最後までステージに立っている
街の空気感が変わった。動き出した。
思ったよりも熱気がある。
待機することが多かったから、この活発さに戸惑う。
自分は乗り遅れたんじゃないか。
そんなことを感じながら、いつものカウンターに着き、一杯。
ガージェリーは、ブランド名、ロゴのデザインなどに様々なメッセージが込められており、一杯のビールが、飲み手に何かを語りかける。そして、いくつかの要素の中でも、最も雄弁なのがガージェリーのオリジナルグラスである「リュトン」だと思う。
リュトンを持ち上げたとき、台座の穴の底に刻み込んである何かに気づき、これはいったい何だろうと、スマホでGARGERYサイトを調べ、「鍛冶の神ゴブヌ」だと知るかもしれない。もしくはバーテンダーが優しく”したり顔”で教えてくれるかもしれない。
ブランドシンボルであるケルトの鍛冶神ゴブヌは、エールを醸造し宴を主宰したと言われている。そしてそのエールには不老不死の秘術がかけられていたそうだ。
なるほど、と思いながら、ひと口、ゴクリ。
そういうブランド然としたことではなくても、例えば、台座の穴に差し込まないと立たないこのグラスは、きっちりグラスを置けないほど〝お酒に飲まれない〟ようにしなさいよ、と言っているのだな、と思うかもしれない。
うむうむ、今晩は気をつけようと頷きながら、ひと口、ごくり。
あれこれと想いを巡らせているうちに、もしや、最近いろいろ迷っている自分に、立ち返るべき場所はどこだろう?と問いかけているんじゃないか…
ドキリとしながら、ゴクッと、もうひと口、
そして、リュトンを台座に戻す。
話は変わるが、ビールはしっかり冷やして飲む、場合によってはキンキンが美味しいというイメージが一般的だ。一方で、ガージェリーは時間をかけて温度変化による香味の変化を楽しみながら飲んでもらいたいビール。最初のひと口はもちろんだけれども、むしろ最後のひと口の美味しさを楽しんでいただきたい。
だから最後のひと口の液体は、魅力的に輝いていて欲しい。四角いガラスの台座に載ったグラス。残ったわずか数ミリのビール。なぜ台座もガラスで透明なのか、わかってもらえると思う。お店の光が台座の中を反射して、ビールを照らす。
そう、最後のひと口まで、いや、最後のひと口こそが、
ステージに立ち、輝いている。
いろいろあったけれど、
まだ舞台に踏みとどまれ。
きっと君は輝く。