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最後まで読むと仕掛けがわかる文章3


ああ……なんとかやり過ごせた、鉄球から。

道をもうスピードで転がってきたのでもうダメかと思ったら、間一髪、真横に空洞があって、サッカーのゴールキーパーよろしくトゥああ~っとジャアアンプしたのだ。そこは誰かさん家の駐車場だった。もしシャッターが閉じていたら、閉店ガラガラしてたら今ごろ鉄球の下敷きだ。何でもないスペースがこんなに大事だとは思わなかった。駐車場ぉぉ~ありがとぉぉ。おれは感謝のしるしにチップを置いた。

鉄球は次々と建造物を突き倒していった。
駐車場から出てみると、電信柱が倒れて道をふさいでいた。ここからはもう鉄球の姿は見えないが、ごろごろと地面を転がり、何かにぶつかる音は聞こえてくる。あの鉄球は標的と接触するまで止まることはない。たとえ上り坂でもすいすいのぼっていく。追われたら最後、クリア不可能な鬼ごこっこをさせられるハメとなる。

いつの時代からあんなものが現れ始めたのだろう。そもそもは服務規程に違反した役人や政治家を罰するためにつくられたもので、以前であれば、せいぜい殴り飛ばされて終わりだったのだが、それくらいでは政治の腐敗を止めることはできなかった。とある天才科学者が人生を賭してつくりあげた、あくまでも正義を建て前とした、反体制の象徴だった。この鉄球のおかげで、政治は浄化され、国は大幅に改善された。
しかししばらく平和な時代が続いた後、鉄球は悪用されてしまい、殺戮マシーンと化し、国は再び混乱の時代におちいった。

今となっては、権力者が自分にとって都合の悪い存在を自分勝手に消す道具として使われているため、標的にされた人間はその理由はもちろんのこと、選ばれたことさえも事前に知らされることもなく、突然鉄球に追われることとなる。いつ標的にされるかわからない国民に気が休まる暇などない。

そんな中突然、携帯電話が鳴った。弟分からだった。
「アニキィ~! やべぇことになった。あの鉄球がどうやらアニキを追ってるみてぇだ。ネットでターゲットを調べたら、アニキの顔写真がのってる」

そういえばターゲットが決定されると、その人物が国のサイトにのることになっているのだ。もっとも、掲載された時点で死んでいることも多いが……。

「あん? 何を言い出すかと思えば……つまんねぇウソつくんじゃねぇよ」
「ウソじゃねぇんだって! だって鉄球襲ってきたろ?」
「いや、きたよ、きたけどサ。通り過ぎていったよ? あれはおれ狙いじゃあないんだよ。本命は別にいるな」
「アニキ! 今すぐサイトを確認するんだ!」
「なんでおれがそんな面倒なこと……ん?」

なんか、音がした。ゴゴゴゴって地面が揺れるような。あれ? 地面揺れてないか?

「どうしたアニキ⁉」
「いや、そのサ、向こうから音がするなぁって」
「そっから逃げろぉぉぉ」

「きたぁぁぁぁぁ~」あいつだ。坂を上って追ってきた。もう一度、この駐車場の空間でやり過ごそうか? だがこのままここにいたら建物ふっとぶことは目に見えていた。おれは出せる限りの力をふりしぼって走った。

このままじゃ追いつかれる。が、目の前に川がある。あそこにとびこめばあいつも追ってこれないのではないだろうか? よぉしやってやる。おれは携帯から弟分に話かける。

「おい! 今からあの球と駆け落ちしてくるわ」
「ちょっ、アニキ何をいって――」

携帯を投げ捨てて川にダイブした。流れが急でおぼれそうだった。
なんとか大木につかまり様子を見ていると、あいつの姿は見えなかった。後は、川を下って海まで流れつけば国外に出られるかもしれない。そうすればこっちの勝――

ザッパアアアーンとものすごい水しぶきとともに、あいつが降ってきた。まったく動けないかと思いきや、水の流れとともに勢いをましてる。

「おいおい……どれだけおれのことが好きなんだよ」

だいぶ川を下ったが、またしても追いつかれそうだった。とにかく落ち着いて前を見ろ、見るんだ。
なんと前方は滝になっていた。落ちたら死ぬのは確実だ。その前に飛び移ろう、もう一度あのスーパージャンプを見せてやるのだ。迷ってるひまはなかった。大木の上に立ち、サーフィンのごとくバランスを取りながら、ついに――

じゃあああああんぷ

木の枝になんとか飛び移った。その数秒後にあいつがものすごい勢いで流れてきて、底に落下していった。

ああなんとか生きてる……命からがらってヤツだ。おれはその場に寝っ転がっていた。とにかく疲れていた。どこか休める場所にいこう。
しばらく休むとおれはなんとか立ち上がって、森の中へ歩いていった。

へとへとで途中倒れかけたが、一時間くらい歩くと、建物が見えた。屋根は黒く大きな三角形で、古い木造の寺のようだったが何十年、いや何百年も前からあるような――古寺である。
中に人がいるかどうかはわからなかったが、とにかく休ませてもらいたかった。

もうろうとした意識の中で、例えば綺麗な尼僧が出てきて、とても優しく至れり尽くせりの一晩を過ごさせてもらって、夜寝てたら実はその尼僧が化け物で、おれは喰われる……といった何の昔話のパロディーにもならない事態だけはいやだなと思った。それだったらいっそここで眠――


その後のことは覚えていない。






さて、いかがだったでしょうか。辞書からランダムに選んだ言葉で文章を書く3でございましたが、今回の言葉は

遣(や)り過ごす 突き倒す 時代 服務 殴り飛ばす 弟分 言い出す 駆け落ち 古寺 パロディー

でした。今回は書きだすと意外と話が膨らんで、文字数も多くなりました。
パロディーが特に難しかったため、あのような強引にはめこむ形となりました。ちなみに、鉄球はなかったっていうね。

物語としても、もっと長くできたというか、ストーリーが完結しないままあのような終わり方となりました。しかしこれがルールであります。


下手くそな文章ながらも最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!






確実に続けていますので、もしよろしければ!