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2. ディジュリドゥの唇の作り方

ディジュリドゥを鳴らす時、マウスピースの中で唇をブルブルと振るわせます。一般的には、トランペットやトロンボーンなどの管楽器で使われる手法と似たバジングがチョイスされているようです。


自然に閉じた唇ってどんな感じ?

ディジュリドゥ演奏に必要な唇の作り方に入る前に、まずは自然に唇を閉じた時の状態がどんなものなのか確認しておきましょう。

まず前提として管楽器を演奏する時には歯をかみ合わせない歯間をあけた状態にします。その状態で唇を自然に閉じると下の図のようになります。

[自然に唇を閉じた状態]

図のように唇間と歯間の高さはズレています。上前歯の先端が下唇の内側に触れるような位置関係にあります。この時の舌は弛緩して口腔内の一番下に座っています。

自然に唇を閉じた状態で、舌をまっすぐ前方に持っていくと歯間を抜けた先にどこに触れるか試してみてください。わかりにくい場合は、歯間を吸うと唇の裏側が前歯に吸い付くので、その前歯が唇の裏側のどのあたりに当たっているか感じてみてください。

[自然に閉じた唇の状態で舌先を歯間に差し入れた状態]

通常、唇間は歯間よりも上の位置にあるので、図のように舌先は下唇の内側に触れると思います。これは、人間の体の構造的に水を飲んだ時や食べ物を食べた時に口から内容物がこぼれ落ちないように、唇間の位置は歯間よりも高い場所にあるからです。

もし舌先が上唇の裏か、唇の間に触れていると感じる場合は、鏡を見て自分の顔が普段の真顔になっているか確認して、再チャレンジしてみてください。

[自然に唇を閉じた正面と横からの写真]


「プ」の発音をした時の唇

ひるがえって、管楽器を演奏する際には「吹くための唇」にするのが一般的です。吹くのに適した唇の形は「プ/フ」を発音する時の状態で、多くの管楽器がこの唇の形で演奏されます。

[プの発音状態の唇間と歯間の関係]

この図のように、「プ」の発音状態では上唇が歯間の位置まで下がってきて、「唇間と歯間が直列する状態」になります。この時、舌が果たす役割はほとんどないため「プ」の発音時には舌は動かず、弛緩して一番下に座っています。

この状態だとフーっと息を出しやすく、スープをフーフー冷ます時や、ろうそくの炎を吹き消す時には自然とこの形になっています。「プの唇」は息がまっすぐ唇の裏に当たって、破裂音である「プ」を発音しやすい状態になっていて、この唇が「吹くための唇」の型と考えられます。

[プの発音状態で舌先を歯間に差し込んだ図]

「プ」の唇では舌先を歯の間に差し込むと、図のようにちょうど唇の間の裏側に舌先が触れます。このように舌を使って、「唇間と歯間の直列状態」を確認できます。

「プ」の発音状態

  • 歯間と唇間が直列している

  • 上下前歯4本と唇の内側が触れ合っている(唇と前歯の間にスペースが小さい)

  • 唇を上下にギュっと閉じることができる状態

  • 唇に作ったアパチュア(唇の空気の通る穴)を小さくタイトに絞りこむことができる唇の一番外側が上下に触れ合っている

  • マウスピースにグッと唇を押し付けるような形で圧迫させるのにむいている

[プの発音時の正面と横からの写真]鼻の下がのびて上唇が下がって歯間までおりてきています。上唇が下がるために唇の上側の筋肉が硬くなっています。

ディジュリドゥのコンテンポラリー演奏では他の管楽器と同様にこの状態で鳴らすのが一般的で、小さいアパチュア(唇の空気の通る穴)を作るように意識して空気の出口を狭くすることでサウンドメイキングすることが多いようです。

またコンテンポラリー演奏では唇にかかるテンションをコントロールすることで多彩な音色を出すため、「プ」の発音状態のまま唇を強く閉じたり、逆に開放的にしてテクニカルに演奏されます。

[自然な唇とプの唇の比較 正面]
[自然な唇とプの唇の比較 横]


伝統奏法にフィットする唇

つぎに、ディジュリドゥの伝統奏法に必要な唇はどんな状態なのかを考えてみましょう。

北東アーネム・ランドで「ディジュリドゥを演奏する」という際に用いられる動詞が「話す」を意味する「wanga」という動詞が当てられているように、伝統奏法では吹くのではなく「しゃべる」ことでサウンドメイキングをする、という基本的姿勢があるようです。

管楽器を演奏する時に「吹く」という行為はごく自然なことですが、管楽器を「しゃべる」というのはどういう感覚なんでしょう?

そこに進む前にブラジルのエルメート・パスコアールのフルート・ソロを聞いてみましょう。エルメートはフルートを吹きながらも、声を同時に出すことでクリアーなフルートの音にノイジーな質感を与える演奏をしています。

この動画では冒頭からエルメートは声を使った即興演奏をしています。もともとはクリアーでつややかなフルートの音色が、ザラっとしたノイジーな音に変化しています。また時折唇の間から舌先が出ているのも、タンギングで鳴らす一般的な管楽器奏者のほとんどが行うことなんじゃないかなと思います。

吹いた状態をキープしながらそこに声を足すように音を出すと、エルメートの演奏のようにサウンドはノイジーになります。伝統奏法では「吹く+声」という状態ではなく、100%声の力のみで唇を震わせている状態で演奏をしていると考えられます。ということは「唇を閉じていてもしゃべりやすい唇」の状態が理想的な唇の型ということになります。

「プ」で唇を閉じた状態でしゃべろうとすると息がつまってかなりしゃべりづらいです。自然に唇閉じた状態でしゃべると意外なほど無理なくしゃべれます。さらに唇を少しリフトアップさせると、よりしゃべりやすくなることがわかります。

[唇をリフトアップした時の写真]下唇を上に持ち上げるような動きになるので、鼻の下は短くなっています。「プ」の唇の時とは真逆に唇の上側の筋肉はゆるんで、唇の下側の筋肉がかたくなっています。

次に、「吹く唇」と「しゃべりやすい唇」という2つの型を使って、実際に「吹く」→「しゃべる」→「循環呼吸をする」までを楽器なしでやってみて、次にディジュリドゥで鳴らしてみるまでを動画を使いながら説明していきます。

まずはブレスだけを使って唇を振動させるとどうなるか見てみましょう。

「吹くための唇」では唇の中心が小さくバジングしていて、振動が早く細かくバサバサしたノイジーな音になっています。「しゃべりやすい唇」では唇は大きくフラッタリングしていて、振動が遅くやわらかくプルプルした音になっています。

この後、3つの動画で、2種類の唇で声を出してマウスサウンドをしゃべる→循環呼吸をする→ONE DIDJERIDUを使って実際に鳴らしてみる、ということを実験してみました。それぞれのプロセスでどう違ってくるのかを見比べると、唇の型の違いがサウンドと演奏感の両方の面で大きく影響していることがわかります。

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