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第2章 ワインオープナーpart②『過ち、失恋』

2008年
イチローの大リーグ最多安打に沸き
DS、PSPとポータブルゲーム機が
世を席巻していた
スマホが全ての時代になると
多くの人間はまだ気づく
ことができない時代だった

法政大学2年
当時、今の妻とは
男女の友人であった

妻には美容師の彼氏、
私には旅行代理店の彼女がいた
お互い年上を相手に
足りない恋愛経験を埋め合うように
お互いの恋愛事情を話す大学生活が続いた

金の価値観
体の関係
心の繋がり
時間の使い方
大人の階段をお互い
手探りで上った

それはまるで
ワインのコルクに
芯を捩じ込んでいくかの如く

馬術部の体験から1年
私も妻も馬術部に入部し
恋愛に、馬との部活動
アルバイトや学業と
絵に描いたような
キャンパスライフを謳歌した

充実した時間を長持ちさせるほど
私たちは経験も、お金もなく
終わりは突然だった
妻もその頃、美容師の彼氏と
体の相性が合わず、ヒモに
なりかけていた

当時の彼女の名前はユキノ
出会いはスペインの高速バスの中

当時流行っていた
恋愛旅行番組「あいのり」
さながら、ドラマのような出会いだった

私は両親と妹と家族旅行で
初のスペインツアーに参加した
サッカー好きの延長と
妹の美大合格祝いの家族旅行
同じツアーに旅行代理店の
社割を使って一人旅をしていたのが
ユキノだった

彼女は私の4つ上23歳
長い黒髪、柔らかな物腰
年上のお姉さまに見えない
甘ったるく明るい雰囲気
スタイルもよく
例えるなら黒髪の島谷ひとみ
おさるのジョージを集めては
旅行にも小さな猿を連れていた

彼女はもう一人ツアーで
一人旅をしていたユミと話をしていた
金髪ギャルで小麦色
高級ブランドを品よく纏い
どこか落ち着いた妖艶なユミ
例えるなら北川景子のような
後から聞けばさらに3つ上の27歳
彼氏が2人いる
つまり、ポリアモリー
大学で程度の純情恋愛すら
まともに知らない私は
この時初めてその価値観に触れ
衝撃を受けた

不釣り合わせな美人女子大生
二人組でツアーかと勝手に思い込み
1週間のツアー3日目が過ぎた

バレンシアからミハスへ南下する
長距離移動のバスの合間で
「ガム食べます?」と
たまたま近い座席だった
ユキノからキシリトールの
ガムを差し出され、始まった

話していくと
二人はそれぞれ一人旅
つくづく私の
女性の見る目の無さが伺える

ツアー客の中には他に
25歳同士の新コン夫婦が
ハネムーンで参加しており

ハネムーン夫妻、ユキノ、ユミ、
私、そして私の妹
若いメンバーが揃っており
各観光地では写真を撮り合い
そのバス以降
よく話すようになった

最終日のバルセロナのホテル

若者6人はユミの部屋で
サングリアを片手に盛り上がった
縁もたけなわで雰囲気は
ユキノが私を誘っているようにも
思えたが、私は妹の手前
両親の部屋に戻り
最終日を終えた

それぞれ連絡先を交換し
私とユキノはお互いの家が
江戸川区小岩と葛飾区青砥
車でわずか12分であると知った
出会いは10648km離れた
情熱の国スペイン
この運命的な出会いを
勘違いしないのは
もったいないとも言えるだろう

帰国後1週間もしないうちに
ユキノとは一夜を交わし
なぜバルセロナの夜
部屋に来てくれなかったと
甘ったるいイタズラめいた
ことも言われた
根性のない、いや
経験のない私がむしろ
初で可愛かったと
彼女は笑った

聞けば、彼女はバツイチ
子供はいないが
前の旦那からはDVを受け
心身ともに疲れていた
彼女の性格は全てを許していた
そんな風に思い
私もそうはなるまいと
優しさをお互い伝え合う
良い関係が続いた

それから1年と4ヶ月
屋久島、湘南、鹿児島、伊豆七島
海が好きなユキノは
私を旅行に連れ出してくれた
彼女とじゃなければできない経験
彼女が導いてくれた経験
楽しかった、感動だらけ

それに私は甘えつつも
どこかで悔しく
そして徐々に去勢を張り
リードをして釣り合おうと
必死になり、心も金銭的な事情も
着いて行けず
私はユキノに別れを告げられた

ワインは甘酸っぱいものだろうと
想像ばかりしたまま
風味、コク、酸味
本当の味を知らないまま
私はコルクの栓を開けれずに失恋をした

オープナーの芯をコルクに
押し込み続けたが
オープナーの芯は
優しく回すだけでは
コルクの中に進んでいかず
手応えのないまま空回っていた

それに気づかぬまま
最後に強引な力を加えた時
コルクは割れてた

この2年の失恋を
私は今の妻となる彼女に
女々しく話し続けた
まもなく就職活動が始まる夏
私のキャンパスライフは
一気に色褪せるような失恋

私はその失恋をエネルギーに
マスコミを目指し
ユキノがいる社会人の
世界へ挑み始めた

社会人になれば
ユキノのことがもっと
わかるかもしれない
ユキノを取り戻すことが
できるかもしれない

私は、粘着質に満ちた
純愛ドラマと履き違えた
駄作のドラマを
続けていた

■次回
ワインオープナーPart3
『社会、埼玉、そして雪国へ』

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