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ダメパパが私立小学校受験に挑んでみた6 ~マザーリング編~

【3行でわかる前回のあらすじ】

お教室の助言により

志望校が

増えた

【ダメパパ私立小受験記まとめ】

【イトー家の紹介】

〈僕〉
30代後半。都内勤務のサラリーマン。不本意な小受に邁進中。

〈妻〉
僕と同い年。某私立小学校の卒業生。小受のいいだしっぺ。

〈娘〉
4歳の年中。幼稚園に在園。最近椅子取りゲームでじゃけんをしなくなった。

〈息子〉
1歳。お姉ちゃんのことが大好き。

〈その他情報〉
神奈川県在住。ローンありの持家に住む。世帯年収は900万円ほど。

【本編】

お教室には授業の最後にマザーリングと呼ばれる時間がある。

一般的にマザーリングとは、母親が乳幼児の子供に与える愛情のことを指し、例えば授乳だったり抱擁だったり体に触れるスキンシップだったり……そういった行動で子供に愛情を注ぐ行為をマザーリングと呼ぶ。そしてマザーリングを十分に受けた子供の方が情緒が安定した子供になるんだとか。

しかし、お教室におけるマザーリングは一般的なものとは意味が違う。お教室でのマザーリングは、父母に対して行われる。といっても、父母に対して体に触れるスキンシップが行われるわけではない。そのようなマザーリングが僕の体に行われるのであれば、毎日でもお教室に通うし、マザーリングによって情緒が安定したパパが出来上がるに違いない。先生のことをママとか呼んじゃうかもしれない。控えめに言って最高の赤ちゃんプレイだ。バブー。

もちろんそのようなことは微塵もない。お教室でのマザーリングとは、その日の授業の進捗だったり、授業の意図といった子供に対する指導の説明を父母に対して行うことを指している。さらにマザーリングでは授業のポイントだけではなく、父母への指導もあわせて話される。例えば、家庭での指導方法からはじまり、志望校の話であったり、なんなら言うことを聞かない子供にイラつく父母のカウンセリングまで行われる。そういった父母に対しての指導を総じてマザーリングと呼んでいるのだ。

毎授業の終了間際に行われるマザーリング。マザーリング中は他のママさんをマネして、僕も赤べこのようにウンウンと相づちを打ち、やる気のあるパパ風オーラを発している。

お教室に通い出した当初は、本当にウンウン頷いているだけだった。まわりのママ連中は、忘れないようにマザーリングの内容をしっかりとメモに書いている様子。

ウフフ。メモなんかしなくたって、頭にしっかりとインプットして帰ればいいのさ。僕はできるパパだから、メモをとらなくても脳のメモ帳にしっかりと書き込んでいる。メモをとらないと忘れてしまう凡庸な親は大変だなぁー……やれやれだぜ。

そんなことを考えながら先生の言うことを脳と心に刻み込んで帰ると、

「今日の授業はどうだった?先生はどんなお話をしてた?」

と妻から聞かれる。

すかさず僕は先ほど先生に言われた内容を話すために脳と心に刻んだお話を思い出す。

「えぇっと……なんか、家でも鉛筆の練習をしてくださいって言ってた」

「鉛筆ね。運筆の練習をしないと確かに線がぐにゃぐにゃだからね……他には?」

「えぇっと……なんか、じゃんけんの練習をしてくださいって言ってた」

「じゃんけん?それはなんで?」

「えぇっと……じゃんけんが強くなると……イス取りゲームで最強になれるから……」※第4話参照

「……覚えてないの?」

「えぇっと……忘れちゃった☆」

……こうして妻に激怒りされたため、今ではしっかりとマザーリングのメモをとるようになりました。新卒の社会人か、僕は。

こんな経緯があったので、やる気のない僕でもしっかりと先生の話を聞いて、ポイントを漏らさずにメモしていくようになった。人類にとっては小さな一歩だが、僕にとっては大きな一歩となったのだ。

***

とある日の授業のマザーリング。この日も聞き漏らさないように先生の発する一言一句をメモに書いていた。まわりのママ連中も同じようにメモをとっていると……

「みなさん、メモはしっかりと見返せるように書いてますか?」

突然、先生から問いが投げかけられた。先生の意図が掴めないままポカンとしていると

「このマザーリングでメモを取ることは大切ですが、メモを取ることが目的ではないです。メモを書いたのち、しっかりと読み返していただき家庭でも子供に指導できるようにしてください」

そうなのだ。効率よく子供に教育を施すために、先生の話をメモしているのだ。つまり、メモしたことを実践しなければ意味がない。メモをするだけで満足していては子供の成長にはつながらないのだ。先生の言う通り、僕はメモをとることに躍起になって、メモした重要なアレコレを全く試みていなかった。完全に手段が目的になってしまっているのだ。

良いことを聞いたぞ。先生の言うとおりだ。僕は先生の言う通り「メモは大事」とメモしておいた。

「メモしたことをもとに、ご家庭で指導することがポイントです。また、普段の生活の中で、お子さんのことで気付いた点をメモすることも大事になります。特に願書や面接の対策の際に、書き溜めたメモは力を発揮します。過去のメモを振り返り、どれだけ子供が成長したのかを振り返ることもできますので、私生活の中でもメモをとってまとめていただくことをおすすめします」

なるほど。子供の成長は驚くほど速い。速すぎる成長の中で、気付いた点をまとめておかないと、どういった子供であるかを志望校に伝えきれないということのようだ。僕はすかさず「メモは大事」とメモしておいた。

「ちょうど、昨年の受験生のお母さんが使用していたメモ帳をお借りしています」

おもむろにメモ帳を取り出し、ペラペラめくっていく先生。

「ご覧いただいてわかるように、些細な事でもしっかりとメモをとられています。しかも、とても見やすくわかりやすくまとめられていますね」

先生がペラペラめくるメモ帳を見てみると、色とりどりのカラフルなペンで綺麗にまとめられていた。この綺麗なメモ帳を見た時に、僕はとある出来事をふと思い出した。

***

あれは中学生の時だ。授業中に担任の先生が僕のノートを見て言った。

「お前さ、ノートが汚すぎるよ。こんなに汚くて勉強できるの?」

そう言いながら担任は僕のノートを高らかに掲げ、クラスのみんなに見えるように広げた。

「ミミズが這ったような字のノートだなw」

なるほど。言い得て妙だ。僕は納得した。確かにめちゃくちゃ汚い。なんなら書いた僕でさえ読めない。左上から書き始めたと思ったら、そのページに飽きたのか、別のページに続きを書き出したりしている。とんでもない黒の章がここにできあがっていた。

「それに比べてA子さんのノートはすごい綺麗だね」

そう言いながら、今度はA子さんのノートを広げる先生。色を使い分けながらまとめているカラフルなノートがそこにはあった。重要なポイントには囲い線をつけたりしながら仕上げているノート。芸術的だ。僕は素直に綺麗なノートだなと思った。

「お前もこれぐらい綺麗に書いた方が、見る側としても気分がいいよ」

確かに、汚いノートより綺麗なノートの方が良いに決まっている。芸術点は高いだろう。そこに異論を唱えることはしない。

しかし、重要なのはそのノートを使って結果が出せるか、ということではないだろうか。つまり、いくら綺麗なノートを書いたとしても、テストでいい点を取らなければ意味がないのだ。A子さんは綺麗なノートを書いてはいるものの、それに見合った成績かというと、そうでもなかった。ノートを綺麗にすることが目的になっているから、授業の内容が頭に入ってこないのではないだろうか。これこそ、手段が目的になっているのではなかろうか?

***

今回、お教室の先生が見せてきたメモ帳は、あの日のA子さんを思い出すほど、とてもきれいにまとめられている。まとめられているのだが、ここまで綺麗にメモ帳を作る労力と、それに対する成果は見合っていたのだろうか?あの日のA子さんのように、きれいにまとまってはいるけど、結果が付いてきていないかもしれない。だから僕はノートやメモ帳に時間を費やしたくないのだ。そう、僕は結果だけを追い求めればいいのだ。結果……それはすなわち、第一志望校に合格、である!!!

そんな穿った見方で先生のもつメモ帳を見ていたら先生が言った。

「ちなみにこの人は第一志望校に合格しました」

僕は自分のメモ帳に「メモは大事」とメモしておいた。帰って妻にメモを見せたら「なぜメモが大事か」をメモしていなかったので怒られました。

続く

【次回予告】

自宅学習の時間だ!

【ダメパパ小学校受験記まとめ】


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