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<実話>まっすぐ続く一本道を、どこまでもまっすぐ進もうと、友と約束した9歳の夏。

<はじめに>

筆者がアメリカに住み着いて、実に13年の月日が流れた。今となっては、渡米以前に抱いていた不安や、冒険心は落ち着きをみせ、一人の大人としての責任、仕事、アメリカ人の妻、様々なものに囲まれ、衣食住の安定を最優先に、日々を送っている。

そんな筆者が客観的に、なぜ自分が今、この様な人生を歩んでいるのかを考えた時、切っても切り離せない夏の思い出がある。小学校3年生の夏。冒険心、未知への好奇心。あの夏が、筆者の人生を、その後続く大冒険に駆り出させたのは、言うまでもない。

<好奇心への目覚め>

いたって普通の幼少期を過ごしていた筆者には、それ相応の友がいて、それ相応の時を過ごしていた。そんな中、9歳の時、同じクラスにいたオザキと深く仲良くなる。数少ない幼少期の記憶の中に、さんさんと光り輝く、親友オザキである。

一緒にサッカーをした。家に遊びに行った。お菓子をたくさん食べた。好きな女の子の話しをした。

そんなオザキと、夏休み、なんてことない道を歩いている時だった。オザキが、ふと

「この道ずっとまっすぐ行ったら、誰がいて、何があるんだろうな。」

電撃が走った。

自分が知らない世界に行ける気がした。
そこにはまだ見ぬ人が居て、まだ見ぬ世界が広がり、予想だにしない出来事が巻き起こる。異世界に行ける気がした。車にして30分でも、オザキと筆者にとっては、世界の裏側だった。

「オザキ!行ってみようぜ」

この目の前に広がる一本道を、まっすぐ自転車で、行ってみよう。ずっとずっとまっすぐ、ずっと遥か彼方まで。絶対、立ち止まらないで。

オザキも乗り気だった。

約束した。

ワクワクドキドキを追い求めて。知らない世界へ好奇心を持って。ずっとこの道を、永遠に、まっすぐ。

<いざ、一本道へ>

オザキは堅実な男である。

「食料が必要になる。お互いの貯金箱をこわして、ありったけのお金を集めて、食料を調達しよう。」

おのおの貯金箱を壊し、ありったけの小銭を集め、駄菓子屋さんへと向かった。長旅になる。うまい棒のほぼ全ての味と、異常な数の蒲焼きさん太郎を買い、準備は整った。

<いざ、まっすぐ>

自転車のかごに、たくさんのお菓子を積んで、オザキと筆者はスタートラインにたった。とにかく、この道をまっすぐ。人生、最初にして、最大の大冒険が幕を開けた。

家には、置手紙を置いてきた。「とおくにいきます。しんぱいしないで

自転車に乗り始めてまもない9歳の2人が、軽快に街を走っていく。ずっとずっと、まっすぐ。
見たことのない街、見たことのない風景。すべてが新鮮で、とてつもない自由を手にした瞬間だった。とにかく、自転車をこぐ。その先へ、もっと先へ。

途中、自転車を止め、うまい棒を食べる。まだまだお菓子はいっぱいある。これで、当分は大丈夫だ。もっと、もっと先へ行こう。

そんな大冒険が続いて、おそらく3時間くらいがたった頃だろう。

<決裂>

オザキが立ち止まった。

どうしたオザキ?喉が渇いたのか、お腹がすいたのか。いっぱいお菓子はあるよ。コーラも買えるよ。僕のやつ、あげるよ。

そんなオザキが、衝撃の一言を放つ。

俺、帰るわ

...…...…

悲しかった。約束した。一緒に、ずっとずっと向こうまで行くんだ。約束したんだ。

必死で引き留めた。まだまだ、もっと先へ行ける。冒険がしたかった。ずっと一緒に、もっと先へ。それでもオザキの考えは、変わらなかった。

俺、帰る

怒った。怒り狂った。「お前、絶対許さないからな!!約束しただろう!」

そんな言葉を叫んでいたと思う。

必死の言葉もむなしく、オザキはもと来た道をまっすぐ帰っていった。

一人、知らない場所で取り残された。

意地だった。僕は絶対見てやる。もっともっと先にある、知らない世界を見てやる。

半分に減ったうまい棒をかごにつんで、一人だけの旅が始まった。まっすぐ、まっすぐ。

怖くなった

そして、泣いた。

さっきまでいたオザキが居なくなり、不安が襲ってきたのである。怖くて怖くて。

ダメだ、僕も帰ろう

そう思った瞬間、全力で自転車をこぎ、もと来た道を戻った。悔しくて、怖くて。

何とか家にたどり着いた。玄関を開けると、置手紙を見ていたであろう母がすっ飛んできた。時刻は夜8時くらいであっただろう。

母はその後、口をきいてくれなかった。そして、

父が帰ってきた。

ぶっ飛ばされた。

<夏の終わり>

夏休みが明けた。オザキと教室で会ったが、何も言えなかった。その後もオザキとはギクシャクした感じで、時間を過ごすこととなってしまった。

それから約1年後、筆者が転校することとなり、たくさんの友が悲しんでくれた。オザキはあの時、どう思っていたんだろう。

<まだ続いていた大冒険>

その後筆者も成長をとげ、社会を学び、人間関係を学んだ。その中で、どうしてもやり残した大冒険がある。あの夏の日に感じた、大冒険。そこにはまだ見ぬ人が居て、まだ見ぬ世界が広がり、予想だにしない出来事が巻き起こる。そんな異世界に行きたい。この道を、ずっとまっすぐ行きたい。

それはどこだ?

<渡米決断>

どうしても、ずっと行きたかった場所があった。アメリカに行こう。ずっとずっと、アメリカの音楽が好きで、映画が好きだった。高校生の時、アメリカでのホームステイを経験し、以前から想いは日に日に強まっていた。あの9歳の夏の日、泣きながら引き返した道の先には、アメリカがあったのだ。

あの夏の続きを。見たこともない、一本道を。とにかくまっすぐ。

そして渡米後13年が経った。昔より、ちょっぴり道の先が事前に見えるようになり、道を逸れそうになる時、支えてくれる人が隣にいる。まっすぐ進む中で、行き止まりがあり、少しだけ引き返したり。自転車から車に乗り換え、移動スピードも格段に速くなっている。それでも、あの夏の、オザキと進んだ一本道は、今でも目の前にまっすぐ広がっており、これからも、期待に胸を躍らせながら、進んでいくのだろう。

一生の夏の思い出である。

<大切な人へ>

" 妻に一言 "
一番の感謝と愛を。貴方が、異国の地アメリカで、僕のすべてを受け止め、愛してくれました。貴方に出会うために、あの9歳の夏、一本道を自転車で走っていたのかもしれません。あの一本道は、貴方に続いていました。愛しています。

" オザキに一言 "
オザキ、元気?会いたいよ。見てるわけないのはわかってるよ。でも、ここで勝手に言わせてくれよな。
全然、許してるよ。
いつか再会できたら、一緒に、酒、飲もう。

僕たちは、冒険家だ。


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