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書評 アルプス席の母 最強コンテンツとしての高校野球

五十路のおじさん、ばっどです。

アルプス席の母
早見和真

珍しく最新のベストセラー。

高校野球児とその母親の約3年間のストーリー。
内容としては熱闘甲子園的な部分と、ああいうメディアでは絶対に出てこない「業界事情」を絶妙に織り込みながらも、爽快な読後感をもたらす親子の成長記で、間違いなく面白い。
時系列を巧みに操ることで、読み終わりにやられたな~と思わせる著者の巧者ぶりも好印象です。

お話が成立するベースは、日本における「最強コンテンツとしての高校野球」の存在。
選手もそれにかかわる人たちも、なぜかくも高校野球に憧れ、殉じることができるのか?
それは二つの甲子園大会への「注目度」に他ならないのではないか、と思ってしまいます。

高校スポーツの全国大会のトーナメントがNHKの地上波で全試合ライブ放送される。(関西圏ではさらに+民放1社)
しかも年2回。うち春の1回は選手権的なものではなく、選考にあいまいさを残す、高野連の招待試合とゆー位置づけです。
現在、キングオブプロスポーツたるNPB公式戦の地上波放映の頻度がここまで下がったことを考えると、これは異常と言っていいと思います。

純も不純もなく、目立つから目指したくなる、目指す途上で人のサポートが必要になる。
甲子園での活躍が、サポートしてくれた人たちへの最良の恩返しとなるという思想が何10年、連綿と続き、その注目度を維持し続けるスパイラルは途切れることはないように見えます。
世間ではいろいろな観点から今後どうあるべきかの議論はされていますが、高校野球が興行として、見る人のキモチを満たしている以上、そこから外れた変化は起こりにくいというのは、個人的な見立てではあります。

高校野球のあり方への疑問はさておき、何かを目指す努力、それを支えることの心持の尊さがあるのは事実。
そういう意味で、読んで損のないお話だと思います。

物理的な本としての風合いもすごくいいので、購入がお勧めです。


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