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フローズンダイキリの赤いのみたいに

掲題とヘッダーでピンとくる方いたりするのかな。
もしいたら、そんな方とはひと晩飲み明かせそうな気がしないでもない。

これは夏木マリさんの「La Parole」というアルバムに収録されている「3時間42分」の一節。
アイスランドの小さな酒場でかつて歌っていたシンガーのモノローグ(独り語り)って設定(たぶん)なんだけど、この語り、声音に色気が実にあって良い(ついでに書くと、退廃的な色気のあるヘッダーの画像はLa Paroleのジャケ写です)。
アルバムは完成度がとても高いので通しでぜひ一度聴いて欲しい。
ちなみに音源はCDとアナログが存在するけど「3時間42分」は前者にしか収録されていない。
小西 康陽氏(元ピチカートファイブ)プロデュース期の彼女の作品は全てクオリティが高い。シンガーとして黄金期だったんじゃないかと僕は思うのだけど、その中でも本作は一頭地抜けている。おそらく最高作なんじゃないか。
いや、シンガーとしてのキャリア通してすらそうだと思っているけど。勝手に。

ま、それは置いといて。

前述したように、その曲(?)中に「フローズンダイキリの赤いのみたいに」って一節が出てくるんですね。
これを聞いて、ダイキリなのに「赤いの」とはこれ如何に?と思う人もいるでしょう。
ダイキリといえば

Daiquiri
<  shake / cocktail glass >
ホワイトラム 3/4
ライムジュース 1/4
シュガーシロップ  1tsp

というのが大定番のショートカクテル。
白、つまりクリアなものというイメージが今じゃ圧倒的に強いけど、赤いダイキリも存在するのです。
それはバカルディカクテル。
名前は違うんだけど読み進めてください。
これは裁判沙汰になった曰く付きで、「作るに際してバカルディ社のラムを使わない限りその名(バカルディカクテル)を名乗るのは認めない」と判決が降りたことでも有名。
レシピは下記の通り。

Bacardi cocktail
< shake / cocktail glass >
バカルディラム 3/4
ライムジュース 1/4
グレナデンシロップ 1tsp

なんのことはない、ほぼダイキリです。
変更点は

ラム→バカルディラム
シンプルシロップ→グレナデンシロップ

だけ。
だからバカルディを使わない、赤いダイキリだって作った人はいるわけです。そしてそれを「バカルディカクテル」と称していた人もたぶん。いや、たぶんどころか日常的にいたでしょうね。そもそもそれを理由にバカルディ社は訴訟を起こしたんだから。
見て解るように、レシピのスワップは当然可能だし、その場に何かがなければ何かで補うという行為の結果としてそうなっても不思議はない。ラムがバカルディであろうと他社のであろうと作り手も飲み手もほとんど気にしなかっただろうし。

戦後すぐの太平洋横断客船でバーテンダーをされていた大先輩から「当時のダイキリは赤かったんだよ」と聞いたこともあります。
それはもしかしたらバカルディカクテルとの混同だったのかもしれないし、前述のようなことが起こっていたのかもしれない。或いはバカルディラムが船内で無くなってしまったとか。
なにしろ海上となれば寄港するまでありもので作るしかないわけですから。

そして赤いダイキリはもうひとつある。

「ダークダイキリ」。
これは友人に教えてもらった。
とりあえずレシピ。

Dark Daiquiri
< shake / cocktail glass >
ダークラム 3/4
ライムジュース 1/4
シンプルシロップ 1tsp
グレナデンシロップ 1tsp

ラムをダークに、副材料のシロップを両方使うだけ。
しかし技術的な面ではいわゆるホワイトダイキリと同じ思考で作るとうまくいかなかったりするのが面白いところ。
ちなみにダイキリとはキューバにある鉱山の名前で、そこで働いていた技師(アメリカ人)が涼を求めて作ったものとされている。
だからこっちはいわゆるtwistにあたりますね。
友人は「鉱山内の灯りをイメージして作られた」と言っていました。

さて、冒頭に戻って夏木マリさんのモノローグに登場した「フローズンダイキリの赤いの」はどれだったんだろう?
それはきっとバカルディでもダークでもない−つまりバカルディ社以外のラムを使った−「赤いフローズンダイキリ」だったんじゃないかと僕は想像している。なんとなくで理由は書けないけれど。

…あ、フローズンダイキリの話をしようと書いたのにただのダイキリの話になってしまったな。
戻り梅雨なのか、ツケを払うかのような大雨で変に湿度が高くなったり猛暑日になったりでうんざりする日々、かき氷感覚でフローズンカクテルいかがでしょうか。

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