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⚾️ともに涙し、見上げた一枚の写真。

先日の写真展での出来事だった。


開催二日目の昼下がり、来場者が増えてきた。知人が見えたこともあって、作品の説明をしながら談笑をしていた。

展示作品の中で、最も大きな写真はA3ノビだ。迫力満点で、毎回どの写真を選ぶか迷うほど。しかし今回ばかりは違った。それは撮った瞬間に決めていたのだ。


桜美林大学の松江 京主将でいこう。



撮り手の思いと選手の一生懸命さが伝わったのか、多くの人から好評だった。このときちょうど、松江主将の作品を前に、知人と彼の人となりを話していた。評判通り、素晴らしい人柄であることを再確認した。会話に盛り上がりをみせていたそのときだった。

「あのう」と、後ろから一組の夫婦に声をかけられた。驚く間もなく、続けていう。

「松江です。本人が用事でこれないもので…」

私はその場でひっくり返りそうだった。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたに違いない。本人のご両親があらわれるなんて、微塵も思っていなかったからだ。

松江主将のお母様(以降松江さんと表記する)と、写真について話をした。選出した理由はもちろん、私が抱いた印象と、桜美林大学を優勝に導いたこと。一年間の出来事を振り返った。

松江さんは私が書いたnoteをきっかけに、大学野球を見に行くようになったという。私は当然、その事実を知らなかった。

大学野球は高校野球と違って、観客が少ない。特に首都リーグにおいては、近年観客が増えているものの、まだまだであるといえる。大学野球の知名度ももちろんだが、家族にとって最たるは『息子が出場しているか否か』だ。多くの部員を擁する桜美林大学で、コンスタントに試合に出場するのは難しい。それを加味すれば、見に行かないという選択があるのは当然である。

ご両親には、とにかく私の思う松江主将の素晴らしさを話した。そりゃ父母が一番本人のことを知っている。それでも私は伝えたかった。厳しい結果に直面した桜美林大学を優勝に導いたこと。一年にして、チームの色を変えたこと。出場したいという思いがありながらも、仲間の成功を本人以上に喜べること。熱く語っていたら、目に自然と涙があふれた。

松江さんの目にも同じく涙がたまっていた。その涙の裏にはきっと、大学までに至る様々な出来事があってのことだと推測した。よくわからない赤の他人が、なぜここまで語るのか、不思議に思っただろう。自分以外の一番のファンはやはり『親』なんだと、私は強く感じた。

声援を送るために、大学まで野球をやらせているわけではない。できれば試合に出て結果を残してほしい。その前に、息子である選手が納得をして野球を続けてくれたらいい。憶測でしかものを語れないが、どの家族もこんな思いを抱いているのではないか。

試合に行かないという選択の中には、色々な思いがある。綺麗なことばかりではない。競争の世界であるから、試合に出られる人、そうでない人がいるのは当たり前。息子を見に行くことで、本人が傷ついたらと足が遠のく人もいる。家庭によっては、見に行くことが全て『善』ではない。それでも松江さんは、私のnoteをきっかけに球場に行くことを決めた。応援に行ったとき、どんな思いを抱いたのだろう。

誰もが試合に出たいと思っている。その思いが叶う人、叶わない人、様々いる。選手の立ち位置によって、家族は応援の仕方や見方が変わる。私は誰もが報われてほしいと願う。しかし、残念ながら叶わない。それが現実なのだ。

ただ、作品は嘘をつかない。その場で一生懸命頑張ったという事実は、半永久的に残る。写真展で話をしたことによって、松江京という選手の素晴らしさはたくさんの人に伝わった。エピソードを知らなくとも、多くの人の目に留まった。紛れもなく、本人の人柄が全てを物語っている。写真の力というより、松江主将の力だ。

私はこの写真を見るたびに、選手本人はもちろん、ご両親のことも思い出すだろう。試合のことも、変革したことも全部。一枚の裏には、多くの思い出と記憶が詰まっている。それが記録として固まる。同じ作品を見て、ともに涙を流せるのは幸せだ。私にとって一生忘れられない写真展になった。


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作品について、多くの人と感想や意見を交換できる。これが写真展の醍醐味だと、私は感じています。ともに笑いながら、ときに涙しながら作品を見返せる。薄れてしまう記憶だからこそ、記録の大切さを痛感します。

今までたくさんの保護者の皆様がお見えになりました。そのたび私は嬉しく思い、話す機会がもてることに大変感謝しています。自分の撮った作品をどのように思っているのか。また、私の撮った意図を伝えることができる。とてもありがたい時間です。

どれだけの選手を見てきたでしょう。どれだけの保護者出会ってきたでしょう。一人ひとりにエピソードがあり、何もなくして大学まで野球を続けてきた人はいません。だからこそ、一枚一枚の写真に『たくましさ』があらわれるのではないかと思います。

そんな素晴らしい瞬間に立ちあえること、私はとても幸せです。これからも人に寄り添う気持ちを忘れず、優しくて強い作品を残していきます。


桜美林大学 松江 京 主将(二松学舎大学附属)


いただいたサポートは野球の遠征費、カメラの維持費などに活用をさせていただきます。何を残せるか、私に何ができるかまだまだ模索中ですが、よろしくお願いします。