マガジンのカバー画像

noteで面白かった話

230
noteの中で良いなあと思った作品をまとめます。
運営しているクリエイター

#短編

『アップルパイ』(短編小説)

『アップルパイ』(短編小説)

(あらすじ)
 夫は無類のアップルパイ好き。それはどうやら、昔の彼女に訳があるようで...アップルパイと初恋をめぐる小さな物語。

**『アップルパイ』 上田焚火 **

「あなたって、どうしてそんなにアップルパイが好きなの?」

妻にそう言われて、確かにそうだ、と私は思った。

その日は誕生日で、目の前にはショートケーキじゃなくて、アップルパイがあった。

銀色のアルミの皿に入っているホールのア

もっとみる
基本的に子ぐましか募集していないんです。

基本的に子ぐましか募集していないんです。

子ぐま社の面接で言われた。
基本的に子ぐましか募集していないんです。
わたしはくいさがった。
詩だけでもみていただけませんか。
数日後、採用の通知が届いた。
短い文が添えてあった。
「あなたは子ぐまではありませんが、
あなたの子ぐま的な部分にとても期待しています。」
#短編 #小説 #おはなし

ウサギは大声でうたう。

ウサギは大声でうたう。

ウサギはクルマを運転しながら、
大声で歌っていた。
ウサギにはわかっていた。
もっと丁寧に一歩ずつカメのように生きれば
上手くいくって。
だけど、とウサギは思った。
そんな風に生きたら、
おれのこのバネのような後ろ脚は
なにをキックすればいいんだ?
#短編 #小説 #おはなし

ピアノ、ピアニッシモ。

ピアノ、ピアニッシモ。

木立ちの足元に、
無数の小さなピアノが生えていた。
秋になるとピアノは収穫され、都会の市場へ。
町の花屋がピアノを仕入れ、
鉢植えにして店頭に並べた。
孤独な男がピアノの鉢植えを買い、
部屋のテーブルに飾り、
夜、少し、弾いた。
#短編 #おはなし #小説

ひとは歳月で歳をとらない。

ひとは歳月で歳をとらない。

北の果てのある村では、
ひとは歳月で歳をとらず、
なにか大事なものを失った時に歳をとる。
その時、白い花とキャロットケーキで
お祝いするのが習慣。
なにかを失ったひとは、
口数が減って、
いいうたがうたえるようになる。
だからお祝いする。
#短編 #小説 #おはなし

バラデロ

バラデロ

15年後の今日、バラデロで。

その日、僕たち5人はトウキョウで、そう約束して別れた。

僕たちが決めたことは3つ。

これからの15年を、使い尽くすこと。

その間、いっさい連絡をとらないこと。

そして、15年目の今日、世界で一番美しいといわれる

全長25キロにわたるキューバのビーチ、バラデロに集合し、

カリブ海の風が吹き抜けるビーチに面した旧デュポン邸で

思いっきり冷えたモヒートを飲む

もっとみる