見出し画像

BASE ART CAMP diary vol.03 音を採取したら時間が可視化されました

はじめに
 
 建築と芸術が好きな「BASE ART CAMP」1期生、八木のとても私的な感情や妄想が折り混ざったdiaryです。正直に告白すると、この記録や体験が、どこかで私の役に立てば嬉しいと思いながら、いつか、あなたの別の視点も共有してみたいです。

音が身体を包みこむ場へと進む

 今回は、京都、錦林倉庫前にある「外」というスタジオでの開催です。「外」と掲げられた看板が掲げられた入り口には、見慣れたBASEARTCAMPの旗が目印となって迎えてくれています。ここは、3人組のバンド、空間現代が録音、練習、シアター上映、実験的な音楽を発表する場として運営していると講師の小松千倫さんから紹介がありました。また、中廊下は、吉増剛造さんが即興ライブで描かれた躍動感のある詩が片壁一面に描かれていたとも。音へのアプローチを考える今回のワークショップに適した場所だと思いました。

座学.音と空間の素描(デッサン)を思い描く

 今回の講師は、音楽家であり、インスタレーションの美術制作も発表されている、小松千倫さん。「今日のワークショップは、スマホでまちを歩いた中で録音した自分の声を爆音で聴いて、自分の内側から出す言葉と声をよりシンプルに体験するというもの。受講生の声は即興で編集をし、30分の声の集合体にします。」と説明があった後にいくつか活動の紹介がありました。

音にまつわる作品を紹介する小松千倫さん

 アンビエントな曲として、コラボレーションも多くあり、パフォーマンス、DJやライブ開催、そして、熱海市のホテルでのグループ展での大空間でのインスタレーション展示、平面作品など。音と空間の関係をさらに研究や執筆活動へと展開していきます。「今生きている、インターネットが充実して普及したあとの世界における私たちの身体の使い方、あるいは全部クラウド化されてデータになっていく過程で記憶や伝承がどう変わり、どう残っているか」というテーマでの研究や関連作品が目の前に広がります。

 カルロ・セヴェーリ「キマイラの原理」の一節から、祖父の父から、父の父、父、そして私へと世代を経て伝わる様子。朗唱から祈り、そういったことが過去にあったと語ることへと信仰が形を超えて残っていくさま。伝わることと変化していくこと両儀的な行為が、矛盾しながら変わっていく関係性の面白さ。内容は朽ちていっても語ることとその方法は受け継がれていく。音と意味の二つの側面を感じること。意味を持った言葉を考えて発すること。講義内容が、採取した言葉を爆音で聞く今日のワークショップへと繋がっていきました。

workshop1.歩きながら発する言葉を録音する 

 さて「外」から外へと繰り出しました。晴天。私は土地勘もなく、吉田山の方かなと思う方向へと歩みを進めました。歩きながら、時代を遡る気持ちになってきました。歩き進むと、小さな公園に行きつきました。友人とブランコに揺られながら、ある時、UFOを呼んでみようとしたことを思い出し、日本語ではない、どこの国ともわからない言葉。それを録音することにしました。何を呼ぼうと辺りを見渡すと鳥の鳴き声が聞こえました。私は、鳥を呼ぶ言葉を録音しました。リズムを変えて、おいで、おいでと思いながら、30秒ほど。録音中は、想像より、長く感じました。赤子のことも考えました。もしかしたら、世界中の赤子は共通のなき声=始まりの言葉があるのかしらと。

ブランコを揺らしながら考える様子

workshop2.秘密を爆音で共有する

 「外」へ戻り、他の受講生と発した言葉を話し合いました。皆さん、さまざまな言葉を採取されています。法然院の蛙の声を自分の声と絡めた。フランツ・カフカ「変身」を朗読した。亡き義兄との思い出の吉田山で念仏を唱えた。鳥の声に反応した。など。外出前に小松さんから、「哲学者ジョルジュ・バタイユの集団で秘密を共有する行為」は、ワークショップのひとつの意義ではないかという話があったことで、なんだか、より一層、話し合いを楽しめたように思いました。その間に小松さんは、受講生の採取した言葉の編集作業を進めていました。

 照明が落とされました。言葉が爆音で流れてきます。この体験をなんと伝えれば良いでしょうか。それぞれが発する言葉がどれも大切なその人の瞬間で、違う体験であったはずなのに、繋がってひとつの物語になっていました。小松さんの編集マジックによって、私の言葉は、鳥の声に反応した言葉と、幼児アニメの歌の一節を紹介した言葉の間に挟まっていました。偶然にも、録音中に考えていた2つのことが前後に繋がっていました。

 暗闇の中で、他の言葉からも空の情景から行為まで、ぽわわんと立体的な情景が思い浮かんでは違う場面へ変化していきました。全てが繋がっているように思えました。録音していた時は長く感じていた時間が、皆で爆音で共有している時間は、まとまりとしてあっという間でした。

 音について考えていたはずなのにいつの間にか、時について考えていました。作品が生まれる瞬間に立ち会った気がしました。進行役の佃七緒さんの感想で「普段の会話で聞こえないボフボフした人の発話の音が聞こえて身体がくっついた音に聞こえる分、その人に近い言葉に感じる。それに比べて普段の言葉はちょっと遠いかも」と聞いた時になんとなく感じていたことを同じ場を体験した人の言葉で気づけた喜びもありました。 
 
 最後にグループで今回の体験を改めて話し合って、同じように共感したり、発見したり。ここでしか感じることができなかったことを吸収できた日のように思いました。なんだかとても大切なことに感じて、この体験を思い出せるように、帰りに散歩で通りがかったお店で出会った白いメダカを飼うことにしました。

書き手

八木 千恵(Yagi Chie)
1981年 愛媛県出身。
公園の遊具設計、広告代理店の編集、コールセンター、歌手ピの沼で韓国ワーホリ、不動産営業、建築雑誌社で企画営業など職を転々としながら、結婚を機に京都へ移住。建築家と他の生業の方の対談と懇親会を企画したり、美術作家さんの周辺をうろうろしたりしています。

#art   #diary   #アート #日記 #外 #空間現代  #吉増剛造 #小松千倫 #佃七緒
#最近の学び

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集