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BASE ART CAMP diary vol.02 切り紙の不思議を体感しました

はじめに
 
 建築と芸術が好きな「BASE ART CAMP」1期生、八木のとても私的な感情や妄想が折り混ざったdiaryです。正直に告白すると、この記録や体験が、どこかで私の役に立てば嬉しいと思いながら、いつか、あなたの別の視点も共有してみたいです。

共感しかない座学の時間

 オノヨーコさん、谷山恭子さん、谷澤紗和子さん(とその息子さんの可愛い油絵)、そして、高村智恵子さん。大好きな作家さんは数多あれど、今、私の仮部屋に飾られている作品たち。谷澤さんの「はいけい ちえこ さま」は、私の神棚で、頭上より少し高い位置に飾ってあって、心の中で拝むことで安らぎや勇気、時々の感情の後押しをいただいています。
 神棚といっても実際には、切り紙であります。赤い紙を背景に金色の中心に顔のある、私にとってのカミサマが配置されています。草案は、高村智恵子さんが赤い色で制作した紙絵です。智恵子さんは、詩人・高村光太郎の妻であり、「智恵子抄」のモチーフとして、没した後に夫目線で綴られた愛の詩によって、人々の記憶に刻まれた人です。

 今回は、私のカミサマの生みの親である美術作家、谷澤紗和子さんのワークショップに参加しました。私にとっては、「BASE ART CAMP」の扉を示してくれた人でもあるので、当然、期待値はMaxで電車に揺られます。

 会場は、先日と同じ、河岸ホテルです。前回は、小崎さんの講義ということもあり、公聴の為、スクリーンに対して椅子が並んでいましたが、今回は、大きな作業机が置かれて、受講者さん同士で対面して座り、少し横を向いてスクリーンを観る感じで座ります。持ち物にデザインカッターと鉛筆と消しゴムをと事前にアナウンスがあり、机上には、カッター板となるものが置かれています。切り紙を体感できるのだろうと期待を持ちつつ、谷澤さんの方へ姿勢を正します。

自身の思考を説明をする谷澤紗和子さん

 まずは、谷澤さんについて知る時間です。「光の言の葉」という講義タイトルに相応しく、谷澤さんの端々のことばが、きらきら光っているように感じました。少し照れながら、丁寧に気持ちを説明いただいたことで、これまでの私の作品解釈にそれまでの本人の気持ちや制作背景が情報として付加されていきました。
 
 矢津さんからの「なぜ作家になったの?」という問いかけから講義は始まりました。 
 谷澤さんからは、「芸大へ行ったこと。中高までは、美術といえば、絵か彫刻と思って油絵を学びに入学したけれど、大学で先生や周囲の人たちに自分の知らないモノの面白がり方をしている人や作品があると知って、自分の価値を一旦、置いておいて、新しい発見を面白がることで、その世界にのめり込んでいったことが大きかった。「BASE ART CAMP」でもさまざまな場面でそのチャンスが訪れるだろうから、同じように面白がると体験が深まると思う」と教えてくださいました。

それから4つのカテゴリー毎に作品紹介がありました。

  1. 切り紙、立体的な切った紙が織りなす光と影のこと

  2. ねんどから焼き物へと作品が変化していったこと

  3. 小説家・藤野可織さんとのコラボレーションのこと

  4. ことばのドローイングと女性像のこと

 谷澤さんの作品群が、彼女の思想別カテゴライズで語られることで、個々の思想がきちんと分類されて幾重もの多層的な広がりを持って、頭の中に入り込んできました。とりわけ、響いたのは、女性像と緻密に絡む、ことばのドローイング。谷澤さん自身の実体験である、出産や育児で今までの日常と比べて弱く不自由な存在となった時に言わざるおえないことば。「NO」であり、「くそやろう」。

 私もそのことば、出ざるおえないという感覚に陥った時期、ありました。妊娠中は、どんどん身体が重くなって、よたよた歩き。誕生してからの赤ちゃんは、お世話をしないと生きていけないし、自分の身体は、出産でありとあらゆる栄養を赤ちゃんに渡しきって弱りきってるし、寝たい時に寝れないし、起きたい時に起きれない。想像以上に不自由な、でも幸福も沢山感じる、さまざまな感情がごちゃごちゃ渦巻く時期でした。「今は、幸福だけを感じさせてくれ。」と思っていました。

 谷澤さんは、ネガティブな感情のことばを丁寧に大切に切り取っていくことを、浄化させていく行為としました。谷澤さんに作品にカミサマが宿る(と私が感じる)のは、必然で納得です。うまれた作品は、躍動感があり、ネガティブとされることばも優しい。選ばれたことばと正反対な印象を作品から受けとるから、心に引っかかりを残すのだと思いました。
 前回、小崎さんの紹介にあった「アートとして見る、目が非難することのできない何か。アートワールド」が目の前に広がります。

 あぁ、そういえば谷澤さんの切り紙の近作は、よく金色に光らせているのだけれど、何故なのか聞けばよかったなぁ。

あっという間の切り紙「光の言の葉」workshop

 30分の座学を終えて、時間はおおよそ14時ごろ。今朝は、9時から娘の空手の試合があって、2人で緊張しながら、試合会場に着くと、提出書類を忘れ、500mほど離れたところにあるコンビニでPDFを印刷して慌てて持っていく。の過程を走りながら2往復したことが、ぐわんぐわんと今頃になって響いてきました。ちょっと酸素が足りないぞ。オヨヨ。
 

谷澤さん作の練習用の下絵を切る受講生のようす

 谷澤さんに切り紙のコツを聞いたり、練習用の下絵を体験したうえで、紙にみずからのことばを切ります。切り紙に慣れながら、自身の切り文字のことばを考えます。「光の言の葉」をテーマに、「掲げたい言葉」を切り文字にしてみます。

 いよいよ本番。くっつけてことばを切る行為は難しい。そして、ネガティブなことばを選ぶのは、そこに前向きな感情があったとしても、とても勇気がいる行為だと、実際の体験により、理解しました。自身の根底を曝け出す感じ。恥ずかしい。蓋をしたい。隠したい。信念や強い心が必要です。奥底にあり、なかなか前面に自分では出せない感情のことばだから、目の前に正直に浮き彫りにだしていく、谷澤さんの作品に惹かれるのかもしれません。体験を通して、作者の感覚や思想を考える機会も得ることができました。


ちんちんかもかも、ワガママ、スキ!

 河岸ホテルの秘密の地下空間へ仕上がった作品たちを吊るしていきます。その後、数人に分かれて、空間を体験します。待ち時間で受講生同士で何故このことばを選んだか、発表しあいます。

 私の目の前に座った受講者は、手つきが何やら違います。繊細かつ、丁寧。サクサクと吹き出しのようなモチーフで「ちんちんかもかも」と切っていらっしゃいました。後ほど伺うと、谷澤さんの後輩ということが発覚。つまりは、京芸生でした。感覚を取り戻す(私から見るとすでに十分なのですが)ために受講している。とのことでした。意味は、各々で調べていただくとして、選ばれた背景は、「お子さまの入学祝いに広辞苑を贈って、パートーナーと、広辞苑(それぞれの家にあったとのこと!)でどんなことばを調べたか?という話で同時にいったことばが「ちんちんかもかも」だった」とのこと。つまりは、愛のことばです。はいっ!

吊るされることばたち


 ワガママは、秘密の地下空間でみたことば。鑑賞中に、谷澤さんが、「「ワガママ」は、平面だと平らだけれど、吊らすと、ひねくれて、その言葉とリンクして立体的になって面白い」と紹介のあったことばです。展示することで、ことばが変化することを発見できたのも楽しい経験でした。


照らされることばたち


 しかも、室内空間の灯りを消して、受講生たちの幾つものことばを3方向から照らすと、ことばが大きくなったり、重なったり。同じ体験をしていた、舞台芸術の蔭山陽太さんが「これは、演劇にできますね!」と。いつか実現したら、THEATRE E9に足を運びますね。楽しみに待ってます!

ありったけのハートとスキ

 スキは、私の選んだことば。小学生の娘ともうすぐ1歳になる息子。息子から発するメッセージ(といってもまだ発語はないからアイコンタクト)は、スキ。とにかく、スキ。でも私や娘、受け手が忙しくしていたり、気分が落ちてしまっていたら、そのことばは、帰ってこない。不安そうな顔をする。だから、丸く、鏡の中にスキとハートをくっつけて切った。スキの気持ちをありったけに込めて。息子から、反射して返ってくることば。スキが空いて、対岸を照らすイメージ。お家に帰って、娘と娘の友達に見せたら、「可愛い!」と褒めてもらったことば。

 多幸感いっぱいの「BASE ART CAMP」初ワークショップ体験となりました。

書き手

八木 千恵(Yagi Chie)
1981年 愛媛県出身。
公園の遊具設計、広告代理店の編集、コールセンター、歌手ピの沼で韓国ワーホリ、不動産営業、建築雑誌社で企画営業など職を転々としながら、結婚を機に京都へ移住。建築家と他の生業の方の対談と懇親会を企画したり、美術作家さんの周辺をうろうろしたりしています。

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