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映画『今夜、ロマンス劇場で』覚え書き

「これは、映画館で見るべきだった!」

 そう思わされる映画は少なくない。

 特にこの『今夜、ロマンス劇場で』は、「映画館」のことを強く意識させられる一本だった。

 

 物語は、助監督として走り回る、ドジな青年の前に、彼が大好きな映画に登場する王女がモノクロの姿でスクリーンから抜け出てくる、という話。

 この綾瀬はるかさん演じる王女が、女優の幽霊ではなく映画の登場人物である「王女」そのもので、自分が「架空の存在」である、ということを知っているのが面白い。

 フィクションから現実にキャラクターが出てくると、自分のいた世界のルールに則って振舞おうとする。が、「映画の登場人物」と、自分が「作り物」であることを知っている点がまず独特。

 彼女にとっては、自分も含め、「色彩のない白黒の世界」が当たり前で、色彩にあふれる「現実」の世界に心を躍らせていく。

 ドロップ。ペンキ。空。虹。そして、行く先々で見る風景。

「世界はこんなにも綺麗だ―――」

 と思わずにいられない。

(特に、夜の藤棚のシーンが幻想的で美しい!)

 しかし、彼女には、一つ秘密があった。

「人のぬくもりに触れると消えてしまう」という。

 だから、青年と心を通わせていったとしても、触れ合うことができない。辛い時に傍に寄り添う事ができない。転んだ時に手を差し出すことも、抱きしめ合うこともできない。

 当たり前のようにできることが、彼女にはできない。

 しかもその「禁忌」が、私たちには当然すぎて、普段あまり意識しない物事。

 だからこそ、余計に胸に迫ってくるものがある。

「見つけてくれてありがとう」

 青年がいなかったら、彼女は映画ともども忘れられて、埃を被った存在として闇に埋もれていた。

 

 どうかこの映画は、埋もれずに、何年たった後でも見ていてくれる人がいますように。

 映像も美しいし、内容も笑える前半から、恋が高まる中盤、そしてクライマックスへ、とグラデーションのように微妙に調子が変化していくのが自然に見る事ができ、面白い。

 まだ見ていない人は是非に。

 そして、いつか名画座でもどこでも良いから、大きなスクリーンで見られる機会に巡り合えますように。

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