見出し画像

映画『PERFECT DAYS』を観たコピーライターが考える、クリエイティブがもたらす「価値観の変容」について


先日、映画『PERFECT DAYS』を観た。


ひと言で言えば、アナログかつ質素で変わり映えのないおじさん清掃員の毎日を、ただ2時間垂れ流すだけの映画である。

そして、個人的には人生のベスト5に入るのでは?ってレベルで「刺さった」作品だった。

主人公が毎朝家を出る時、ちょっと空を見上げてニコってするんです。
晴れの日も雨の日も。
それだけで彼の1日がキラキラ輝いて見える。

いわゆる「今」を生きるってやつですね。
頭では理解していたが、改めて「今」を生きるということを身を持って解らせられた気がした。

もちろん、生きてれば悲しい日も寂しい日もムカつく日も色々ある。
だけど、毎朝空を見上げてニコって笑えば、キラキラした1日を始めることがいつでもできるのだ。

「こんなふうに生きていけたなら」というポスターのキャッチ通り。こんなふうに生きたいと思い、翌朝から私も空を見上げてニコってするようにしてる。

私の場合、そのあと二度寝するんだけど。
それもまた完璧な1日である。


------------

で、ここからが本題。
なぜこの映画が人々に刺さるのか?ということを一応クリエイティブの世界に居た私なりに考えてみた。

おそらく、

【より多くの人々に、より強く「価値観の変容」をもたらした】から、だと考える。

これはコピーライター界隈?では万有引力の法則より有名な話だが、
広告などにおけるキャッチコピーの主な役割は、消費者の注目を商品やサービスに向けさせること。
そのための手段として、「消費者の価値観を変容させる」というワザがある。
なぜなら、人間は自分の価値観が変わるとき、強烈に感情が揺れ動かされるからだ。


例えば、私の好きなキャッチコピーに以下のようなものがある。

「愛しあってるのなら、0.03m/m 離れなさい。」

これは岡本理研ゴムのコンドームのキャッチコピーなのだが、何度見ても名作だなーと思う。

何故、このコピーに心揺れ動かされるのかというと、物理的にも精神的にも、
「より相手に近づき寄り添うことが愛情だ」→「相手を思いやって離れる、という愛情もある」

という【価値観の変容】を教えてくれたからだ。


他にも、こんなキャッチコピーもある。

「日本を、1枚で。」

こちらはSuicaのキャッチコピーである。
日頃当たり前に使っているSuicaだが、これ1枚で日本中のだいたいの場所に行けることを考えると、改めてその利便性を実感することができる。

これもやはり、【価値観の変容】を与えるキャッチコピーである。
「移動はめんどくさい」→「移動はSuicaだけで事足りる」という価値観の変容。それによってSuicaスゲーと思わされたのだ。



『PERFECT DAYS』の話に戻ろう。
この映画は私にとって、これらの名作キャッチコピー以上に【価値観の変容】を与えてくれた。

「日々、幸福度は変動する」→「幸福はいつでも誰にでも、変わらず存在する」という価値観の変動だ。

どんなに不幸な目に遭っても、空がある。
どんなに悲しくても、朝の缶コーヒーは美味しい。
それって、つまりは完璧な日々。
願わくば、自分もこんな誰かの価値観を変えてれるような作品を作れたらもっと幸せ。

この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?