読書日記~ハーディング『ガラスの顔』

フランシス・ハーディング『ガラスの顔』を読了。
イギリスの作家さんによる、異世界ファンタジーで、作品を読むのは初めてになる。

舞台は、地下都市カヴェルナ。
数百年の時を生きる大長官の支配のもと、人々は、表情を持たず、「面」と呼ばれる作られた表情をつけて、生活している。
そんなカヴェルナの中では、「異端」とも言うべき特性を持つ少女ネヴァフェルが主人公。
チーズ職人に育てられた彼女は、好奇心旺盛で、外への興味を抑えきれない。ある日、こっそり抜け出したのをきっかけに、カヴェルナ全体を揺るがす陰謀に巻き込まれていく・・・

読みながら、ファンタジー小説というジャンルについて考えた。
日常に窮屈さを感じて、そこから出ることを渇望する主人公。
しかし、やむをえずにせよ、自分の意思にせよ、外に出た途端、否応なしに押し流され、「日常」から引き離される。
自分の「異物」性を目の当たりにし、時には生命の危険も味わいながら、様々なイベントの中で成長していく。

ざっくり筋を抜き出してみれば、王道中の王道。
土台となる世界観の作り込みや、キャラクター作り、仕込んだ伏線をどこまで引っ張り、回収するか・・・
色々と勉強させられる要素が多い。
章ごとに必ず、なにがしかの事件が起こり、変化があるので、読み進めずにいられない。
その土台となる「世界」が、しっかり作り込まれているからだろうか。
地下都市、という設定。
景観や、政治体制、階級格差などの描写。
チーズ職人の養父と主人公の「日常」など。
どこも綿密に書き込まれている。
特に、「日常」生活を最初に詳細に書くことで、「外」に出てからの描写との間にコントラストが生まれる。
また、主人公は、物語中で、陰謀うずまく宮廷や、上流階級の暮らし、労働者たちの居住区など、あらゆる場所を経験する。
彼女の目を通して、私たちも、一つの国の成り立っている様をじっくりと見つめることになる。そして、都市全体に関わる陰謀についても。

この本に出会えて、本当に良かった。
作者の他の作品も読んでみたい。

この記事が参加している募集

#海外文学のススメ

3,231件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?