ひとつの信条、二つの“かたち”
お客様から、瓶のガージェリーの中味を樽に詰めたのが、ガージェリー・スタウトとガージェリー・エステラなのかという質問や、ビアバーなどからエックスエールの樽はないの?という問い合わせをいただくことがある。多くのビール会社は同じ中味のビールで瓶商品と樽商品をラインナップしているので、無理のないことではある。ただ、醸造所でタンクから容器に詰めた後の時間と環境についてこだわりを持ったガージェリーは、瓶商品と樽商品の中味を敢えて変えている。いや、変えているというよりは根本的に成り立ちが異なる商品なのだ。
樽ではなく、瓶である理由がある
2002年に樽詰のガージェリー・スタウトだけでスタートしたGARGERYブランドは、2009年に瓶商品のガージェリー・ウィートを発売するまでは、製造直後のおいしさを届けるために、頑なに樽商品にこだわり、樽詰めだけのビールとして飲食店に紹介していた。
当然「瓶はないの?」という質問をよくいただくことになる。樽詰ビールは什器の問題、販売量の問題など様々な理由で取扱いが難しいけれど、瓶ならば入れてみたいというお店は少なくない。ガージェリーは、バーやレストランなどの”ビール中心ではない業態”での取り扱いを目指していたこともあり、瓶商品を出せば、取扱店を増やしやすくなることはわかっていた。けれども樽の中味をそのまま瓶に詰めることはできない、絶対にしない。何故なら、樽に詰めた翌日に冷蔵便でお店に届くことを約束するという、他に例をみないレベルでコンディションにこだわった樽詰ビールとして上市したガージェリーのポリシーを否定してしまうからだ。毎日、注文いただいた数だけ瓶詰めして出荷するというのは、さすがに製造効率的にあり得ず、瓶詰めをする以上は在庫を持つことが前提になる。
瓶詰めしながらも、ビールのコンディションへのこだわりを薄めることのない方法は?という自らに対する問いの回答が「瓶内熟成」だった。
瓶商品には瓶商品であることの理由をきちんと求めたのだ。
熟成タンクとしての瓶
ビールは、瓶でも缶でも、そして樽でも、程度の差はあれ容器に詰めたときから酸化が始まる。これは一般的に香味の劣化を意味する。この酸化を防ぐ手段は二つ。
容器内に酸素を入れない
容器内の酸素を除去する
このうち、容器内に酸素を入れずに詰めることについては、高価な設備の導入やオペレーションの工夫で減らすことはできてもゼロにすることは不可能。やれることはやる。ここで特に僕らが目をつけたのが2番目の「容器内の酸素を除去する」ということだ。そのために酵母の力を借りることにした。つまり酵母も一緒に瓶詰めする。酵母には強い還元力がある。呼吸で酸素を消費すると考えてもらうと分かりやすいと思う。生きた酵母が瓶内にあることで、多少の酸素は酵母によって消費され、その酸素によって起こる酸化が抑制されるというわけだ。
発酵が終わった直後のビールを瓶に詰める。発酵直後で多くの酵母が沈まずにビール内を漂っている状態、つまり酵母濃度が高い時期に瓶に詰めるということは瓶の中が熟成タンクと同じ環境になるとも言える。ガージェリーの樽商品は非常に長いタンク内での熟成期間を確保しているが、これを熟成タンク内ではなく瓶内で行おうと考えたのだ。その結果誕生したのが、賞味期限表示3年という瓶内熟成ビールとしてのガージェリーだ。
信条を貫くために、“かたち”を変える
樽詰のガージェリーは、スタウトは100日以上、エステラは60日以上かけてタンク内で発酵・熟成し、いざ出荷して、お店へ届けば、早々に消費されることを前提としている。一方、瓶詰のガージェリーは、瓶詰の後60日以上熟成させてからお店へお届けし、さらに1年、2年と熟成させる可能性も含めて商品設計をしている。
このように、製造プロセスも出荷後の扱われ方も違うので、樽商品をそのまま瓶に詰めるのではなく、瓶内熟成に合ったレシピを開発するというのは極めて自然な考え方なのではないかと思う。
具体的に、樽詰のガージェリー・スタウトと瓶詰のガージェリー・ブラックを比べてみると、どちらもスタウトビールだが、瓶は樽よりも長期間保存される、つまり、より長く熟成される可能性が高いと考え、ホップの使い方を変えている。ガージェリー・スタウトにはアロマタイプと呼ばれる香り重視のホップを中心に使っている一方、瓶詰のガージェリー・ブラックでは、苦味重視のビタータイプのホップを100%使用している。ホップの使用量が多いと、長期瓶内熟成する間に、意図しない余計な香味の変化が起こりやすくなると考えたからだ。そのため、同じ苦味を付ける際に使用量を減らせるビタータイプのホップを選んでいる。だから、2つのビールは、ホップが違い容器に詰めるタイミングも違う、異なるスタウトビールなのだ。
樽のガージェリー・スタウトとガージェリー・エステラ、瓶のガージェリー・ウィート、エックスエール、ブラック。GARGERYは、樽と瓶、二種の容器において、それぞれ独自のこだわりを持っている。ただ、お店でお客様が召し上がる瞬間のビールのコンディションに思いを致しているという意味では全く同じ、ひとつの信条のもとに創られ、造られている。