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Queen Elizabeth 【後編】

後編の今回は、どこをどうやったらあんな飛躍も甚だしいカクテルになるのか?という話。

と、その前に。
インスタストーリーご覧になられていたら既にご存知かもしれませんが、このQueen Elizabethのレシピ、なんと初版(1930)に掲載されておりました。
まさか初版をネットに上げてくれている人がいたとは…探すべきだった。
考えていた時にこの情報はなかったので、この話自体は的外れも甚だしいかと思われます(というか、その情報を手にしていたから的を得た解決ができたかというとそんなことはなかったでしょうな)。

という事を踏まえて閑話休題。

疑問はコニャックレシピが出発点。
だって他国のものしか使っていないんですよ。
名前はイギリス君主名なのに中身が欧州諸国で構成されているなんて皮肉以外の何物でもないじゃないですか。
でも元ネタにする以上、ベースはそのままで英国らしさを表したい。となると当然、副材料での捻りになる。
相性が良いもので英国を印象付けるもの…紅茶だな。よし、紅茶を合わせて完成!
でも良かったはずなんだけど、時間をかける割にはこれだと雑が過ぎる。
かけるならかけるなりにアタマを遣うべきだと思ってしまったのが苦労の始まり。

とりあえず”Queen Elizabeth”(カクテルと人物)両方の歴史やらをちょっと調べてみると人物の方は簡単に出てきました。当然。
カクテルの方はと言えば、国内のサイトでは案の定で何一つ見つからず。
この手のもの、やはり頼りになるのは海外サイト。
どうやら1930年代にフィラデルフィアのバーテンダーが作ったものらしい、と。
しかもざっと読んだらカクテル名は英国女王陛下ではなく、妻の名前からつけたものだと書かれているではないですか!
瞬間に「え?マジですか?!」って声出ちゃいましたよ。
そりゃまあどうつけようが勝手だけどさ…。
で、何を勘違いしたのか以下のような思考プロセスを踏んでイメージが固まる。

ボストン港ってフィラデルフィアだったよな

あ、茶会事件!
そういや独立記念日に英軍がアメリカに送った動画はウィットある皮肉でよかったなー。

コーヒー×紅茶の組み合わせは面白そうだし、コレはコレで皮肉効いてるし、コニャックとはどちらもいけるし良いじゃないか。
よし、今回コレで行こ。

ボストン港があるのはマサチューセッツ州ですね。茶会事件をちゃんと調べてたらこんなことにはならなかった…(ちなみにフィラデルフィアはペンシルヴァニア州。茶会事件についてはめちゃくちゃ雑に書くとアメリカ=コーヒーという図式を作ったもので、独立戦争の着火点ともなった事件。詳しくはwikiでも読んでください)。
書き出してみると思考の飛躍が凄いな…。

で、試作に取りかかったわけですがコレがまあ泣かされましたね。
紅茶を立てればコーヒーが立たない。そしてもちろん逆もまた然り。
しかもどちらにせよ副材料に主材料が負ける。最初はベルモットで繋いで…とか考えていたんだけど、主材料がどんどん消えていくので止めた。
コニャック以外はノンアルコールでまとめてコニャックの香りと重みを…と思考していたのだけどそれではうまくいかないこともわかったので仕方なしにコーヒーを自家製のコーヒーウォッカに変更。
紅茶は香りよりもタンニン感で輪郭を描くようにするため、指定の倍量かつ長時間抽出。
香りをしっかりと使いたいし香りもそれぞれ立たせたいのを考えてシェイク以外とした。

最初はある程度は冷えていた方がいいと思って作り続けたけどいまいち納得できなかったところ、時間を置いて常温近くまで放置してみたらコレがいい感じになっていたので機材を冷却するのみが正解と判断。
だからコレのベストはBIRDY.デキャンタによるスワリングです。
ただ、あのデキャンタは持っている人の方が圧倒的少数のはずなので推奨は「シェイク以外」なのです。
シェイクの方が混ざるじゃないか、と思う方はもちろんいると思いますが、そこはちょっと狙いが違うんですよ。これ書くとここからまた長くなるので割愛するけど。
ちなみにデキャンタないけどスワリングで、ならミキシンググラスでも一定のまとまり方はすると思います。試してはいないですが。

で、この話には最後にもひとつオチがつく。
ネットで見つけた、妻の名をつけた30年代のレシピというのはこれまた別レシピだったんですよ…。
ベネディクティンのカクテルコンペの入賞作だったとさ。どこまで適当に読み飛ばしていたんだか。
せっかくだからそのレシピも載せときます。

Queen Elizabeth 
〈shake / cocktail glass〉
ドライベルモット 1 1/2 Oz
ベネディクティン 3/4 Oz
ライムジュース 3/4 Oz

早とちりが過ぎた結果、散々振り回されました…。
まさに「急がば回れ」。
先人の言葉が耳に痛い。

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