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東京に溶け込む

東京でフリーターをやっていると、同じようにフリーターをやっている人と関わる機会が自然と多くなる。

「女優を目指してるんです」
「劇団員になりたくて」
「音楽で飯食えるようになりたいんです」
「○○さんは何目指してるんですか?」

世間の人たちはみんな、フリーターと聞くと何かしら夢を持っていて、その夢を追いかけるために仕方なくフリーターをやっているのだと思い込んでいる節がある。

確かに目標を持ってフリーターをやっている人は多い。
私が出会ったフリーターたちも、みんなそれぞれ夢を持ってその夢を叶えるための過程だとキラキラした目でアルバイトをしていた。

かつて私もその一人だった。

「この職業に就きたい」その一心で勉強した。
そして夢は叶い、憧れの職業につくことができた。
これから自分が思い描いていた素敵な人生が始まる。
そう思っていたが、現実はそんなに甘いものではなかったようだ。

夢を叶えたあと、人はどう進んでいいか途端にわからなくなる。
継続していくことは夢を追って進んでいくことより難しい。
数年後、体の不調とともに私の夢はあっさり終わりを遂げた。


叶ってしまったら、それはもう夢ではない。ただの現実だ。
今思えば、叶わない夢を追いかけていた頃が一番楽しかったような気がする。
夢を追いかけてアルバイトをしていた時の自分が好きだった。

その頃に比べて、今はどうだろう。
仕事を辞めてからストレス解消と称して朝から晩まで飲み歩き、好きなものを買って遊んで、今までできなかったことを好きなだけ、思いっきりしていたらいつの間にか貯金が底をつきそうになっていた。自業自得だ。そして生活していくために仕方なくアルバイトを始めた。
これといった夢や目標があるわけではなく、生活維持のためのアルバイト。
夢に向かって必死に勉強していたあの頃の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか。


「◯◯さんは何を目指してるんですか?」


うるせえよ。
何を目指してるかなんてわかんないよ。
目指していた職業に就いたものの、結局思い通りにいかなくて体の不調を理由に自らの手で手放した。
これで夢が叶ったなんていっていいのかは結局わからない。
それでも、なりたかった自分になれたはずだったのに、結局それを手放したのも自分だった。
一瞬でも叶ってしまった夢はもう夢じゃない。
今後どうなっていきたいかなんて自分が1番知りたいことだ。


昔なんかのドラマで言ってたこの言葉

「東京は夢を叶える場所じゃない」
「東京は夢が叶わなかったことに気づかずにいられる場所だよ」


このドラマがやっていた頃、私はまだ何も知らない田舎暮らしの学生だった。
東京に憧れを持ち、将来は必ず東京に出ると漠然と思っていたあの頃。
東京で暮らし始めて6年が経った今、この言葉の重みがわかる。
何かに一生懸命でいられればそれでよかった。


継続してその職業に就き続けることを”夢が叶った”というのなら、私は夢が叶わなかったことに気づかずに今も東京で暮らしているだけなのかも知れない。


そんなことに気づかないふりをしながら、今日も何食わぬ顔で東京に溶け込んでいる。



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