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消化器内科編 肝疾患 - 紹介ver -

 急性期総合病院に勤務している理学療法士が、臨床の実際や、診療を通しての発見をお伝えしていきます。

 本編は、紹介編と実践編に分けてご紹介させていただきます。

 今回は、消化器内科編として、肝疾患患者の診療経験をご紹介します。

【はじめに】

 肝臓疾患のリハビリ・・・といっても、あまりイメージが沸きにくい分野だと思われます。養成校においても、内部疾患といえば呼吸リハ、心臓リハ、糖尿病リハは学びましたが、肝臓リハビリについては学んだ記憶がございません(寝ていたのかな?)

 これまでは、肝臓領域のリハビリの需要は低い傾向にありました。その背景には、運動により肝血流は一過性に減少することが分かっており、肝機能障害を悪化させる可能性がありました。そのため、肝臓病には安静第一という概念が根強く、主治医によってはリハビリ=運動させることへの懸念を抱くことが影響していると思われます。

 しかし、近年、肝疾患に対するリハビリが注目されるようになりました。その要因として、過度な安静によるディコンディショニング、社会復帰遅延、QOL低下、運動耐容能の低下と死亡率の関係性が明らかとなったことが挙げられます。特に、非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver disease:以下NAFLD)や非アルコール性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:以下NASH)では、運動療法と食事療法は治療の基本となってます。また、
 肝血流減少の問題においては、運動負荷により肝血流自体は減少するも、よほどの高負荷でない限り、肝血流からの代償的酸素取り込みの増加により、肝障害を来すほどの酸素欠乏は生じないことが分かり、運動療法の有効性と安全性が認められました。

【肝疾患の基礎疾患】 

1.ウイルス性肝炎 2.自己免疫性肝炎 3.原発性胆汁性肝硬変 4.アルコール性肝障害 5.NAFLD  6.薬剤性肝疾患

NAFLDは、肥満者の58~74%に認め、単純脂肪肝とNASHに分けられます。NASHは、肝細胞への脂肪沈着を基盤に、遺伝的素因、酸化ストレス、サイトカイン、インスリン抵抗性の因子が加わり、炎症性細胞浸潤、肝細胞の変性、壊死、線維化を来す病態であり過食、高脂肪食のような食生活の欧米化や運動不足、ストレス過多により肥満、糖尿病、高脂血症や高血圧の生活習慣病が増加し、NASHは10年の経過で約20%が肝硬変へと進展し、時に肝細胞癌をも発症する進行性疾患であると言われております。

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図-1 引用:Pure Medical attitude HP

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【肝疾患における運動療法の目的】

1.肝疾患に至った原因に対する運動療法

 図-1の脂肪肝の原因である肥満をはじめとしたメタボリック症候群の改善を目的としたリハビリ。メタボのご紹介は、また別の機会に。

2.慢性肝疾患に対する進行予防や予後改善のための運動療法

 C型肝炎ウイルスは、ウイルスそのものが原因で、インスリン抵抗性による耐糖能異常、脂質代謝異常、鉄代謝異常を惹起し、その結果、肝臓の線維化や発がんリスクを高めると言われております。

 慢性肝疾患の終末像である肝硬変においては、肝細胞の壊死や門脈大循環シャントにより糖代謝異常(低血糖、高血糖)や、高アンモニア血症となる蛋白不耐症などの代謝異常が起こります。これらの糖・蛋白代謝異常により、蛋白エネルギー低栄養となりサルコペニアに至ります。サルコペニア状態にある患者は、肝硬変、肝がん、肝がん切除後および生体肝移植後の予後が不良であることが報告されており、特にbody mass index(BMI)> 25のサルコペニア肥満の症例では顕著であることが明らかとなっているそうです。

上記より、インスリン抵抗性や耐糖能異常の改善、サルコペニアに対する運動療法が肝疾患の進行予防、予後改善に重要であると言われております。

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図-2 引用:エーザイの肝疾患サポートサイト

【肝硬変に対する運動療法の効果】

研究⑴

 肝がんを有しない代償性肝硬変患者に対し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の補充を行いながら嫌気性代謝閾値(以下AT)の運動強度を基準に週140分を目標としてステップ台昇降運動を自宅で12カ月間実施。

 その結果、体重、内臓脂肪量、筋肉量、肝機能などには有意な変化はなかったものの、AT を表す乳酸閾値は全例で上昇し、さらに平均血糖の指標である糖化アルブミンは有意に低下

 これらは、肝硬変患者であっても安全に運動療法は施行可能であることと、健常者と同様に有酸素運動能が向上すること、さらには糖代謝異常が改善することを示している。

 注意すべきことは、肝硬変は低アルブミン血症や蛋白不耐の病態であり、運動により蛋白異化を助長する可能性があるため BCAAの補充は必要不可欠であるということ。引用文献:Jpn J Rehabil Med 2016;53:839-844

研究⑵

 Smartらはシステマティックレビュー―とメタアナリシスを行い、10000kcal以上の運動消費カロリーで肝脂肪、FFA、インスリンレベルが低下すると報告。引用文献:Jornal CLINICAL REHABILITAION Vol29 No.1 2019:17

研究⑶

 NAFLD/NASH診療ガイドライン2014(日本消化器病学会)では、「運動療法はNAFLD/NASHに有効か」に対して、「運動による肝臓の組織学的変化は明らかになっていないが、運動療法単独でもNAFLD患者の肝機能、肝脂肪化は改善するため実施することを提案する」として、推奨の強さ・エビデンスレベル:2(100%)(弱い推奨)・B(中等度のエビデンスレベル)としていると報告。引用文献:Jornal CLINICAL REHABILITAION Vol29 No.1 2019:17

 肝疾患患者のリハビリテーションは、生活機能やQOLの改善のみならず、治療や生命予後改善としての意味合いで期待され、今後、益々需要が高まる分野になると思われます。

 実践編では、肝疾患患者の病態把握、評価、臨床経験の報告をします。
 是非、興味のある方はご覧ください。

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