながらママさんは尋ねる。音楽家だと硬い気がして、こんな言い方に変えてみた
「僕はミュージシャンになりたくて、あっ、でもポップスとかの方じゃなく、どちらかといえばクラシックの方でホールとかでやる方です。」
「そうなの、ミュージシャンって大変でしょ?頑張ってるのね」
「恐れ入ります。」
こんな会話を淡々としつつ作業を進めた。お会計の前、ポツポツとママさんが口を開いた。
「・・・土人の雨乞いって知ってる?」
「どじんのあまごい?土に人って書いて、土人ですよね。半裸の人のイメージがありますけど、そんな人たちの雨乞いですか?」
「そう、彼らはすごくて・・・彼らが雨乞いをすると必ず雨が降るの。なんでかわかる?」
「必ず・・・、必ずですよね?なんでだろう、魔法とかあと薪を燃やして上昇気流を起こして雲をbrbrbrbrbrbrbrbrbr」
「違う違う、そんな難しい話じゃないよ」
「うーーーーん」
頭をひねるも名案もトンチの効いた答えも出てこない。自分のセンスのなさにしょんぼりしているとママさんは答えを教えてくれた。
「土人が雨乞いをすると必ず雨が降るの、必ずよ。
それはね
彼らが雨が降るまで雨乞いをするから」
えー、あー、うーんとか言いながらなんだか引っ掛け問題にひっかかったような軽いバツの悪さを感じながら話を話を聞き続ける。
「土人は諦めない、雨が降るまでずっと祈ったり行動を起こし続けるの。雨が降るまで。だから土人の雨乞いは必ず雨を降らすのよ」
少しづつママさんが言いたいことがわかってきた。
「だからあなたの夢が叶うまでやりなさい、土人になりなさい。ミュージシャンになるまでやればいいのよ、そうすれば必ずミュージシャンになれるんだから」
その時は配達の途中であったためそれ以上長居はできずいいお話のお礼と商品を買ってくださったお礼を言い、ママさんからいただいたお小遣いを握りしめ店を後にした
でもなんだかずっと気持ちは高揚したままだった。当時英国留学時代以外、高校生からずっとなんかしらアルバイトをしていた。
ファミレス、コンビニ、ビルの建設現場、中華屋の厨房、パチンコ屋
様々な業界で働いていたけれどそれらはいつも自分のやりたいことのためであった。教員免許も持ってるし教員の道や他に就職するという手もあったけどなんか違かった。
でもちょうどその頃、自分の生活に絶望というか嫌気がさしていた頃であった。
俺はいつまでこの生活を続けていくのか、暗い繁華街の裏路地で配達の最中思ったのを今でもよく覚えている。そんな中聞いたこの話だった。
その後その日のバイトが終わりすぐにスマフォのいつも目に付くメモ欄に一言書き加えた。
土人の雨乞い
内容までは書かない、ずっとに心に残っているから
もうそのバイトを辞め、音楽家として独立してから長くなるけど、ずっと覚えているしあの日の僕を救った、奮い立たせたのはあのママさんのお話だ。
その頃の自分
もう少しだけ稼げるようになったら、あの日の思い出など何も話さずただ一本高いボトルを入れに行こうかと思う。
Japan United Brass Project
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