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ダメパパが私立小学校受験に挑んでみた4 ~お教室通いは幸せ編~

【3行でわかる前回のあらすじ】

お教室に

行くことに

なった。

【ダメパパ私立小受験記まとめ】


【イトー家の紹介】

〈僕〉
30代後半。都内勤務のサラリーマン。お教室の美人ママ達を目当てに娘のお教室通いを頑張る。

〈妻〉
僕と同い年。某私立小学校の卒業生。お教室の美人ママを餌に、僕に娘のお教室通いをさせる。

〈娘〉
4歳の年中。幼稚園に在園。お教室の美人ママより可愛い。

〈息子〉
1歳半。バナナしか食べない。

〈その他情報〉
神奈川県在住。ローンありの持家に住む。世帯年収は900万円ほど。


【本編】

娘がお教室に通い出して、早1ヶ月が過ぎようとしていた。

娘は週に1回、土曜日の1時間半のコマで、お教室に通っている。すでに通っている精鋭部隊のお受験ソルジャーである利発そうな子供たちの輪の中に、内気な娘が馴染めるのか、陰キャな父親としてはその点がとても心配であったが、すんなりと溶け込むことができた様子。「楽しかった!」といいながらお教室から出てくる姿はどこか頼もしくもあるのだが、娘もまたいっぱしのお受験ソルジャーになって試験会場という戦地に赴くのかと思うと複雑な心境でもある。

そんな週一のお教室通いだが、なぜだが僕が付き添い人に抜擢されていた。

~僕が娘に付き添うことが確定した流れ~

「ねぇ、お教室に娘を連れて行くのはあなたがいってね」

「え?いやだよ、めんどくさい」

「美人のママさんいっぱいいたんでしょ?」

「よろしくおねがいしまあああす!!!!」

~終~

このように、誠に不本意ではあるが、お教室への付き添いは僕が行くことになった。しかし、初回こそイヤイヤで行くことになった僕だが、実は結構おいしい役回りなのでは?ということに2回目から気付いた。

というのも、このとき世界はコロナの真っ只中であった。どこに行くにも人数制限があったり、対面での会話もなるべく控えるような配慮が各所で行われていた。

当然、お教室についても同様の配慮がなされている。本来、子どもがお勉強している間は体験学習のときのように、子供たちのいる教室から大きいガラスを一枚隔てた場所で、子の学ぶ姿を見ることができる。そしてお教室からの帰り道で各親たちは「今日は姿勢が悪かったね」とか「なんであんな問題解けなかったの?」とか「あの子はできてたのにね……」とか「そんなんじゃあの学校には受からないのよおおおお!!!!!!」ってな具合で、狂気的な大反省会をとりおこなっているのであろう。 ※空想上の話です

しかしながらこういった参観は、密を避けるというコロナ禍で生じた配慮により中止となっていた。その代わりに、教室内に設置されたWEBカメラを通じZOOMをはじめとするオンラインミーティングアプリ上で親御さんにこの姿を届けるという形で対応していた。この対応には狂気大反省会もニッコリである。

とはいえ、画角が決まっているWEBカメラでは教室内すべてを映しきれない。子供が動き回るような”運動”の授業とかだと、自分の子が見切れてしまうというデメリットもある。しかしながら僕にはこのオンライン対応がとんでもないメリットになっていた。

なぜなら娘がお教室に行っている時間、僕は完全なるフリー状態になるからである。束の間のサタデイナイトフィーバーだ。娘をお教室に届けた後、僕は浮いた入会金の一部で得た三千円をポケットに入れ、ジョン・トラボルタの”あのポーズ”で颯爽とスタバ的なカフェに入店しウンチャラナマエナガーイフラペチーノを注文し、座席に着くのだ。

あのポーズ
(出典:wikipedia)

座席に着いた僕は、スマホでZOOMを起動し、娘が頑張る姿を見つつ、時折タバコをふかしながらiPadで「遊戯王マスターデュエル」をプレイする。これがぼくのかんがえたさいきょうのきゅうじつのすごしかたであった。娘が勉学に励むかたわらで、父親はシャレオツなカフェに入りドヤ顔でiPadを取り出してブルーアイズホワイトドラゴンを召喚しているのだ。デュエリストの鑑である。(ちなみにこの時、妻は自宅で1歳半の子守をしつつ、同じくオンラインで娘の姿を監視している)

今考えると、(イヤイヤではあるが)私立小学校を目指す親としては結構クソなことをしてるなーと思う。まわりのお受験パパママたちは、きっと子供の一挙手一投足を観察し、何が得意で何が不得意かをメモし、家庭でどういう教育をすればいいかという課題を洗い出しているに違いない。しかし、これぐらいの遊びがないと、心がくじけていたと思う。もともとイヤイヤながらやっている小学校受験である。ご褒美がないとマジで匙をなげていたであろう。

それでもいちおう娘の様子をうかがうよう努力していたのだが、画面操作を誤ってスマホのインカメラをオンにしてしまい、気だるそうにタバコをふかしているおっさんの顔をZOOM参加者のママさんらにさらけ出してしまった日から、僕の生きる道はデュエリストしかないなと思ったのであった。


インカメに晒されたおっさんの図

そんなこんなで時折娘の姿を見るぐらいのお教室通いをしていたある日、ふとZOOMで娘の姿を見てみると、何やら教室内でイス取りゲームをやっていた。これもお受験への道に必要な”行動観察”という科目の一環である。お受験科目の行動観察とは、例えば何人かの子供でグループを組ませて一つの課題に取り組ませたり、子ども同士でゲームなどをさせて、子供が集団の中でどのような行動をとるのかをチェックされる科目である。イス取りゲームはまさに行動観察の練習であった。椅子を取れず負けた時に悔しがるのか、相手を褒めたたえるのか、はたまた負けた人はゲームが終わるまでただ立って見守るのか、ゲーム中の人を応援するのか、などなど……たかが椅子取りゲームだが子供を判定するポイントがいくつもあるのだ。奥が深いぜ小学校受験。

遊びであるはずのイス取りゲームなのだが、人生のイス取りゲームである受験で生き残りなさいという、お教室側の裏のメッセージに気づいたのは恐らく私立小への道を俯瞰でみている僕一人なのではなかろうか。

僕がデュエルをしているかたわらで、娘もその他大勢の受験ソルジャーと闘っているんだな……娘もまた受験という名の決闘 ―デュエル― に立ち向かうデュエリストの一人なのか……そう思うと目頭が熱くなった。

そんなイス取りゲームをする娘の様子をしばらく見ていると、何かがおかしいことに気付く。

イス取りゲームの基本的な遊び方は、人数より少ない個数の椅子が円形に並べられ、そのまわりを参加者が音楽と共に一定の速度でぐるぐる回る。そして音楽が止まった瞬間に近くの椅子に着座し、椅子に座れなかった者は脱落して最後の一人になるまでを競う遊びのはずだ。座る椅子がバッティングした場合は先にお尻が座面についている方が優先され、既に座っている人の上に座ろうが、脱落である。

しかし、娘は独自ルールを形成していた。

音楽が流れる、止まる、手近な椅子に座ろうとするも、すんでのところで他の子が椅子に座ってしまい、娘のお尻は先に座った子の膝の上にあった。これで娘は脱落のはず……だが娘はあろうことか「じゃーんけん、ぽん!」とその子にじゃんけんを否応なく挑んだ。そしてじゃんけんで勝った娘はその子の椅子を奪い取っていた。じゃんけんで負けた子も、椅子に座っていたはずなのに突然はじまったじゃんけんに負けたせいか「ちっ、負けちまったぜ……あばよ!」と言わんばかりに潔く椅子を明け渡している。これを見ていつも目が怖い天海先生が爆笑している。僕もカフェ内で爆笑した。こんなイス取りゲーム、いまだかつて見たことがない。普通のゲームをやっていると思ったら、突然闇のゲームが始まったのだ。というかただのじゃんけんゲームじゃん、これ。

***

その日のお教室の帰り道、僕は娘にイス取りゲームの真のルールを教えた。何がどうなって娘しか知らないローカルルールが誕生したのか不明だが、やはりルールを守ってこそゲームは楽しいのだ。遊戯王だって、ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!と教えてくれている。

そもそも、娘はイス取りゲームのルールを知っているはずだ。それなのになぜ椅子を取れなかったのにじゃんけん勝負を挑んだのか聞いてみたら、

「負けたくなかった」

と娘はもらした。

娘の新たな一面が見えた。こいつは結構負けず嫌いなのかもしれない。内気な娘だと思っていたが、俺がルールだと言わんばかりの強気な姿勢も持ち合わせているようだ。お教室に通わせていなかったら、こんなに早いタイミングで知りえない一面だ。この負けず嫌いの気は、受験をはじめとする今後の彼女の人生において、世を渡る武器の一つになるかもしれないなと思った。もしかすると僕よりも娘の方が真のデュエリストに近いのかもしれない……

ともあれ、もしかするとこれが私立小受験の醍醐味なのかもしれない。受験を通して、子供の新たな一面を見つけたり、見つけたその能力を育てていく。試験での合否は二の次でいい。大事なのは過程であり、その過程で子供の成長の機会を与えていくのが小受に挑むということなのか。結果ばかりを求める社会人の発想とは大きく異なるが、今は経験値をためるときなんだ……!お教室に通い始めて一ヶ月で、僕は小受の真理を知ってしまったのだ……!

そんなことを考えながら「歩くの疲れた」という娘を抱っこしながら家についた。

早速妻にこの気づきの話を熱弁した。

「ってことだからこの受験で得る娘の経験は何ものにも代え難いと思うんだ、合否は二の次でよかったんだ……!」

「そこに気付くとは……やはり天才……か」

「へへへ」

ようやく旦那が受験にのってくれたと、ホッと胸をなでおろす妻。僕も、妻に認められたのがわかって、どこか誇らしげである。

「合否は二の次みたいだから、あとは娘と二人で頑張って!まかせた!」

妻に張り倒された。

続く

【次回予告】

お家でデスゲーム勃発

【ダメパパ小学校受験記まとめ】


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