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32日目 チョコプリン

職員室から向かいの校舎に続く渡り廊下の自販機の下に、チョコプリンが隠してある。

私の大好きなY先輩が、面取りの石膏像みたいにきれいにスプーンで削り出した、人の顔の形をしたチョコプリン。

放課後、同級生達となるべく会話しないで済むように、私は1年生の校舎から一番遠い校舎の一番上の階の、一番奥にある美術部に入部した。

そこで先輩と出会った。

先輩はなんだかいつもふわふわして宙に浮いているみたいな人だ。

歯列矯正をしている私が「やわらかいものしか食べられない」と言うと、その日から「やわらかいもの食べにいこう」が合い言葉になって、先輩と私は一緒にたくさんやわらかいものを食べた。

帰りのコンビニで、学校の自販機で。牛乳プリンに、チョコプリン。茶碗蒸しが好きだという先輩にスーパーで買った茶碗蒸しを新聞にくるんで学校に持っていき、帰り道に渡したら、「うーん、これは温めないとね」とかばんにしまわれ、さすがにちょっと引かれてしまった。

3年生の先輩と、1年の私。本当はひとつしか歳が違わないことを打ち明けた時も、「そうか、眠かったんだねー。」と言ったきり、先輩はたいして驚かなかった。

私は一度別の学校に通っていて、そこをやめてこの学校に来た。特別嫌なことがあったわけじゃないけど、いつからか1日中眠くて仕方なくなり、通うことが出来なくなった。

「そろそろまた、見に行こうか。」

放課後、先輩がいたずらっぽい顔でこっちを見てくる。

渡り廊下を先輩と並んで歩く。

「いつまでばれずに置いとけるかな。」

自販機の下で水分を失ったチョコプリンは、日増しに黒光りして本当の人間の顔みたいになっていて怖かった。先輩と顔を見合わせてひとしきり笑って、二人してなに食わぬ顔というやつを作り確認し合ったら、また元の場所に急いでそれを隠した。

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この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン に参加しています。

毎日ひとつずつ、少しずつずれながらどこか重なっているような物語を綴っていこうと思います。

企画の詳しい内容は、ヤヤナギさんのnoteのこちらの記事 に掲載されています。

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