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実は違うエンバイロメントデザイナーと背景モデラー

今回は「エンバイロメントデザイナー」「背景デザイナー」のお話し。これからゲーム業界で背景作りたいって人にも読んで頂きたい内容。
以前、「UI/UXデザイン」「2Dデザイン」は違うという記事を書いた。今回も"実は違うシリーズ"

背景制作部門であるエンバイロメントデザイナー背景モデラー
似ているようで実はちょっと違う。
ここを同じものと見てしまったがために今、人手不足が起きている。

背景は就職プレゼンの場や中途採用で考えたら比較的応募も多い部門が背景というイメージだった。
レベルデザインという後発の部門はまだ少ないが、背景という分野はゲーム業界でも歴史は長い。だから幅広い年齢層に渡って人数はある程度いるはずだ。
だから足りないというイメージは無いかもしれない。
でも実際、足りていない。

それは何故か?というのが今日のお話し。

■ゲームの3D背景について


ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド

例として、皆さんご存知ゼルダの画像を貼りました。
UIがちょこっと乗っていて、それ以外は何が見えますか?
別に心理テストじゃないので深読みしないで見て欲しい。

手前の岩の上にいる主人公のリンク以外、その岩も含めたほぼ画面全般が背景ですよね。
それも見渡す限り。カメラを振ったら360度が背景。

●ゲーム画面の大半は背景でできている

つまり、ゲーム画面ほとんどの面積を占めるのが背景ということになる。意識しないとあまり気に留めないけど背景って凄い仕事なのだ。

これはゲームに関わらずアニメ、映画、いろんなコンテンツも同じで、最近は絵も広いし作る物量も桁違いな大変な分野なのだ。現にアニメ業界では背景画を描く人が不足していて苦心しているって話しは最近よく聞く。
守備範囲も広くニーズも高い職種。なのに背景って言葉のせいで何か損をしているような気が…ゲームの絵作りにおいては実は花形なんですよ。

と、ざっくり説明だが背景の重要さに気付いて頂きただろうか?

■人数はいるのに背景さんが足りない理由

●原因・1

エンバイロメント背景モデルの仕事を混同してしまっている。
日本では背景モデラーって呼び方が普及してしまってたのがそもそもの問題かもしれない。そのせいかキャラやプロップと同列にモデラーと捉えられてしまったのが間違いの始まり。
では両者で何が違うのか考えてみよう。

・エンバイロメントデザイナー

エンバイロメントは正確には環境を含む背景全般を差し範囲が広い。
地形、ライト、配置、フォグなど天候のようなポスト処理も場合によっては含む。そのためジェネラリストやTA的な素養があるとさらに良い。

UnrealEngine上で作られたランドスケープ

ランドスケープ(地形)はゲームプレイにも大きく影響するので、レベルデザイナーと同期しながら作り進める必要がある。プロジェクト規模や会社によって守備範囲は異なるだろうが、少なくともモデラーって程モデリングに専念するわけには行かない。

今後はHoudiniなどのようなツールでプロシージャルモデリングで作って行くのも習得して行く必要があるだろう。

エンジン上でステージに盛り付けしていくような仕事と思った方が想像しやすいかもしれない。

・背景モデラー

昔なら背景も小分けになっていたから全部モデリングできた。でも今はゼルダの絵を見ても広大なオープンワールドな作りが主流になりつつある。

だからライトの焼き付けもゲームエンジン上で行うし、地形は形が決まらないとモデリングする訳にも行かない。もうDCCツール上で全部モデリングするって訳にも行かないのだ。

そうなって来るとエンジン上での作業の割合いが増えてくる。だから今の背景モデラーは背景プロップモデラーという呼び方の方が合っているのかもしれない。
だからエンバイロメントのような環境作りとは異なりものになってきている。


●原因・2

3D背景に求められるデータ内容が変わってきた。
広大なオープンワールド型が多くなり背景データ自体が別物になりつつある。

まず質感なしの地形と箱やコリジョン(当たり判定)を置いたレベルでゲームプレイを検証。その段階をレベルデザインという。
その次先からが背景の仕事になる。

昔は、外で作ったデータをゲーム上に配置して行くことが多かった。だからDCCツール上でのモデリングの腕自体が大事だった。
しかし今はゲームエンジン上で地形を作り、質感など仕込みの後で配置(ここは変わらない)、地面、植物など配置、ライティング、空気感出しと仕事は多岐に渡る。

ご覧のようにエンジン上の作業が多くなった。そのためモデルを1点1点DCCツールだけで作るようなデータ作りでは無くなってきた。
純粋なモデラーとしてのスキルだけだとゲームの背景制作が進めにくくなっている現状がある。

そのため、採用の際もモデリングのスキルだけではなくレベル制作のスキルを持ち合わせていないと採用がなかなか難しい。
まさに今、欲しいってスキルセットを持った背景の人材が少ないと感じてしまう。
それが背景の人員不足を感じさせる1番の要因になっている。


●原因・3

絵を作る構成力を求められるようになってきた。
要は、背景(レベル、マップと呼ばれる広範囲)を作る人のアートの素養が無いと務まらなくなって来たのだ。これは、原因・2に起因している面もありなかなか厄介。

昔なら背景のモデル制作に三面図など2Dの資料も多く作られたかもしれない。コンセプトアートもしかり。だから背景モデラーというモデリング専門職って考え方でも問題なかった。

しかし、最近はその状況が変わってきた。

・コンセプトアートをあまり描けなくなった

描かなくなったのではなくて「描けなくなった」なのは事情がある。
オープンワールドの広大なマップ、そこに点在する多くのオブジェクト…
どうコンセプトアートを起こして何アングル作れば3Dの人が困らないか。これを考え出したらコンセプトアートだけで数年過ぎてしまう。
何かの修行、しかもこれはかなりの荒行…

さすがにそれは現実的ではない。

なので、最近ではラフの3Dで背景の大枠を先行して作る。
そこにコンセプトアーティストがオーバーペイントする。
もしくは、コンセプトアーティストがラフな3Dも作ってしまう。
そんな感じでゼロから絵を描く機会が減っている。もちろん、キーになる重要なアングルなんかはちゃんとコンセプトアートは描く。
でもすべてを描くことはできないので、背景でもまったく手がかりのない箇所が数多くできる。こういう部分を埋めていく能力が背景の人に求められている状況だ。

そうなってくるとエンバイロメントデザインというのが重要。
主だった絵になる箇所は点々とあるが、その間は分からない。でもその分からない部分を資料や既存のデータを活用しながら点と点を結び線を描く。その積み重ねで線が面となりマップになって行く。
非常に都合のいい話しに聞こえるかもしれないが、それくらい機転を利かせた作り方ができないと難しい仕事になってきたのが現状だ。

■これからのゲーム背景

1つのモデルを作るという技術はもちろん重要。
それだけでもスカルプト、テクスチャリング、マテリアル作りとそれぞれの工程のために使うツールもあり多くの専門知識が必要だ。

ある程度、そういったモデル作りの経験を積んだらエンバイロメントアーティストとして徐々に自分の守備範囲を広げていくようなキャリアパスを作っていかないと状況は変わらない。

黙々と職人かたぎにモデルを作っていたい人もいるだろう。
それも否定しない。

腰を据えて1つの物を作るってこともいいが、それに固執せずに守備範囲を広げてみるのはどうだろうか?
せっかくゲームの世界に入って、絵を作る資格と技術を得たのならもっとゲーム作りに参加した方が絶対楽しいと思う。

プレイヤーにどんな道筋を進ませて楽しませるかってUXの観点で背景を作るって考え方にシフトしなきゃいけない時なのかもしれない。

これからゲーム業界の背景を作りたい人がこの考え方になってくれたら採用したくなっちゃうかもしれない。

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