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宝宝の『私たち(えんげき)の現在地』②長い目で見てどうなの?編

長井: そしたら、始めてまいりましょう!

一同: よろしくお願いします~。

長井: お集まりいただき本当にありがとうございます。皆様とは私、実はそこまで関りが深いわけではなく、こちらが一方的に知っていてお話ししてみたくて、お声掛けしてまして…。ご協力いただけて嬉しく思います!

佃: 進行を担当します。よろしくお願いします。それでは自己紹介から入りましょうか。

(左上から佃さん、笠木さん、長井さん、左下から綾門さん、坂本さん)

企画概要

現在、劇場主催や劇団主催ではなく、俳優個人が主体となって公演を企画する個人ユニットが増加傾向にあり、そこには環境的・時代的な理由がある、はず。と考えた宝宝のクリエイションメンバーによる鼎談企画です。まだ大きな形で取り上げられることのない現代演劇の創作環境の分析や周知、創作においての困難さや問題へのアプローチを試みます。

②長い目で見てどうなの?編

現在の「非・劇団化」が進んでいるような状況(個人ユニットの増加や、アーティストのコレクティブ化)はいつからの流れなのか?個人ユニットの増加はシーンやムーブメントとなるのか、一過性のものにすぎないのか…。私たちより広い視野を持ち、時代を概観する知見を持つ年長者の力を借りながら、現在の小劇場の創作環境における課題解決の道筋を模索し、現代演劇の現在とこれからを想像していきます。

①今、立ち上げる俳優たち編はこちらから。

参加者(敬称略)


■長井健一(宝宝)

■佃直哉(かまどキッチン)…本鼎談の司会進行を担当。

■瀧口さくら…本記事の執筆を担当。

ゲスト

■綾門優季(劇作家)
1991年生まれ、富山県出身。 キュイ主宰。2011年、キュイを旗揚げ。

2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。2015年、『不眠普及』で第3回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。2019年、『蹂躙を蹂躙』で第10回せんがわ劇場演劇コンクールにて、劇作家賞を受賞。

『文學界』「新人小説月評」(2021−2022)、『現代詩手帖』「闇雲に言葉を選ばないで」(2020−2022)、『ユリイカ』「現代口語演劇と、あまり関係のない現代口語」(2022年8月号)など、批評家としての活動も盛んに行う。

■坂本もも(範宙遊泳プロデューサー/ロロ制作)
1988年生まれ。合同会社範宙遊泳代表。

学生劇団から商業演劇まで幅広く制作関連の仕事を経験。2009年ロロ、2011年範宙遊泳に加入。舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)、一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク(JPASN)理事。多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。2017年に出産し育児と演劇の両立を模索中。

■笠木泉(劇作家・演出家・俳優)
福島県いわき市出身。日本女子大学人間社会学部文化学科在学中に俳優として宮沢章夫主宰の遊園地再生事業団に参加。

以後、遊園地再生事業団を中心に、ペンギンプルペイルパイルズ、劇団、本谷有希子、劇団はえぎわ、ミクニヤナイハラプロジェクト、ニブロール等の舞台作品に多数出演。テレビドラマ「あまちゃん」や映画「パンドラの匣」「残穢」「ゴールデンスランバー」等、映像作品にも多数出演する。またOVAアニメ「フリクリ」、「ピューと吹く!ジャガー」に参加し声優としても活動する。2018年から自らが戯曲を書き演出するフィールドとしてソロ演劇ユニット「スヌーヌー」をスタートさせ、以降、劇作家、演出家としての活動も続けている。

2016年「家の鍵」せんだい短編戯曲賞最終選考ノミネート。
2021年「モスクワの海」が第66回岸田國士戯曲賞最終候補ノミネート。
2023年11月、劇壇ガルバ「砂の国の遠い声」(作・宮沢章夫/東京芸術劇場シアターWEST)の演出を担当。


自己紹介

長井: 27歳です。東京都で生まれて、東京都で育ちました。俳優をやっています。

皆様にも伺いたいので、自分から話すんですけど。最近あったよかったことってありますか?私は、今日牛乳屋さんの集金があったんですけど、余ってるのであげますって言って牛乳くれて、得したなって思いました!

綾門: キュイっていうユニットを主宰しています。19歳のころから始めて、13年目になります。劇団員を入れたことがないユニットです。青年団演出部※1に10年くらい所属していました。今は、日本大学芸術学部(以下、日芸)と尚美学園大学で非常勤講師をやりつつ。

※1…青年団は平田オリザを中心に1982年に結成された劇団。演出部は2023年に解散している。

綾門: 最近よかったことは、こまばアゴラ劇場がこの前閉館したんですけど、空っぽの劇場で、関係者で集まって映画上映会をしたんです。そこで『演劇1』※2を観たときに、20年30年いた複数の劇団員が泣いてて。廃墟になったアゴラで『演劇1』を観るのはエモすぎと思いました。再現もできないですし。

※2…平田オリザと青年団に密着したドキュメンタリー映画。監督・製作・撮影・編集 想田和弘。

笠木: さみしい…。

綾門: さみしいですね。

笠木: アゴラに小屋入りとか稽古に行ったとき、正座したまま階段から落ちるとか、よくやってました(笑)。

坂本: ロロの制作と範宙遊泳のプロデューサーをしています。ロロはもう一人、奥山三代都が法人の代表としてメインで運営していて、私は合同会社範宙遊泳の代表をメインでやってます。

あとは、多摩美術大学(以下、多摩美)の非常勤講師とか、座高円寺アカデミー講師とか、比較的若い人と関わることが多いです。ON-PAMや、緊急事態舞台芸術ネットワークでは理事をしていて、環境整備やネットワーク構築などの仕事もしています。

最近あったいいこと…。子どもが7歳なんですけど、初めて母の日にお小遣いでプレゼントを買ってくれました。

長井: え~素敵~!

笠木: かわいい~!

坂本: グミを3つくれました。私、グミマスターなんですけど。成長を感じましたね…。

長井: 私、高校生のときに、範宙遊泳さんの『うまれてないからまだしねない』を観て演劇続けたいって思うようになったので、嬉しいです。戯曲も持ってます。

綾門: 僕、ロロのお手伝いから演劇始めました。

笠木: 私は、ロロの公演のとき坂本さんのことはロビーでお見かけはしてたんですけど、お話しするのは初めましてで。緊張しちゃいますね。

坂本: みなさまありがとうございます!

笠木: スヌーヌーという団体を個人でやっていまして。「スヌーヌーの不思議な旅」というワークショップ(以下WS)というか勉強会に長井さんが参加して下さって、お声掛けいただいて、今日います。

(「スヌーヌーの不思議な旅」noteより。黄色い服を着ているのが長井さん)

笠木: 年齢は48歳で、19歳のときから演劇をやっています。最初は大学生で、ずっとフリーでいろんな舞台に出させてもらっています。演劇を作りたい思いがあって、だんだん戯曲書いたりするようになりました。

何回か団体の名前を変えつつ、ここ4・5年は、スヌーヌーです。劇団員はいません。毎回違う方にお声かけしたり、違う企画考えたりしてやっている、という感じです。出演も、機会があれば今もやっています。

最近よかったこと、今、ない!と思って。そうですね…。あ、最近映画を家で観てるんですけど。というのも、いわゆるメジャーと呼ばれるものをあまり観たことがないまま大人になってしまったんです。

この前『ダイ・ハード』を観たんです。最高に面白くて。私の人生にはこんなに面白いまだ見ぬ名作があるんだって思ってうれしくて。『風と共に去りぬ』も観たんですけど。なんてすごいんだ、最高じゃないかとエモーショナルな気持ちに…。まだまだ観ていない名作が残っていて、嬉しいなと。

佃: かまどキッチンという団体を主宰しております。こういった鼎談は、個人的に人とお話しする、お話を聞くのが好きというのもあって、企画させていただきました。

最近あったいいことは、劇団スポーツの公演を観に行ったら隣にモモさんが座られて、先にご挨拶出来ちゃったことですかね。

坂本: ごめんな~って思った!知り合いが隣なのいやだよね~(笑)。

佃: 楽しかったですよ(笑)。


俳優の個人ユニットって、10年、20年前はありました?

佃: 昨今、俳優主体のユニットが顕著に増えている流れがあると思います。これってみなさんの世代ではありましたか?創作環境に変化などありますかね。

坂本: 俳優が公演の主体性を持つケースで言えば、私の周りではあんまりいなかった気がします。

長井: やっぱり、作・演出をやりたい人が言い出しっぺになってました?

坂本: そうですね。私は2011年大学卒業の代なんですけど、我々のときはまだ劇団が元気だったっていうんですかね。俳優もやるし作・演出もやるタイプの劇団やプロデュースユニットはありましたけど、作家や演出家を誰かに依頼してというのは多くなかった気がします。私は元々入り口が商業演劇だったので、当時の小劇場の状況をカバーしきれてないかもしれませんが。

綾門: その文脈でいうと、僕は商業演劇を経由せずに現在にいたるのですが、同じイメージを持っていますね。代としては、坂本さんの3個下にあたります。

青年団に入ってから、様々な経歴の方に出会いましたけど、基本的には、高校演劇や大学演劇からはじめて作・演出になった方が多かった印象です。

それが今は変化しているなって、日芸にいると思います。作・演出が人をかき集めてグループを作るってことは減っていて、俳優主体でグループ作ることが増えているように思います。

そうなってくると難しいなと思うのは…。私が大学生の頃、日芸は勉強する内容がめちゃくちゃ縦割りで、そのコースの人はそのコースのことしかやらないんですよ。演技・劇作・スタッフとかそれぞれで。こちらから会う機会を設けないと会わないまま終わることもありました。

今は脚本がスタッフやる専攻(舞台構想コース)に合体したけど、演技コースはほとんどそのままなので、俳優は運営のノウハウに触れてない状態なんです。ある程度経験があった俳優が団体を立ち上げる場合は、ある程度出来ますが、個人的には失敗事例も見てきたので、学生が立ち上げるときは、以前とは別の難しさもあるのかな、とも思います。

佃: そうですね…。俳優のユニット立ち上げの形でよく見られるのは、小劇場の環境において、俳優としてある程度の経験やネームバリューを持っている人が、関係値の深い作家を呼ぶ…という形です。学生が1から立ち上げるのとはまた違うので、そこまで無謀ではないのかもしれませんね。

笠木: 私はたぶん世代がもうちょっと上ですよね。私も、ユニットはあるときから増えてきた実感があります。私が始めたころは劇団が多い印象で。大人計画とか、ナイロン100℃とか。ENBUゼミ※3ができて、WSで友達を作って、出会ったメンバーからユニット作ったりを繰り返しているときでした。

※3…ENBUゼミナール。俳優・映画監督を目指す人向けの養成スクール。

笠木: そのころはでも、ユニット内の書ける人を中心で、みたいなのが多かったかな。劇作家に依頼する方が珍しいというか。共同演出とか、エチュードで作るみたいなユニットは結構いたかも。俳優だけで、ちょっとずつそれぞれがそれぞれの役割を持って、作る形。

既存の権力構造が、自分たちでやるってことがハードルにならないって言うのかな、自由さ、は、今のほうがあると思います。獲得しようとしているのかな、となんとなく思いますね。


立ち上げの目的は何だろう––権力構造の解体ってそこまで切実?

笠木: 俳優が、プロデュースや脚本を選ぶっていうチーム作りってことですよね。

佃: そうですね。それが、従来の権力構造を疑問を抱いてアプローチを行なっている人がいることの表れなのかなとも思うんです。

坂本: 権力構造の解体を目的に俳優主導でやり始めたのかって言うと、必ずしもそんなことはないかもしれないと思いますけどね。もっとシンプルに、出演のオファーを待っているだけでなく、空いてる時間にやりたいことをやろうって思いやすくなったんじゃないかな。SNSの盛り上がりもあって個人でも情報発信がしやすくなったし、セルフプロデュースする個人事業主が増えてきたイメージですね。

笠木: おっしゃる通りだと思います。企画する喜びというか。オーディションを待っているだけの時間とか、果てしないですから。そういうのは、もういいやっていう意識はあると思います。

長井: 長井もその感じですね。オーディション受からないな、寂しいな、って思って、自分でやろうって思いきりました。やりたみを優先して、いろんな方に助けてもらってって感じです。

綾門: 僕の実感として、権力構造の解体とか、ハラスメントのこととかを今の20歳前後の人たちが考えているかっていうと、そこが第一優先なわけでもなくて。もう常識としてガイドラインなどを最初から読んでいるから、そこに目的はない、というか。

我々の大人の方が、環境について考えているのは当たり前かもしれませんが、みんながみんな考えているって先入観を持ち過ぎちゃうと、実際の現場とギャップが生まれてしまうなと思っています。

佃: そうですね、さすがにそれが前提とは言えないかもしれません…。

坂本: ハラスメントの話で言えば、私の周りの学生は敏感だと感じますね。自分が受けることだけでなく、加害者になることを恐れてコミュニケーションが萎縮している印象があります。

ハラスメントは基本的には権力構造のもとに起こると定義されているので、学生の仲間うちで起きるそれは、ただの喧嘩や、揉め事ととることもできますよね。ちょっと「ハラスメント」という言葉が独り歩きしている感じがするので、そこを解きほぐすことは意識しています(坂本注:モラルハラスメントはあらゆる関係性で起こると定義されています。詳しくはこちらをご参照ください。)。

笠木: 授業でそういったことをされるのでしょうか?問題に対するディスカッション的な。

坂本: 私の授業では、みんなでガイドラインを読んで考える回を作ってます。

長井: 坂本さんの授業を受けないと、受けられないんですか?

坂本: 教員も意識してそれぞれの授業で触れたりしていると思いますが、大学側がそういう科目を用意しているわけではないですね。3年前から1年生の必修と、3・4年生の座学選択の枠で、私が勝手にやってます。

綾門: 日芸も同じ状態でして。一番いいのは必修にすることで、そうしないと意味がないところもあると思うんですよ小さなところからコツコツやるのも多少は効果的とは思っているけど…。

長井: 難しいですよね。やった方がいいことでも、システムを急に変えられはしないし…。

佃: ガイドライン、みなさんに配ってしまえたらいいのにな、とは思いますね。

綾門: 日本大学全体のものはあるけど、演劇の現場特有のものはないんですよね。

笠木: 大学時代からあったらいいですよね。もっと気軽に勉強出来たらいいのになって、話を聞いていて思います。でも、坂本さんや綾門さんが今大学で教えているっていうのも前進であることに間違いはないですし。

坂本: 執筆を担当した緊急事態舞台芸術ネットワーク発行の「舞台芸術におけるハラスメント防止ガイドブック」は、まずはハラスメントについて正しい知識を共通認識にしようという想いを込めました。ハラスメントと揉め事の線引きを意識したというか、先回りしてビクビクしてしまうことを防ぎたい気持ちもありました。

例えば学生たちの創作は、予算が潤沢にないなかで適正なギャラを払うなんてことはできないですよね。みんなが納得できるのであれば、ノーギャラでもやっていいんです。大事なのは合意形成ができているということで、無理に“正しく”あろうとする必要はない。いま色んな意味で集団創作のハードルが高くなってしまっているので、ガイドブックがみんなでどうやって作るかを話し合うきっかけになるといいなと思います。

長井: 自分がやってしまったらって、ビクビクしてしまうのはめちゃくちゃわかります。今も意識しています。

自分は、主宰するとき新しく出会う人とやるは難しいなって思っていて、ある程度の共通認識を持っている人じゃないと心配で。
学生さんって、入学して新しい出会いの中でなんとかやっていこうとしているなかですよね。それでビクビクしちゃうのは健全ではないですよね。

あと、自分の年代でも、あんまり気にしない人は気にしていないのを感じていて。下の世代の方のほうがしっかりしているなって、思います。

綾門: 基本装備になっていますよね。どちらかというと、今の現役世代の二極化のほうがえぐいなと。そっちの道には先はないぞって思うけど、このままいくぞ!の人はもうハラスメント対策のない遠いところに行っちゃっていて。

長井: 創作環境に誠実であることを、観たいっていう人も求めているのかなって、インターネットを観ていると思うんです。作品が面白ければいいっていうことはもうなくて。

そういうのって、見えるようになってきているじゃないですか。上演に際してどこまで配慮が行き届いているかっていうところ。もちろん予算の関係もあって、作品創作の環境も観劇の環境も全てが完璧とはいかないのかもしれないけれど…。作品内容以外の面も、求められているのを感じています。


立ち上げのときって予算ってどうやって組むの?資本0だが涙

佃: 宝宝はアーツカウンシル東京のスタートアップの助成金に助けられているのですが、こういった小規模の演劇ユニットや立ち上げ当初の若手劇団って支援を受けられるとわかってからてんやわんやするというか。助成システムを活用することの難しさもあると思っています。

稽古場での様々な配慮に関しても、新しくはじめようにもどうやってやればいいのかもわからず、わからないままでは予算を割くことも、割いた予算を適切に運用することも難しく。支援のシステムと受ける側の状況が噛み合っていない印象があります。ただ、以前よりも助成自体の窓口はかなり開かれているなとは感じています。

坂本: 助成元など支援する側も、環境整備を補助しなければという意識になってきているとは感じますし、少しずつ制度が改善されている印象です。ハラスメント防止対策の費用が別枠でつくようになった助成金もあり、今後増えていってほしいですよね。

ただ、講師を呼んでハラスメント防止研修や勉強会をすることだけが対策ではないから、意外とお金をかけなくてもできるんじゃないかなとも思います。ネットに出回ってるガイドラインをみんなで読んで話し合うだけでも、充分防止対策になりますよね。

私が初めて自分の現場でガイドラインを書いたときは、Webに載っている東京芸術祭ファーム ラボガイドラインを参考にしました。「こうしなきゃいけない」ってことはないから、若い人たちでもトライできるように、ハードルを下げられることを言っていかないとと思っています。

綾門: 作・演出の視点として、少額だったけど嬉しかったのは、あまり知られていないけど「青年団リンク」※4とか、ですかね。リンクに選ばれると、団がとっている助成金から一部がもらえる。少額だけど、補助率何分の一とかじゃなくて、定額でもらえる。やり方次第では、ほぼ赤字じゃない公演ができるんですよ。自分はその方がありがたかったなと。

※4…所属する演出家が、劇団内で不定形のユニットを作り、独自の企画を行う公演として、2002年度より「青年団リンク」があり、キュイはその一つ。

綾門: 去年、キュイが豊岡演劇祭に参加したんですけど。座組が小さな企画で。演劇祭からもらう金額はそこまで多くないんですけど、なんとかなったんですよ。少額でも、補助率関係なく全額もらえた方がいいよなと思います。

キュイ『蹂躙を蹂躙』舞台写真

長井:  もう全然、知りませんでした!

一同 :  (笑)。

長井:   ほんと僕、演劇赤ちゃんなので、佃さんに色々教えていただいてるんですけど。やりたいことを書いたりは全然できても、お金のことが一番わからなくて。

坂本: お金のことがよくわからないのであれば、相手に聞いちゃえばいいんですよ。いくらほしいですか?って。どんなに払いたいと思ってもキャパを鑑みるとどうしてもここまでしか無理です、とか、素直に話していいと思いますよ。

ある程度のキャリアがある人だけがいっぱいもらっているとかだったら搾取になるけど、若い人たちの公演はそんなに払えなくて当たり前ですから、背伸びしすぎなくていいと思います。私も最初の頃はパソコンが使えなくて予算書とかちゃんと作れなくて、ノートに誰々何万円、とか手書きして、電卓弾いてました。「ごめんなさいこれしか払えません...」って交渉もしてきました。

色んなこときちんとするのはもちろん大事ですけど、若い人たちに「整えたもの」だけが伝わってしまって負担になるのは避けたいなと思います。

佃: それ、数年前に知りたかったですね…。

笠木: 自分はユニットとしては一人だから、例えば主宰である私が、公演やりたくてすごく借金をして、結局演劇を続けられないってなっちゃうのは、関係者お互い不健康であり、辛いですよね。

自分ができることで、みんなと一緒にやりたいっていうのが、スヌーヌーの喜びの指針の一つですね。ほんとに手書きの予算みたいなので、自分なりのものを作って、お話ししてやっている感じで。

長井: 今みなさんのお話を伺って、もう全部、超スーパースイートっていうか、アゲアゲな考え方だなって思います…!やり方や内容に納得できていない企画で報酬が少ないと、搾取だなって思っちゃいますけど。参加できる喜びがある企画だとそんなこと思わないし。

俳優じゃない関わり方でも、それにヨロコビを感じてくれる人と作品を作るっていうのが大事なんだなあというか。その考え方が分かち合える人と作品を作りたい。

今回関わってくれている方々は、私個人から見る限り、宝宝でそれぞれがやりたいことをやってもらえてるのかなぁと思っています。制作のこととか、脚本とか、鼎談もしかり、企画自体で還元で来ているんじゃないかなと思っています。もちろんもっとお支払いはしたいんですけど…。

笠木: 素晴らしいと思います。

綾門: 企画がしっかりしていますよね。

長井: ありがとうございます(照)。一個一個の創作は、大きい劇場に行きたいとか、芝居がうまくなりたいとかじゃないところに目標があるんですよね。

俳優の鼎談の方でも、大きくなるためにはスモールステップを踏むしかない、そのスモールステップに喜びを感じ続けられたらいいよねって話をしました。

佃: 僕は、自分たちの世代は「ルールをしっかりしないとダメだ」って特にしっかり言われ始めた期なんじゃないかなと思っています。もちろんしっかりしなければいけないのは当然ですが。けれどその、整えなきゃっていう強迫観念というか、呪いを解いていかなくちゃなって、思いつつ。過渡期にいたから、なんとかしなきゃの意識はすごく持っています。

綾門: 佃さんは、大きい捉え方だと僕と同期くらいですよね。はじめてからわりとすぐに、ルールがだんだん変わっていくのをみた世代。

坂本: 「呪いを解く」ってすごくいい言葉ですね。私の場合は、自己肯定感を上げていかないと続けてこられなかった。いくらやっても何か足りない気がするし、どうしてもカバーしきれない部分があって。

例えば予算書ではトントンだとしても、関わっている人みんなに満足にギャラを払えていなかったら、それは見えない赤字だし。そういうときに、自分のせいにしてしまうことがあるんですけど、忘れちゃいけないのは私が「やります」って言ってうまれた興行でもあるということ。ある種そう思いこむように、私も頑張ったよねって、呪いを解いていかないとって思います。

長井: 今聞いて、僕は坂本さんの創作を観て演劇続けているわけですから、本当に演劇公演をやってもらえてよかったです…。


個人ユニットなんでやってるかってぇ話。

長井: 普段俳優として演劇に関わっているんですけど。権力を解体したいとか思っているわけではなくて…。
最近はみんなで作るってどういうこと?とか、例えばどうして台本の言葉通りに話さないといけないの?っていうような、当たり前のところを疑って作っています。

で、個人ユニットの大先輩である笠木さんのことをすごくすてきだなと思っていて。ご自分の作品にご出演をされてはいないと思うんですけど、どういう理由でスヌーヌーを?

笠木: 元々作品を書きたかったっていう純粋な動機はありますね。子供のころから小説家とか漫画家になりたかったとか。文芸的な方が好きだったんです。

出たがりでもあったので、演劇に出会って、楽しく俳優やってますけど、自分が書けないことがすごくつらくて。書かないでも生きていけるなって思った瞬間に、本当につらくて。書かないで死んじゃったらまずいなっていうか、そういう追い込まれ方で始めました。最初は恥ずかしかったですね。自分は役者だっていう認識もあったので。

制作も演出も俳優も、個人的には全部演劇なんですよね。だから、感覚としては一緒と言えば一緒というか。単純にスキルの問題で、自分のキャパシティ的に出演しながら作・演出は無理だった(笑)。

スヌーヌーvol.4「長い時間のはじまり」フライヤー

笠木: あとは、書いたら、せっかくだからこの人に出てほしいっていう気持ちがあって。自分で俳優をやっているときより、なんというか、夢が広がった。私も誰かに出会いに行くっていうか、演劇を違う方向から見ることができる

近年、自分の中でようやく演劇が丸くなってきた感覚がある。繋がってきたというか、豊かになってきたっていうイメージですね。もっとみんなやればいいのに!豊かだと思うものを作ればいいんだなって、強く感じるようになりました。

長井: 今回自分で宝宝ってユニットを始めて、一番最初に思ったのは、自分の好きな人と何かができるっていう喜びとか。みなさんとこうしてお話しできているのも本当にうれしくて。俳優の鼎談をやったときも、共演経験がそこまである方々ではなくて。

一人芝居を作るっていうこと、主催公演をやることを通して、客演としてのこれまでの私って、他カンパニーにただ乗りしてきたなって思うんですよ。そう思えているだけで、もうすでにやってよかったなって思っています。

笠木: 私も今勉強になりました(笑)。なるほど、なるほど、と。私にキャリアってあるかもしれないですけど、怪しいものなので。ないに等しいみたいなところがあるので。

去年GAKU※5 っていうのやりましたけど、それこそ本当に悩みながら苦しみながらみんなと作って。ほんとなんか高校生みたいな気持ちで、年齢を超えてできる可能性を感じられました。

※5…10代の若者たちが、クリエーションの原点に出会うことができる学びの集積地(HPより引用)。GAKUと範宙遊泳の山本卓卓が共同開発したプログラムで第1期を実施。笠木さんは【新しい演劇のつくり方(第2期)】の授業を担当。

笠木: それが、もしかしたら今後の指針にもなるなって。教えるんじゃなく、一緒に作る場を作る。若い方から、年上の方まで一緒に。

長井: 自分もWSを関連企画として実施してるんです。全然演劇やったことない、俳優じゃない人も来てくれました。自己紹介は最後にするんですけど…。みんながやってきた演劇とかは気にせず触れたいから。
で、最後に演劇に全然関係ない人たちなんだ!ってわかって。それめっちゃ嬉しい!って。これまで会えなかった人たちに会えたこと、面白いなって思っています。


演劇って誰の成果物?

長井: 宝宝立ち上げの理由の一つとして、自分の成果物が欲しいなって言うのもあって。

俳優として出演させてもらうっていうのは喜びだと思っているんですけど、成果物ってカンパニーの物だし、作・演出の物になっている。俳優として、自分の成果物が欲しいなって思ったんです。俳優さんで、自分の名刺として客演で出演した作品を挙げる方もいらっしゃるとは思うんですけど。

坂本: 成果物が欲しいって、興味深いなと思いました。なにを成果物だと思いますか?

長井: 感覚としては…「これ、おれので~す」って言える作品を作れて、再演も自分のタイミングでできるっていうのが、自分のものかも。

笠木: 私、客演で出たものも自分のものって思ってしまうから、あ、そうやって思うんだなっておもいました。

長井: 客演させていただいた作品でもそう思わないわけじゃなくって…あの役は自分じゃなきゃいけなかったって思うことはあるんですけど。

坂本: 私はいつも自分の作品だって思ってます。そう思わないとやっていけないというか。

長井: ほあーっ!自分の自己肯定感が低かったのかも…。どの作品に参加したときもそう思えるようになっていきたいです…!

坂本: 主宰者側が、出演者にそう思ってもらえるようにするのも大事かもしれませんね。出演者それぞれが望むことを叶えられるような場づくりを意識するとか。

長井: それをすごく気にしていて。藤田さんには書いてよかったって思ってほしいし、佃さんには鼎談とかやってよかったって思ってほしいし、さくらさんにも制作のノウハウを全部持って帰ってねって、お伝えしているんですけど。

あと、また企画をやりたいなって思ったときに、仲間になりたいって人がいてくれたらいいなって思うし。参加した人には企画を自分のものにしてねって言っていきたい。

坂本: みんな私の作品って言っていいですよね。「ギブアンドテイク」って冷たい響きに聞こえるかもしれないけど、私はポジティブな言葉だと思っています。双方盗みあえばいいし、双方得があればいい。そういうのが、集団で創作をする意味になる気がしますね。

綾門: これに関しては、自分と考え方がちょっと違うなと思いました。うーん。僕は成果物に対してそこまで執着がないですね。

去年やったので楽しかった企画がありまして。それを経て、プロであることより楽しいことの方が大事だなって思うようになってきたんです。

僕、元々俳優やりたくて演劇を始めているんです。でも、日芸を受験しようって思ったとき、そのときの倍率が俳優は10倍以上で、劇作は2倍〜3倍だったから、劇作の方で受験しました。入ってしまえば同じ授業取れるしって思って。で、その策略は成功するんですけど。

一同: (笑)。

綾門: 誤算だったのは、ありがたいことに卒業制作でせんだい短編戯曲賞をいただくんです。で、卒業後は、いろんな書きものの仕事が来るんですよ。俳優じゃなくて。でもその本は卒業するために書いちゃってたから、正直…。今の僕には脚本家/批評家のイメージあると思うんですけど、演技も本当は好きなんですよ。

この前、BankART AIR 2023 SPRING※6っていうレジデンスに参加したんです。そこで、作・演出・出演をする一人芝居をしたんですけど、それが、めちゃくちゃ楽しかったんです。今の僕は、俳優では戦っていけないってわかってきて、お金を取るレベルで今後も戦えるのは脚本や批評ではある。でも、そもそも演劇をはじめた動機を忘れちゃいけないなって。呪いが解ける感覚がありました。

※6…年に2ヶ月程度、展示スペースを制作場所(スタジオ)として開放し、数十チームのアーティストが活用できる期間を設けています。地域の人々を招いてのウェルカムパーティー、週末のアーティストーク、オープンスタジオも随時行っています(HPより引用)。

BankART AIR 2023 SPRING フライヤー

綾門: キュイも、劇団員をたくさん入れて、大きくしたい欲望が薄いです。アドバイスされることもあるんです。作・演出を固めて、色を出していった方がいいよって。でも、面白いと思った演出家と組みたいっていう欲望があるから、その欲望を取っちゃうと続けられないから。

長井: めちゃくちゃおもしろーい!

綾門: 作劇に限らず、トーク仕事もそうなんですよ。根がおしゃべりで、いくら話してもいい。

稽古場でも、アフタートークでも、駅でも。毎年必ず新しい人と会って、お話できることが楽しい。世界に人はめちゃくちゃいるから、会い続けられる訳じゃないですか。

今日もそうですけど、僕は、根本的には楽しい他者と出会い続けるために、演劇をやっているってことを見失わないようにしないとなっていつも思います。


権威に興味ないんですよね。

綾門: 権威性についても考えています。以前は僕、オリザさんに怒られていたんですよ、劇団員を入れろって。キュイを大きくしていって、助成金をもっととってやっていかないとって言われてたけど、いうこと聞かなかったんです。聞けなかったというか。

でも、ハイバイが今年から個人ユニットになりましたよね。ままごとも活動形態を見直すため今年度はいったん活動をお休み。その流れ、あのようになりなさいって言われていた“団体”が、こうなっているのをみると、劇団員入れてもそれはそれで難しい状況を迎えていたのかもって思っちゃいますね。

権威性に興味ないって言うと、それに無自覚な人がパワハラしちゃうっていう恐れはありつつ、でも、自分はやっぱりそこまで興味ないんです、はじめたときから。

大学教員をやるっていうのも、権威欲しさにやってるのを前提に話をしてくる人もいて。そんなことないのに。教員としての仕事で一番苦痛なのは、成績つけるところですね…。だから、何かを選ぶ側に立ちたがる人とは話がかみ合わない。

みたいな考え方が、当時は珍しい扱いだったけど、今はもう少し普通になってきている気がしていて。

坂本: 質問というか確認なんですが、今話している権威って、売れたいみたいな熱量?偉くなりたいってこと?どの意味ですか?

綾門: うーん。今って、ドラマターグ※7志望の方が増えてきたじゃないですか。ドラマターグって、主宰みたいに作品のトップに立つわけじゃなくて、権威とは遠いところにあるセクションなのに。それと、個人ユニット形成の流れって関係している気がしています。主宰不足はあるかも。どんなに優秀なスタッフがいても、主宰居ないと始まらないのに、主宰はあんまりいない状態。

※7…舞台芸術における職分で、劇場やカンパニー(劇団など)、あるいは個々の公演の創作現場において生じるあらゆる知的作業に関わり、そのたびごとにサポート、助言、調整、相談役などの役割を果たす(artscapeHPより引用)。漫画家でいう編集のような存在。


責任って分散していいものなんじゃない?

坂本: その若い人たちの変化って、権威性を望む望まないっていうか、責任を取る立場を選ばないってことなんじゃないかって思うんですけど。

綾門: あ~、それもそうですね。

坂本: いま失敗しづらい社会になっちゃってるから、決定権を持って責任を取るリーダーになるっていうことに、手が出づらいんじゃないかっていう印象があります。だから、劇団が少なくなって、コレクティブ的なユニットが増えているのかな。劇団に誘うって、長い時間を共にして、その人の人生を左右してしまうところがあるじゃないですか。

長井: 私も、責任を取るというか、何かを決めるのがすごく苦手で…。自分で使う小道具なのに、「これでいいですかね??」ってスタッフにめっちゃきいちゃいます(笑)。予算使うのもビクビクしちゃって。でもその、責任の取りたくなさを突き破って作品を作りたくなったので、やらせてもらっているんですけど。

坂本: 私もいまだにそうですよ。公演回数決めるとか、予算組むとか、超スピードが遅くなって、とりあえず寝かそう…(パソコン閉じ)。みたいな。

笠木: わかる~(笑)。

坂本: その怖さはベース持ちながら、やりたいからやるとか、誰もやらないから私がやらねば、って気持ちを推進力にしている気がします。

あと私は、責任を分散させる方にシフトしていってる。金銭的な責任は弊社で負うけど、いい稽古場にするのはみんなに責任があるよねって、言っていきたい。

長井: そうなると、モチベが高いことが重要になっちゃうのも怖くて。例えば、モチベ10くらいの人が演劇できなくなるのもどうなの?というか。やりたくないって言えないとか、稽古場に自分よりモチベが高い、モチベ100の人がいると怖いって思っちゃうし。

稽古場での「ちゃんとしてなきゃいけない度」が別に低くてもいい気がしているんです。今回、さくらさんに「いくらでも泣き言を言っていい稽古場にしましょう」って言ってもらえたのを結構覚えていて。

坂本: そうですよね。私の100とあなたの10が等価な可能性があるよねっていうのは、気を付けないといけないなと思う。その擦りあわせができる機会を作ったり、モチベーションの差を埋められない理由に目を向けてみたりとか。対話して調整していく必要がありますよね。

長井: 去年市民劇に参加したんですけど、本番中に台本持ってもいいですって言われて、良いんだ!ってびっくりしました。で、僕は持ってやってたんですけど、それがすごくよくて。
周りからモチベ低いなって思われてるかもしれないんですけど、自分は持ちたいと思って持っている。そういういろんな人たちが一緒に舞台に乗っているのがいいなって。

まあ、作品に対する評価はばらつくんですけど。そういうことでモチベって決められることじゃないなって。100同士にならないと素晴らしい作品は作れないって思っている人もいるのかもしれないけど

綾門: さっき坂本さんが言っていた、あなたたちにも責任があるみたいなことって、主宰からは言いづらいけど確かにあると思います。

今年から、障害者差別解消法※8っていうのが義務化されたんです。これは、舞台芸術関係者全員知っていた方がいいと思うんですけど。

※8…全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定された(内閣府HPより引用)。

例えば、車いすのお客様がいらっしゃったときに、ご案内するのって今までは努力義務だったんですけど、義務になったんですよ。お客さんを広く迎える上で、どんな方が来るかわからない、誰が対応するか完璧に予測できない以上、誰しもが気を付けないといけない。

かつ、合理的配慮※9をしないといけない人が、座組にもいるかもしれないぞっていう観点も持たないといけないと思うんです。

※9…何らかの対応を必要としていることの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(リーフレット『「合理的配慮」を知っていますか?』より引用)。

リーフレット『「合理的配慮」を知っていますか?』表紙

綾門: 今、座組の在り方を考える上で僕が格闘しているのは、自分が急性緑内障になった経験です。一度、右目がガッツリ見えなくなって、今は普通に生活できるくらい回復したけれども、起きてしばらくは、主宰ができて当然なことと、今できなくなったことがバッティングしました。

例えば、フライヤーのチェックはできませんでした。3回連続でミスしちゃって。iPhoneやiPadには文字全部でっかくできる機能やボイスオーバーがあるから、文字情報は問題なく見られる。でも、インスタのストーリーズも何が書いてあるかよくわからない時期は、最終責任を持てなくなりました。

だから、作業を分散できる状態にしておいた方がいいよねって話し合っています。まず、自分の現状を全員に伝えて、やるべき仕事はやるけど、できないこと・やらないほうがいいことは、誰かになるべく早めに振っていくことを始めました。

その変化と、みんなに責任を分散するっていうのが繋がっている気がしています。やっぱり座組の中でお互いにケアしないと回らないっていうことを、意外とわかってる人とわかっていない人がいて、温度差を感じます。あと、主宰の責任が以前より重くなっているので、倒れちゃって企画が立ち行かなくなるもったいないケースもいくつか見受けられます。

まずは、主宰の仕事ってこうだよねって思い込みを解除していかないと、いけない段階なのかなって。

それに関連して、最近、プロ・学生問わず、公演中止が増えていると感じています。大学が予算を補助しても、どんどん中止になっちゃうんですよ。どういう支えが必要なのか…。

笠木: 質問なんですけど、公演中止になっちゃうのを防ぐには、メンタル的なケアが必要なのか、もっと前段階かもしれないんですが、必要なことってなんだと思われますか。心身共に支えあうことの土台というか。何があればいいのかな。

状況としては厳しいと思うんです。SNSの存在とか。そういうことはありつつ、支えあいながら、いい作品を作りたい。そのために何が大切なのか…。

坂本: 「できないことをできないって言っていい環境」じゃないでしょうか。本当はそんなことないのに、“こうあるべき”に規定されているんじゃないかなと。自分たちで自由にデザインできるところを、正しさみたいな型に従わなくちゃと苦しくなってしまっているように見えます。

瀧口: 突然すみません。私がこの場で一番年下で、2か月前に大学を卒業した身として聞いていたのですが、すごくわかるなと思って…。何を言うにも、不安は常にあります。

これまで活動する中で色々と問題意識を持つことがあり、でもやってみないとわからないと思って、去年、自分の手の届く範囲で公演を主宰しました。それに際して、どうしてこれをやるのかっていう文章を書きました。それはきっと、どっから突っ込まれても反論出来る強さを持っておきたかったからなんです。個人的には、そういう、作品の内容だけじゃない強度を持っておかないと、表現はできないなって思います…。

できないって言える環境はあった方がいいっていうのも同意見です。主宰はもっと手軽になった方が、健康的だと思います。先に言った公演でも、主宰補佐と演出助手を分けたりして、いろんな人に助けてもらいました。


頼ってもいいんですよ、意外と。

長井: 今ある心配の一つが、座組の誰かがちょっと動けないってなったら、どうしようってことです。このレベルの意識なのヤバいかもしれないんですけど…。少人数で回しているので、そうなってもカバーできるかわからない。でも、人数が増えても大変だと思うんです。

だから、主宰をやってみて思ったのは、公演のためのマンパワーの適量を知りたいってことでした。この舞台に対して、どれくらいの人数が必要で、何が必要なのか、経験値がないと判断できないんだなって。

今回は、スタッフがみなさん主宰の経験があって教えてくれるから、何とかやれてますけど…。だから、学生さんが1から始めたいってときに、物理的にも精神的にもマジで近くに教えてくれる経験者がいないと、企画も人も倒れちゃうんじゃないですかね…。頼る、みたいなことができたいですよね。

坂本: 本当にそうですよね。わからないことを誰かに「教えてください!」って突撃してもいいと思うんです。演劇に関わっている人って、けっこう義理人情あるし(笑)。それができる人は、一歩目を踏み出す才能があるんじゃないかな。昔と一番違うのは、その感覚な気がします。

綾門: 主宰の自分としても、その感覚は重要だなって思います。この前、感覚のずれがあるなって感じたことがありました。

先日、仙台で行われたせんだい短編戯曲賞の授賞式をお客さんとして観に行ってきたんです。授賞式は、その年に大賞を取った作品のリーディング公演もセットなんですね。

で、そこで運営の方から声をかけられて。何かなと思ったら、受賞経験者からのフィードバックが欲しいっていう。先日、リニューアルしたので、その準備だったのかなと思います。

僕は、過去2回大賞をいただいたことがあるんですが、それで仙台に行ったのが初めてのツアー公演で。ツアーってめっちゃノウハウいるんですけど、当時21歳の僕には経験がなかった。だから、経験者の方にききに行ったんです。ちょうど青年団の演出部に関わり始めたころだったので、経験者が周りにいてくれたのもあって、初めましての人にも「すみません初めまして、綾門というんですけど」って声を掛けられました。10人以上に質問して、なるほど分かったってなって、やっと仙台に行けました。

第1回せんだい短編戯曲賞フライヤー

綾門: 逆に言うと、そんなに先輩がいるってことはスタンダードではないし。運営側が戯曲賞を盛り上げたくて、受賞者に仙台に来てほしいなら、企画やバックアップを戯曲賞側がある程度は手伝わないと難しいだろうと思います、とお伝えしました。

僕が青年団演出部の人に頼れたのって、タイミングのいい偶然じゃないですか。頼る先があったからよかった。でも、今の学生がどんなに優秀でも、突撃する先がなければ困る局面もあるだろうし。加えて、ハラスメントを起こさないことを徹底的に考えるなら、教員と学生って全く話さないのが大正解なんですよ。接触がなければ何も起きないから。

でもそこはうまいことやらないと、どこかで詰んでしまう。ノウハウが下りていかない。ハラスメントせずに先輩からノウハウを渡すシステムを整えるのは、大学の今後の課題かなと思います。

坂本: 次世代に伝えていくことは上の世代の責務だけど、取りに行くガッツも大事。待ってても来ないですよ、とは言いたいですね。

笠木・長井・瀧口: 私もそう思います。

長井: 私は、もう、チームを組んでみてよかったなって思ってます。超ウルトラハッピー。宝宝の公演がが大コケしたら、あとでみんなでどう思うかわからないですけど(笑)。

最初は、誰かの仲間になりたかったし、劇団とか、いつメンみたいなの、いいな~って思ってました。そういう人たちがいないでもないんですけど、俳優をしていてめっちゃ寂しくて。
演劇をアイデンティティだと思っていたけど、業界の中でも一人だって思って。でも自分から獲りにいくガッツが要るって聞いてそうだなって思うし、獲りに行きたいって思う!
し、今後私を仲間に入れてくれる人がいてくれたらいいなって思ってます。
宝宝を観て、私たちの仲間になりたいという人が現れるのもまた嬉しいなって思います。

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今回の鼎談を通じ、やはり俳優主体のユニットが増えている流れはあること、そしてそれは様々な環境の変化に影響されて起こっていることが見えてきました。また、現在の創作を取り巻く環境は、先人の皆様によって整えらえれた道の上にあることがよくわかりました…!

ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございます。

最後に、ご参加いただいた皆様の最新ご活躍情報と、宝宝の公演情報をご紹介いたします。ぜひ、読むから観るへ繋げていただけますと幸いです。


直近公演情報まとめ


綾門優季さん

○キュイ新作短編集『OVERWORK』

フライヤー

世界から滅びても良い仕事
あまりにも劣悪な労働を過剰に強いられることにより、日々の生活が無残に破壊されていく人々の、行き場のない憤りと、やるせない悲しみに満ちた、過労がテーマの連作短編集を上演する。
第一部『予想で泣かなくてもいいよ』では部下の不満の爆発と突然の上司の失踪、第二部『あなたたちを凍結させるための呪詛』では部下から上司に対しての殺人未遂、第三部『予定された孤独』では部下が上司を直接に殺害するシーンが描かれる。

2024年6月28日(金)〜6月30日(日)
神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI

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坂本ももさん

①紙背トーク〈舞台芸術と言葉の「場所」を考える〉

トークホスト:山﨑健太
トークゲスト:丘田ミイ子・坂本もも
2024年6月12日(水)19:00
おぐセンター(荒川線小台駅徒歩5分 / JR尾久駅徒歩10分)

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②範宙遊泳『心の声など聞こえるか』

フライヤー

作・演出:山本卓卓
​音楽:曽我部恵一
出演:福原冠 井神沙恵 石原朋香 狩野瑞樹 山本卓卓
2024年7月6日(土)〜14日(日)
東京芸術劇場 シアターイースト

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③ロロ 劇と短歌『飽きてから』
原案:三浦直之 上坂あゆ美
脚本・演出:三浦直之
短歌:上坂あゆ美
音楽:Summer Eye
出演:亀島一徳 望月綾乃 森本華(以上ロロ)上坂あゆ美 鈴木ジェロニモ
2024年8月23日(金)〜9月1日(日)
渋谷ユーロライブ

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笠木泉さん

○劇壇ガルバ『ミネムラさん』
作家として参加
2024年9月13日(金)~23日(月祝)
シアタートップス

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宝宝(1かいめ)『おい!サイコーに愛なんだが涙』

※2024/6/2終了

品川区中延1DK。
美大に通う「ぼく」と地下芸人の「彼」は、一つ屋根の下で暮らしている。

彼は自分のことを簡単に言葉にできる。
ネタライブで観客に向かって話したり、
先輩芸人とのトークでツカミにすらしている。
「おれ男好きなんすよ!」って。
(それぼくとのことやないかい)

ぼくはそんなこと言えない。誰にも。
自分のことを、窓の外の世界では口ごもるし、はぐらかす。
この部屋の中で、彼への気持ちも悩みもひっそりこそこそと育んでいる。
大麻でもないのに。

この恋、ちっとも甘酸っぱくないんだが?むしろ辛酸なんだが!?
それでもこれは、世界の中心で愛を叫ぶ、コメディのつもりなんだが。

クリエーションメンバー

脚本・出演:長井健一
脚本・演出:藤田恭輔(かるがも団地)

企画協力:佃直哉(かまどキッチン)
宣伝美術デザイン:古戸森陽乃(かるがも団地)

宣伝美術撮影:藤田恭輔(かるがも団地)
当日運営:す〜す〜(すわろす)
制作協力:瀧口さくら
記録撮影:中嶋千歩

会場
インストールの途中だビル 4階インストジオ(東京都品川区戶越6丁目 23−21)
中延駅から徒歩1分(東急大井町線、都営浅草線)

日程
2024年5月30日-6月2日
全7ステージ

タイムテーブル
5.30木 19:15
5.31金 ⭐️12ws/16:00/19:15
6.1土 12:00/⭐️16:00ws/19:15
6.2日 12:00/16:00

※上演時間75分(予定)
※開場時間は開演の30分前を予定しています
※各回開演3時間前までご予約受付可能

⭐️は『おい!サイコーに愛なんだが涙』のテキストを用いたワークショップを行います(120分程度を予定)※受付終了

チケット料金
全席自由席・現金当日清算のみ
一般 2,500 円 | ペア 4,500 円

チケット発売日 2024/4/2
チケット取扱:カルテットオンライン

ATTENTION
・車椅子でのご観劇をご希望の方はお手数ですが一度メールでお問い合わせください
・聴覚に障害がある方に観劇サポートとして上演台本の貸し出しを行ないます。事前にメールでご予約ください。
・ご不安な点やご不明な点がある方は下記のメールアドレスから公式のXのDMにご連絡ください。

お問い合わせ
baobao.akachan@gmail.com
XアカウントDM:@baobao_akachan
協力
かるがも団地 かまどキッチン すわろす インストールの途中だビル 

主催 長井健一

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